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「ご馳走様でしたー!」

「あ、はーい!ありがとうございます」



露店の横に設置されていた空箱に瓶を入れながら接客をしている女性の売り主の邪魔にならないようにミーシャは簡単に声をかける程度に止めた、が、売り主は声に気付くと接客を一旦止め笑顔と感謝をミーシャへ向けた


ミーシャもそれに笑顔で返した後ライと再び歩き始める



「アレ本当美味しかったなー。お店は見たことあったけど今まで機会がなかったからライのおかげで良い物知れちゃった」

「……誰彼構わず知り合いってわけでもねぇのか」

「流石にそれはないよ」



ミーシャは握った手を楽しそうに揺らしながらライの荒唐無稽な発言に笑って返す

その返事に溜息一つで返したライはどことなく安堵しているようにも見え市場で散々揶揄われたのが嫌だったのかなとミーシャは少し申し訳なく思った



「ごめんね?」

「あ?なにが」

「おじさん達に沢山揶揄われちゃって嫌だったよね」

「まぁな」


ライのアッサリとした肯定にミーシャは心臓に痛みを覚えシュンと肩を落とす


ライとの仲を祝福されているようで浮かれてしまいライの気持ちを考えられなかった

【ライの気持ち】を大事にすると今朝決めたばかりなのにやっぱり人間中々変われないとミーシャが目に見えて落ち込んでいると額に鋭い衝撃を受ける



「痛いっ」

「なんつー顔してんだ。別にミィのせいじゃねーだろ」

「……でも私浮かれちゃってたし」

「確かにヘラヘラしてたな」

「うっ」


ケラケラと愉し気に肯定するライにまたもやミーシャは落ち込むのだがその声が美声過ぎて落ち込みきれずに悶えてしまう、なんて罪深い声なんださすが小悪魔


反省なのか悶えなのかわからない胸の動きを片手で押さえていたミーシャにライは前を向いたまま罪深い美声を放つ



「そのまんまでいりゃあいーじゃねぇか」

「え?」

「イラついたらまたデコ弾いてやるから安心してヘラヘラしてろ」


罪深いのは美声だけではなかった

思わぬライの励ましとミーシャへの肯定にもう何本目かわからない極太の矢がミーシャの胸に刺さる、痛い苦しい好き


息も絶え絶えにミーシャは辛うじて声を絞り出す



「………ライのデコピン、結構痛いんだよ?」

「おー、じゃあ丁度いいな」

「ぁぁぁ……、もぅ、本当好き」


ケラケラ笑っていた声がピタリと止まり握っている手がピクッと動く

暫し沈黙が流れたがミーシャが変わらず悶絶していれば美声をこれでもかと低くした唸るような声がした


「…………………なんで今のでそうなるんだ」

「ライのせいです」

「おまえがイカれてんのを人のせいにすんな」



長い溜息を吐くライの発言に口元を尖らせ反論しようとしたミーシャだが視線の先で先程甘味を購入したお店の売り主の女性と目が合って口を噤む

顔見知りの女性はミーシャとライに気付くと笑顔で手を振りそれに対してミーシャも同じように振り返した




彼女がライに対して言った発言をミーシャは決して許せない

何も皆がミーシャと同じような美醜感覚を備えて欲しいわけではないがソレを敢えて口に出すのはどうなのかとも思っているし、ましてや自分の大好きな人に向かって言われたのだ。許せるわけもない

けれど、売り主の彼女が思ったことをそのまま言う人であることは元々知っていたし最終的にはライが褒められたのでミーシャも彼女に対して特別嫌な感情が残ったりはしなかった

寧ろ彼女の店の商品のおかげでライと素晴らしい時間を過ごせたのだ、その点には多大なる感謝を送りたい



笑顔であの時のライとの時間に想いを馳せていれば店の奥から見たことのある緑の髪がチラリと見えた気がした


「げ」

「あ?」

「ライまずいッこっち!」

「は?おい!」



慌ててミーシャはライの手を引き進行方向を切り替え人が多い場所に向かおうとする

しかし、ここから人混みに紛れるとしたら市場に向かうことになるのだがソレはミーシャがソコに居ると周りの者たちの反応で教えるようなもので今ミーシャが遭遇したくない相手に直ぐにバレてしまう


