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「え、それじゃあライさんがミーシャんちで新しく働く従業員になったの?あの住み込みの」

「そうなの‼︎」



売り物の服を広げながら会話を続けている女二人をただ眺める

先程からライの服を買うだけだというのにこいつらは様々な布を広げてはあーだこーだと言い合いその合間に互いの近況なども報告し合っている

口も手もよく動くなとライが呆れるほどに二人は止まる様子を全く見せない



「へぇー、良かったわね。ミーシャ迷惑かけちゃだめよ?貴重な戦力なんだから」

「かけないよ‼︎あ、ねぇコレの黒はないの?」

「あー、ちょっと待って」



彼方此方に変わる話題の内容によく話すことがなくならないものだとライは本気で思う


ライは服にこだわりなんてある訳もなく着れればなんでも良かったため“上下の服二枚とフード付の上着と仕事に必要な物“しか買うつもりはなかった


しかし、ライがそれを言えば猛反対したのがこいつらだ




服屋の女が反対するのは商品を売りたいがためだとわかるものの何故かミーシャが猛抗議にでた

あまりにも勢いが凄かったためライも好きにさせることにした、のだが


それからがまた凄かった



まずライの身体のサイズを測ると言い出しオーダーで作るわけでもないのにそんなの必要ないと言えばこれもまた猛反対された


めんどくさくなって好きにさせれば今度は測ろうとする服屋の女を押し除けたミーシャが本当に測るつもりがあるのかと思うような接触を謀ってきたのでライとの押し問答となり最終的に服屋の女がキレた


渋々ミーシャが譲り女に測らせればそのご丁寧な言葉にライは居心地が悪くなり敬語をやめることと呼び捨てでいいと女に言った

すると何故かそこからミーシャが不機嫌になりだしたので理由を聞けばミーシャ曰く『嫉妬の業火が狭い心を燃やし始める危険がある』という彼女お決まりの訳の分からない発言によって敬語だけ少し崩すという一悶着があった


それに大いに呆れた女が直後に特大の暴投を放った



『互いの色を身に付けて見せ付けてるうえにこんなことで嫉妬するなんてとんだバカップルね。ミーシャなんて全身で惚気てんじゃない』と



その時に初めてライは相手の持つ色を身に付けることが互いに親密であることを周りに示す行いだと知りミーシャもその時に初めて自分の全身がライの色だったと気付き二人して全身を真っ赤に茹らせた


そして髪紐を解こうとするライと拒むミーシャの押し問答がまたもや始まりライが負けたことでやっと本来の服探しが始まったのだ



既にライは辟易としていたのだが女二人は何事もなかったかのように元気に手と口を動かしている、タフだ


壁に寄りかかりグッタリとしているライを他所に女二人の会話は続く



「でも無事に安全性のある人見つかって良かったわね。ニック達は大分荒れそうだけど」

「誰だっけ」

「いい加減覚えなさいよ、みどりよ」

「あー、さっき見たよ」

「は?あいつまだミーシャのストーカーやってんの?」

「怖いこと言わないでよ」

「本当のことじゃない」



上衣を広げながら眉を顰めるミーシャに赤毛の女は肩を竦める

不穏な発言に今まで黙っていたライも口を開いた



「ミィ、おまえ変態まで誑し込んでんのか」

「ちょっと!誑し込んでないよ‼︎」

「変態なのは本当ね。大きい商会の息子だからそのツテで町の噂を集めててミーシャが外に出てるって分かったらスグにそこに向かうんです」

「エイミー‼︎」


平然とライに密告する女にミーシャは慌てて止めようとするがその発言に聞き覚えのある単語を拾ったライは既に眉を顰めていた



「まさか、あいつが貢ぎ坊ちゃんか」

「え、何、貢ぎ坊ちゃんって」

「みどりのことよ」

「ハハッ‼︎ピッタリね」

「でしょ?ライ命名」

「みどりより良いセンスしてる」

「どうせセンスないですよー」



またもや話が変わり始めて楽しげに会話をしている二人の声を聞きながらライは昨日今日で知った例の商会の男について思い出していた


先程突然ミーシャが逃げた相手は深緑の髪の顔の整った男だった

そいつがミーシャの家に様々な貢物を贈り終いには家具一式まで贈って自分の居場所を作ろうとしたことであの家族の反感を買った男、だった筈である

そして先程遭遇しそうになったのは偶然ではなく、多分だが市場での騒動を耳にした男による故意的なもの


つまり、




(ガチもんの変態じゃねぇか…)



ライは鳥肌が立つ腕を思わず摩った

そのまま眉を顰め考えに沈む



(厄介だな…)


