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「本当に何もいらないの?」
「あぁ」
「遠慮してるとかなら…」
「ちげぇよ、おまえこそ他に何もねぇのか」
「私?」
「俺のばっかじゃねぇか」
「バンダナ私も買うよ?」
「………なんでソレにすんだ」
「ライと私が刺繍されてるから!!」
「………ハァ」
新しく購入を決めた桶の中に手に取った商品を次々と入れていればその桶をライが持ってくれる
口が悪く中々ミーシャの熱い想いを真正面から受け切ってはくれないがライは本当に優しい
今もライの必要な物を聞いていたはずがミーシャの話になり、溜息を溢すが揃いのバンダナを購入することも拒否しなかった
度重なるミーシャの猛攻に諦めているだけかもしれないが許してくれているライの暖かさがミーシャにはたまらなく幸せだった
(ふふっ新婚夫婦みたい)
二人で並んで生活用品を新調するための品を選ぶ
互いの好みを聞きながらお揃いの物も購入する
ミーシャはこの幸せな時間を余すことなく堪能し無意識に鼻歌まで口遊んでいた
「えらくご機嫌だな」
「ライといるからね」
「昨日からいるじゃねぇか」
「だから幸せなの」
「……単純な奴」
「お手軽でしょ?」
「自分で言うか?」
軽口を言い合いながらお互いに笑みを含ませる
そろそろ支払いをしようかとミーシャがカウンターの方へ向かえば途中で髪飾りを置いてある棚に気付いた
その棚を見れば綺麗な飾りたちに胸躍るよりも家に帰った後の悲しい儀式を思い出してしまったミーシャは楽しかった気持ちが一気に沈静する
眉を下げ悲しげに棚を眺めるミーシャにライは訝しげに声をかけた
「いきなり静かになったな」
「……辛いこと思い出した」
「……………」
「家に帰りたくない」
「はぁ?」
まるで家出少女か情事の誘い文句のような言葉を溢すミーシャだがそれを言われたライはミーシャの視線の先に気付き呆れを大いに含ませた美声で「何を言うかと思えば…」と盛大に溜息を吐いた
既にミーシャの思考に慣れつつあるライには正確に言葉の意図が読み取れたのだろう、感化されたともいう
「ンな嫌か」
「嫌。……でも、短い髪も絶対似合う」
「なら「でも長髪がもうできないと思うと…!」
「我が儘かよ。おまえの髪じゃねぇだろ」
「私の髪ならこんな悩まないもん!」
「それもどうなんだ?」
女性としては問題のある発言だがミーシャとしては全く問題ない、ライの御髪のほうが尊いのだ
あと数日はこのまま粘りたい心積りのミーシャだが流石に理性を総動員させ死地へ向かう覚悟を決めた
すると視界の隅に何か光る物があることに気付く
気になり手を伸ばしてみるとそれは小さな鈴だった
ー リンッ
耳に心地の良い音を奏でる金色の鈴はミーシャの小指の爪ほどの大きさしかなく細い焦茶色の革紐に通してある
ソレを目にしたミーシャは自分の目が輝いていくことを自覚した
「これ…っ!」
「あ?」
「これも買おう‼︎」
興奮気味に手に持った物をキラキラした瞳で眺めるミーシャにライは思わずといったように小さく吹き出した
「っとに、よく変わる」
「ん?」
「ンな気に入ったのか」
「うん‼︎ライの色だよ!」
「は?」
可笑しそうに尋ねていたライだったがミーシャの言葉にまたもや固まってしまう
フードで隠した顔を微動だにせず困惑の声音をのせた美声が発せられた
「…だから気に入ったのか」
「うん‼︎」
「……おまえ、ほんッと、…いや」
「ん、何?」
「なんでもねぇよバカ」
「なんで⁉︎」
口元を手で覆い言葉を濁したライに問い返したミーシャだったが返ってきたのは悪口だった、なんでだ
「ありがとうございました」
店員の柔らかい笑みに見送られ店を出ると外は既に日が暮れ始め辺りは夕闇に包まれていた
家を出た頃には多くの人が行き交っていた道も今は帰路につく人が数名歩くばかり
その道をミーシャとライは並んで歩く
「すっかり遅くなっちゃったね」
「初っ端から奥さんの言いつけ破ったしな」
「あれは不可抗力だよ。怒られたらライも一緒に謝ってくれる?」
「おまえ一人で叱られてろ」
「そんな‼︎」
無情な言葉を放つライもその言葉に嘆くような声を出すミーシャもその顔には笑みが浮かんでいる
「うぅ~っ、じゃあ早く帰らなきゃね」
「……」
「ライ?」
「……そうだな」
僅かに顔を出している夕陽に照らされて二つの影が伸びる
ミーシャはその影に視線を向け二つ繋がっていることに笑みを深めながら歩みを僅かに早める
そしてライも、
ミーシャに手を引かれて初めて帰路についた




