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しっかりと形がわかる綺麗な二重に鋭い瞳
瞳の中の黄金に熱に浮かされたような顔が映る
愛してやまない色の中に自分がいる
その瞳に魅せられてうっとりとしながら問いかける
「どう…?」
「ま、こんなもんだろ」
熱に浮かされていたミーシャの声にもあっけらかんと美声を放つライは頷くついでにミーシャの額を指で弾いた
「痛いっ」
「おら、もう行くぞ」
「え、ダメダメ!ライの髪結ってからだよ!」
「チッ、覚えてたか」
「もちろん!」
ミーシャの泣き跡の確認を終えた二人は使った物を片付けて次にライの髪を結うための行動に移った
ライは座る場所を変えずに片足だけ階段に膝を立てもう片方の足を地面につけることでミーシャに背を向けた
ミーシャは地面に立ち片膝だけを階段に付くようにする
「いらっしゃいませー、今日はどんな髪型にしますかぁ?」
「なんだソレ」
「髪結屋さんごっこ」
「バーカ」
ミーシャがついふざけながら指通りの良い髪に触れればライがせせら笑う
けれどその声が優しいからミーシャにも笑みが浮かぶ
王侯貴族御用達に匹敵する触り心地を楽しみながら手ぐしでライの髪を纏めていく
ライは手持ち無沙汰なのか飲み終わった瓶を膝に乗せた腕の指の力だけで持ちブラブラと揺らしていた
「その飲み物どこで買ったの?」
「甘いもん買った店の近く」
「じゃあ買い出しに行く前に寄って行こうか」
「あ?なんで」
揺らしていた瓶がピタリと止まる
心なしか美声も一段低くなった気がした
ミーシャは首を傾げながらもその問いに答える
「瓶返さなきゃ」
「あー?いいだろ、その辺置いてけ」
「ダメですー、ライ仕事で清掃もしてたって言ってなかった?」
「それとこれとは別だ」
「そうなの?」
ミーシャもよく使う“ソレはソレ、コレはコレ”と同じなのかとまた笑いがこみ上げる
「お客さん、不法投棄は困りますねぇ~」
「誰だおまえ」
「嫌味な役所のおじさん」
「ブッ!本当に誰だよ」
「ネチネチ嫌味を言うお腹のでたおじさん」
口に出したらその人物の嫌な笑いを思い出してつい眉を顰めてしまったミーシャに対してライはゲラゲラと笑っている
そのまま楽しそうにライがミーシャに話しかけた
「おまえ、結構言うよな」
「よく言われる。……嫌?」
「あー?」
「キツいこと言う子、…キライ?」
「いや?おもしれぇ」
「ッ!」
髪を結っている手に過剰な力が入りそうになった
ミーシャの少し吊り上がった瞳と物事をハッキリ言う性格を倦厭する者もいた
そういう者は大体がミーシャを口説く男に懸想している女性や軟派な男性が殆どだったため寧ろミーシャとしてはありがたい、偶に倦厭していた者がミーシャを口説き始めることもあるのはミーシャにとって頭の痛い話ではあるが
だが相手が好きな人なら話は別だ
もしライもハッキリ言う子が苦手だったらとミーシャは少し不安になったのだ
けれど愉しそうに笑うライこそがハッキリ言う性格であり寧ろミーシャよりも大分スレている
そのためライのことなら笑顔でなんでも受け入れるミーシャが他者に対して歯に絹着せぬ発言をする度にライは可笑しくて笑いが止まらない
そんな事は知らないミーシャだがライの「おもしれぇ」発言を=“嫌いじゃない”=“好意的”と結びつけ感動に打ち震えた
「…ライさん、大変です」
「あ?今度は誰だ」
「ミーシャです」
「おまえかよ、ンだよ」
「このまま抱きつきたいんですが良いですか」
ケラケラと笑っていたライがピタリと止まる
今まで笑っていたのが嘘のように行動を止めた彼は少しだけ顔を後ろに傾け「はぁ?」と聞き返す、が、傷のある耳殻の部分が少し赤い
「またトチ狂ったのか」
「ライのこと好きすぎる故ですね」
「ざけんな、縛んねぇぞ」
「うぅぅッ、殺生な…」
無情なことを言う目の前の小悪魔にミーシャは内なる悶えを泣く泣く堪える
けれど恨めしい気持ちを言葉にするのは忘れなかった
「大体、好きな人が目の前にいて抱きつかないってほうが無理があると思う」
「そういうのなんつーか知ってっか?」
「何?恋する乙女?」
ライは溜息を吐きながら前に向き直り美声に多分の呆れを乗せてミーシャに言い放つ
「痴女っつーんだぞ」
「違うもん!!!!」
焦茶の髪が肩でサラリと揺れる
長めの前髪は分け目を付けるだけにして残し、両サイドの髪だけを後頭部の上部分で簡単なお団子に纏めたライの今の髪は所謂ハーフアップだ
サイドで一つに結っていた姿は男性的な魅力が強くミーシャの胸を締め付けたが今の髪型はライの色香を数段に跳ね上げてやっぱりミーシャの胸を締め付けてくる
つまり、
「かっこいