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今まで通り過ぎて来た店よりも一回りほど大きい二階建ての建物の扉を開ければ「いらっしゃいませ」と声をかけられる


質の良い服を身に付けた店員が馴染みのミーシャに親しみのある笑みだけを送ってくれる


坊ちゃんとこの商会より小規模とはいえ堅実さと品揃えの多さに定評があるココでは間違っても男連れのミーシャに『カーーーーっ!!!』とは言わないのだ



商店として解放している一階をライと一緒に見て回る

いつも来ているお店にライと一緒に居るということがミーシャにはなんだかひどくくすぐったい



僅かに熱い頬と緩む口元を隠さずいれば目が合った店員に瞳を大きくされる

店員は二度ほど瞳を瞬いた後に微笑ましそうな笑みでミーシャとライを見つめるので恥ずかしくなったミーシャは今度はしっかり手の甲で口元を隠しておいた





「何買うんだ」

「えーっと、ライのバンダナと桶とタオルと傷薬と…。あと、ライの生活用品かな。ある程度は従業員がいつ決まっても大丈夫なように準備しておいたからライに必要な物があれば言って?」

「…………全部給料から引けよ?」

「え、なんで」

「なんでじゃねぇよ、全部俺のか俺が原因じゃねぇか」



確かにバンダナはライが厨房に入る時に使用してもらうものだし生活用品もそうだが後のものはミーシャ達家族も新居で使うものだ

タオルと傷薬も昨日使ってしまった分を改めて買い足そうと、そこまで考えミーシャは(あぁ、)と気付く



「昨日のタオルや傷薬は私が勝手にやったことだし桶は元々年季の入った物だったから今が丁度替え時だっただけだよ」

「いいから引け、どうせ金を使う予定もねぇし世話ンなったのもトドメさしたのも事実だ」


有無を言わさないライの発言にミーシャは困った

困ったのでそのまま胸の内を伝えてみることにした



「あのね?」

「あ?」


「もうライは身内同然って言ったでしょ?」

「は?」


「あ、もちろんお婿さんとしても迎えたいけどそれは一先ず置いといて」

「はぁッ!?」

「シーッ。お店の中だよ、ライ」

「~~ッ!!チッ‼︎」


フードで顔を隠しても動揺が手に取るように分かるライを完全にこんなところで不意打ちの逆プロポーズをかましたミーシャのせいではあるのだが一先ず宥め動揺させた張本人は握った手に少し力を入れる



「だから、ライだけが負担することはないんだよ」

「………」


「みんなで使う物なんだからみんなのお金から引けばいいと思うの」

「………」


「それでもライがお父さん達に遠慮して払いたいって言うなら私からもお父さん達に相談してみるね。ライに窮屈な思いをさせたいわけじゃないから」

「………」

「それでもいいかな?」



何も言わないライがどんな反応をしているのか気になったミーシャは抱き合える寸前まで近づき真下から覗いてみる

ライは眉間に何本も皺を寄せ口腔を噛み締めているかのようだった

そのまませっかく見れた大好きな人の御尊顔を堪能する

フードの中の薄暗さにあるライの金の瞳は夜空に浮かぶ月のようだとミーシャがウットリしてきたところでミーシャを翻弄する美声が擦れながら届いた



「おまえは……ほんッとに、馬鹿だな」

「そうかな?」


「あぁ。馬鹿で…………どうしよォもねぇほどの、お人好しだ」

「ふふッ、それはライから初めて聞いたな。私、優しかった?」


「………ばーか」



傷のある柳眉を下げるだけでこんなにも相手の胸を切なくさせる人もいないだろう

ミーシャは軽口で答えてみたけれど見上げた先のライが困ったように口元を震わせながら笑むのを見て意識をそっと逸らし瞳の裏の熱を誤魔化した




意識を逸らせば目の前の御尊顔を際立たせる色香溢れる焦茶の髪と月を思わせる金目に自然と魅せられる

この素晴らしくかっこいい人にどんなバンダナを付けてもらえばいいだろう、とミーシャは商品が置いてある棚を細かく確認し出した


突然薄緑色の瞳の中に怪しい光を携えて商品を漁り出したミーシャにライは下がっていた柳眉をピクリと動かす

不穏な空気を察知したのか一歩下がるもミーシャはガッシリ手を掴んで離さない

視線は棚の上を走らせながらライに問いかけた


「ライは何色が好き?」

「あ?」

「厨房入ってもらう時に必ずバンダナしてもらうの。衛生的なことと予備も含めて少なくても5枚は買っておきたいんだよね」


「…で?」

「だから、好きな色。何色がいい?」

「別に何でもいい」

「そんなこと言ったら全部薄緑色にしちゃうよ?」

「やめろ」

「即答傷付く」

「………おまえなぁ」



そんなことを言うミーシャだが未だ視線は棚の上

その真剣な瞳はまさしく狩人(ハンター)そのものだ

少し吊り上がった薄緑色の瞳が真剣に物色することでますます鋭くなっているのをライは呆れて見下ろした


「適当でいーだろ、色なんか。そこの5枚でいい」

「何言ってるの!!!」

「待て、わかった。俺は何でもいいからおまえの好きにしろ」


呆れを隠さずにミーシャの前に並んでた同色のセットを指差したライだったが勢いよくミーシャが振り返り抗議しだしたために、慌てて掴まれていない方の掌をミーシャに見せる形を取り静止を呼びかけた


突然のライのお許しにミーシャは瞳を瞬かせて首を傾げる



「じゃあ薄緑色選んでもいい?」

「………………………………全部はやめろよ」

「本当!?」

「あからさまなのもやめろ」

「わかった‼︎」



渋々ライが折れたことでミーシャは嬉々として視線を棚に戻した


ライにはどんな色が似合うだろうか黒は外せない絶対似合うでも明るい色も意外に似合うのかもしれない金糸が使われてるのも最高だ


並ぶ品々にミーシャが瞳を輝かせながら物色していればライが深々と溜息を吐く



しかし、ただひたすら嬉しそうにバンダナを広げライに当てているミーシャの様子にライは呆れながらもその金の瞳を柔らかく細めていた














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