単に言い寄ってくるだけの相手ならどうでもいいがそこまでミーシャに執着を見せてる相手が突然湧いて出てきた男に逆上しないとも限らない

加えて金もあり情報というツテもあるという、そういう奴はただぶん殴れば良いわけでもないから酷くめんどくさい

そのうえ、それらを駆使してミーシャや師匠や奥さん、店自体に迷惑をかけてくることも考えられる


低下層で生きてきたライにとって薄汚い話や欲に忠実な頭の弱い男女の痴情のもつれによる末路などはそこら辺にある石より身近なものだった



(そいつが阿呆なこと考えなきゃいいがな…)



何にせよ警戒しておいたほうが良いのだろう、と


ライは腕を組み眉間に皺を寄せながら友人と楽しそうに話している己の手放せない女を見つめていた























「こんなにいらねぇだろ」

「いる!絶対いる!お金が問題なら私が出すから‼︎」

「やめろ」


カウンターの上で軽く山になっている布の塊を前にライが口元を痙攣らせればミーシャが前のめりで主張してきた


(絶対こんなにいらねぇ……)



ミーシャをどう納得させるべきかライが頭を捻り出したところで女にしては低い声が耳に届いた



「諦めたほうがいいですよ。今買わなくても絶対後から、この子勝手に買いに来るから」

「……………ミィ」

「私ならやる!お願い‼︎今か後かの違いだよ!」

「自分で言うな」

「痛いっ」



まるで譲る気のないミーシャの額を指で弾きライは溜息を吐く



「まだ他にも買うもんあんだろ。こんなん邪魔なだけだ」

「あ、それなら後日ウチから持って行きますよー!ミーシャの家のパン食べたいし」

「あんたな…」

「商売なんで」


ニッコリという音が聞こえそうなほどの笑みを浮かべる店の女にライは自分の後頭部に手をやり頭を掻こうとしたところでいつもと違う感触に気付いた

そういえば髪を縛っていたのだと思い出しついでに髪紐のことまで思い出してしまう

顔に集まりだしそうな熱を誤魔化すように舌を打ち「…勝手にしろ」と好きにさせることにした



元々ライは稼いだ金を食べることにしか使ってこなかった

着るものも汚れ仕事の時の拾い物で済ましたし、下着だけは金のある時に買ったがそれくらいのものだ


だから三食賄いが付き寝床もあるという師匠の下ならライは全く金を必要としない

ショーン医師の診察代と同様にこれからの給料で引いてもらえるならどれだけかかろうとも何ら問題はなかった




「やった‼︎ありがとう、ライ‼︎ちゃんとお金払うから」

「だからやめろつったろ」

「え、でも…」

「るせぇ、終わったんならさっさと次行くぞ」

「そうよミーシャ。まだ買う物あるなら急がないと、そろそろ日が暮れるわよ?」

「う、うぅーっ。……うん。ごめんね?ライ」

「謝ることじゃねぇ」


薄緑色をキラキラさせて笑っていたのが一転して眉を下げた情けない顔になりその変わりようにライは思わず苦笑がこぼれた

そのまま薄茶色の小さな頭に手を乗せれば途端にミーシャは嬉しそうに笑みをこぼすからミーシャが情けない顔をする度にライは思わず手が伸びてしまう



その様を呆れた眼差しで眺めていた女が口を開く



「はいはい、仲良いのはわかったから。全部後日でいいの?」

「あ、急ぎ必要な物だけ今日持って帰るね」

「あとその上着も包んでくれ」

「わかりました」



唯一ライが選んだ上着を指差して頼めば女は商品を分け始める

それをただ眺めていれば不意に手を掴まれた


掴んできた張本人を見下ろせばこちらを見上げてはいないもののその眉間には似合わない皺が寄っていてライは思わず息の抜けた笑いが溢れてしまった




この短時間で何度も目の前でイチャつかれたミーシャの友人は既に悟りを開いたような目で黙々と作業をこなしていたが、ふと思い出したように顔をあげミーシャに尋ねた



「そういえば、アンナは知ってるの?」

「何を?」

「ライさんのことに決まってるじゃない」

「あぁ、まだだよー。本当は今日アンナのとこも寄ろうかと思ったんだけど時間もなさそうだし、報告できるのはもう少し先かな」

「そう、私から言ってもいいの?」

「いいよ、これからお店の再開に向けて私は時間とれるかわかんないし」



そう言って少し残念そうに笑うミーシャを見下ろしながらライは問いかける



「誰だ?」

「友達。ほら、家を出る時に菓子屋の子の話したでしょ?その子も小さい頃からの友達なの」

「あぁ…、甘いパンだかの」

「そうそう。アンナならライのこと知っても平然としてそう」

「わかる。寧ろやっとミーシャを射止めてくれたことに感謝したうえで釘を刺しそう」

「釘?」

「ミーシャは知らなくていいわよ」

「何それ」




どうやらミーシャにはまだイカれた知り合いがいるようだとライは今からその人物と会った時のことを考えて溜息を吐いた



(だが……)





ライは掴まれた手を見た後、親しい友人と楽しそうに会話をするミーシャを見下ろして



自分のせいで友人との仲に影響がでたり

泣くことにならなければいいと



そう願った














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