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「ただいまー」

「おかえりなさい。ミーシャ、ライくん」

「おかえり、足りないもん全部買えたか?」

「うん、多分大丈夫ー」



夕餉の良い香りが漂う家に帰宅し居間の扉を開ければ母であるニナと父であるカーターに迎えられる

ミーシャが相槌を打ちながら居間へ足を踏み入れれば後ろからフードを外したライが頭を下げて入ってくる

それにすかさず指摘したのがカーターだ


「ライ。家に入ったら言うことがあるだろ?」

「あ?………邪魔するぜ」

「どこの破落戸だ、そりゃあ。帰ってきたら先ず『ただいま』だ」


カーターの指摘にライは瞳を瞬かせると目元を僅かに赤らめ小さな声で「………ただいま」と応えた


その言葉にミーシャは微笑みカーターも満足そうに頷いて「おかえり。良いのあったか?」と芯の通った声を柔げる

それにライが返事をしようと口を開けばその前にニナが「おかえりなさい、ライくん」とライの目の前に立った


その近さにライは瞳を瞠り僅かに仰け反っていたが娘であるミーシャと夫であるカーターにはこの後の展開が読めてしまい笑いを堪えるために必死に口腔を噛み締めた


「…………ただい、ま」

「おかえりなさい」

「は?………あぁ」

「おかえり」

「………何だってんだ。ただいま、で、…いーんだろ」

「えぇ勿論。おかえりなさい」

「…………」



ニナはひたすら迎える言葉を繰り返しミーシャに似た整った顔には柔らかい笑みを浮かべている、いるのに、何故か圧のようなものが滲み出ていた、それはもうライが一歩引くほどに