どうしたものかとチラッと後方を振り返るとまだ彼はミーシャ達に気付いていないが進行方向がミーシャ達と同じだった


まずい、ミーシャは慌てて周囲を見回して何処か隠れる所はないかと探す

そんな挙動不審なミーシャにライは眉間に皺をよせ当然のことを聞いた


「なんだってんだ」

「まずいの、みどりがすぐ近くにいて…」

「みどり?」

「あ!あそこ!」

「おい!」


ミーシャは慌てて足を早めるが駆け出すと却って目立ちそうなため焦る気持ちを必死に抑え早足に止める

そして、進行方向から少し逸れた箇所にあった建物と建物の狭い隙間に入り込む

横に二人並べる程の道幅しかない隙間からミーシャがみどりを確認すれば彼はもうすぐそこまで来ていた



「や、やばい!ライッ隠して‼︎」

「は?あ、おい!!!」

「シーーーッ‼︎」



慌ててミーシャはライの上着の中に潜り込む

ライが前を止めていなくて助かったとミーシャはどさくさに紛れてそのままライに正面から抱きつき硬い胸板で顔を隠した


突然のミーシャの行動にライは戸惑いの怒声をあげたかったが状況的にソレも出来ず固まるしかない

そこへ道の方から野太い声が聞こえてきた



「あれ、おかしいな。こっちに居た気がしたが…、見間違いか?」



その声が聞こえた瞬間、ミーシャの頭上から小さな舌打ちが聞こえフワッと温もりに包まれる

ミーシャが僅かに顔を上げれば視界が暗い

どうやらライが上着を引っ張りそのまま腕の中に隠してくれているようだと気づいたミーシャは、



状況も忘れて悶え苦しんだ




(かっこいい優しいかっこいいあったかいかっこいい良い匂いする優しい大好きかっこいい優しいかっこいい好き好き好き好き大好きっ)



ミーシャの荒れ狂う嵐はライの背にまわした腕にも伝わりぎゅーッと力を入れてしまう

力を入れた途端ライの身体が小さく上下する


するとミーシャの頭の上に重さがかかった

その正体に気づく前にミーシャの耳に聞き慣れた溜息がかかる

思わぬ吐息を耳に受け肌を粟立たせたミーシャの身体が力強く抱き込まれた



心臓が跳ね上がる

身体中の血液が沸騰したように熱い

まわらない頭の中で自分の心臓の音だけが響く

速い鼓動の音に気を取られていればその音が自分だけではないことに気付いた


顔を埋めた胸板から伝わる自分と同じ速さの鼓動が

泣きたくなるほど嬉しかった










「………行ったぞ」

「………」

「おい」

「………」

「おいミィ」

「………もうちょっと」

「あ?」

「もうちょっとこのままがいい」

「はぁ?」


ミーシャの頭上にかかっていた重さが離れ耳をかすめていた吐息も離れてしまい少し残念に思っているところへ声が落とされる

ミーシャが己の願望をそのまま伝えてみたがライはミーシャにまわしていた腕の力を緩めてしまった



「トチ狂ってねぇでさっさと離れろ」

「……………だめ?」


離れてしまった重さと腕を寂しく思いながら埋めていた未だ赤い顔を少し上げて金の瞳を見上げながら懇願してみる

するとライはフードの中でも分かるほど顔を真っ赤にしながら眉間に何本も皺がはいるほど力を入れ口を一文字に結び身体にグッと力を入れていた

そのままライの返事を待っていれば彼は黙ったままのミーシャに苦虫を噛み潰したような顔をしたあと盛大な舌打ちと共に顔を横に背けてしまった



「………なんで」

「え?」

「ンな逃げんだ」



疑問を投げかけたライはどうやらこのままにさせてくれるらしい

腕をまわしてはくれないがそれでもミーシャは幸せが湧き上がってくるのを隠せなかった


だがその問いには困った顔しか返せない

チラッとミーシャを見下ろしその顔と返答がないことにライはそのまま話を続けた


「野郎が面倒だろーがあいつらはただおまえに用があるかもしれねーじゃねぇか。なんでそこまで避ける」

「………邪魔されたくなくて」

「あ?」


ポツリとこぼした言葉にライが聞き返せばミーシャは再びライの胸へと顔を埋める

まわした腕にも力を込めればライの身体はビクッと揺れ「おい」と不機嫌を滲ませた美声が落とされる

ミーシャは声をくぐもらせながら言葉を返した



「せっかくのライとの時間、邪魔されたくなくて」

「………」




沈黙が流れる


暫く二人とも何も言わなかったが不意に聞き慣れた溜息が落とされる

ミーシャは顔を上げずただただライの体温だけを感じていた


「ンな理由であのツラから逃げんのか…」

「……」

「やっぱおまえ目悪いな」

「悪くないって…」


ミーシャが反論しようと少し顔を上げるとライは困った子供を見るような顔をしていた



「本当に…トチ狂った女」



優しい声と大きな手が頭に落とされる


ミーシャはその温かさに鼓動を高鳴らせながら

目の前の大好きな人へ満面の笑みを返した










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