眉を顰め金の瞳を彷徨わせているライにミーシャは笑いを噛みしめながらそっと手を差し伸べることにした



「ライ、お母さんのこと呼んであげて」

「は?」

「今朝からライに呼んでもらうの楽しみにしてたの」

「はぁ?」


ニナを目の前に一応小声で述べてみたミーシャだがニナは例えその密談が聞こえていたとしても同じようににこやかに圧をかけながら待機していることだろう


思わぬことを言われたライも柳眉を寄せ怪訝そうな表情になるが目の前の圧に耐えきれなくなったのか口元を痙攣らせてニナに向き直る



カーターへ向けていた時よりも更に顔を赤くしながら頸に手を当て項垂れつつボソッと低く通る声を落とした






「た、だい、…ま…………………………………奥、さん」

「まぁ!!!!!!うふふふふっ、えぇおかえりなさいライくん。今日の夕飯は大盛りにするわね」

「良かったねぇ、お母さん」

「ぶわっはっはっはっ!!悪いなぁライ、今朝その話をしてからニナの奴ずっと待っててなぁ」



顔を真っ赤にさせ居心地悪そうなライを余所にニナは頬を染め嬉しそうに薄青色の瞳を輝かせながら両手を口に当てて喜び父子は楽しそうに笑っている

そんな家族を忌々しそうに睨みつけながらライは唸るような声を発した



「なんっで、ンなことで…」

「あら!愛してる旦那様の奥さんて呼ばれるのは嬉しいものなのよ?それにライくんに言ってもらえるなら尚嬉しいわ」

「意味わっかんねぇ…」


ニナが心外だというように言葉を返せばライは項垂れていた首をさらに下げて縛った髪が解けるのも構わずに後頭部を思いっきりガシガシと掻いた



その様子を愉しげに眺めていたカーターの「よしっ飯にするか!」との掛け声があるまでライは御尊顔を上げてはくれなかった





















「そういやぁ、さっきまでテッドが来てたぞ」

「誰?」



ダイニングテーブルを囲み舌鼓を打っていたところにカーターに視線を向けられたミーシャだったが該当する人物が思い浮かばず首を傾げてしまう

キョトンとした顔を返す娘にカーターは苦笑を浮かべる



「まだ覚えらんねぇのか、たった三文字じゃねぇか」

「今回の改装にも手を貸してくれてる方よ、以前からお店にも偶に来てくれてた。ほら、紺青色の髪の短い…」

「あぁ~…、って、え?なんで来てたの」

「そりゃあ、ミーシャがデートしてるつって落ち着かなかったんだろ」

「だから?」

「だから、ミーシャの帰りを待ってたのよ」

「げ」



繋がった話に最近寄越された似合わない流し目を思い出してしまったミーシャは眉間に皺を寄せた

そのまま口を尖らせて不満を両親に伝える


「なんで家にあげたの。さっさと帰ってもらえばよかったのに」

「そんな訳にもいかねぇだろ。今仕事を請け負ってくれてる相手に礼儀を尽くさねぇでどうする」

「そうだけど…」

「そんな顔しないの。あなたが嫌がるのがわかってたから帰ってくるまでにお引き取りしてもらうようお父さんが対応してくれたのよ?」

「そうなの?」

「そりゃまあ娘が嫌がる相手に態々会わすのもなぁ」


食べる手を止めずに当然のように言う父にミーシャは少し感激しつつ「ありがとう」とお礼を言えばいつもの鋭い瞳を柔らかく細めた暖かい笑みで返された



「まぁだから、次会った時に突撃かまされるかもしれねぇから覚悟だけはしとけよ、と思ってな」

「げぇ、めんどくさい」

「こら、女の子がそんな声ださないの」

「めんどくさいわママ」

「コラ」


態と畏って言い直すミーシャにニナは笑みを含ませながら注意した

そんな親子の会話が途切れるのを待っていたかのように動かしていた手を止め隣りに座るミーシャに視線を向けてライが口を開いた



「まだ誑かした男がいんのか」

「だから誑かしてないよ!」

「あー、ライも声は聞いたんじゃないか?店来たときに声デカい奴いたろ」

「あぁ…」

「そいつだ。まぁ声も動きもデカイが悪い奴じゃないぞ」

「へぇ」


カーターの説明にライは少し意外そうに返すとミーシャをしげしげと眺めた

その金の瞳に見られると簡単に鼓動が跳ねるのだから迂闊なことはやめてほしいと、ミーシャが頬を染めつつ戸惑い気味に問う


「な、なに?」

「おまえ、こんなにトチ狂った趣味してんのによくマトモな男が寄ってくんな」

「え⁉︎」

「おまえがイカれた好み言いふらしてんならそいつも知ってんじゃねぇのか?イカれてるってわかったら離れていきそうなもんなのにな」



頬を染めて乙女モードに入っていたミーシャだったが突然のライの暴言によって無残にも甘い空気は砕かれてしまった

その一部始終を目の前で見ていた両親は苦笑をこぼしカーターが口を開く



「ミーシャのはなぁ、本人は至って本気なんだが。自分に自信がある奴に限ってソレを男除けの方便だと思ってんだよ」

「なんでまた」

「想像できない奴より自分が劣ってると思わないからその方が納得しやすいんだろうなぁ」

「あぁ…」



カーターの歯に絹着せぬ物言いにライも納得したように頷くとその金目に憐憫の色をのせて気の毒そうにミーシャの愛する美声をおとした



「めんどくせぇ奴らばっかに言い寄られてんだな」

「…なんでそんな気の毒そうに言うの」

「まぁおまえがイカれてるせいだろうが」

「ねぇ!!」



(そんなに何回も言わなくても良いのに…!)


度重なるライの無情な発言にミーシャは怒りと不満に眉を顰め身体ごとライに向き直りお腹の底から不満を吐き出すように声を荒げた



「私が!イカれてても‼︎ライがッ守ってくれるんでしょ⁉︎」



「あぁ」

「へ?」

「ンなデケェ声出さなくても守ってやるつったろ。俺が側に居る時なら安心してろ」




不満と軽い嫌味をぶつけてライを動揺させるはずが特大極太の矢を心臓に射られてしまった


思わぬ反撃にミーシャは全身を真っ赤にさせ声にならない言葉を吐き出すように口を開閉することしかできない、まさか両親の前であっさり肯定されるなんて


突然の娘に向けられた口説き文句に父であるカーターは瞳を瞠り母であるニナも顔を赤らめ口元を両手で隠すがその瞳は爛々と輝いている



ただ一人、ライだけが



今まで自分のことを守ってくれる人物がいなかったためミーシャの『私が守る』発言には赤面したが自分が誰かを守ることに関しては何も恥ずかしく思わないねじ曲がった羞恥心を持つライだけが


【恋愛】がわからないため血縁関係のない女性を守るという発言が口説き文句と捉えられても仕方のないことを知らないライだけが



何故、三人が突然黙ってしまったのかわからず



只々、金の瞳を不思議そうに瞬かせていた















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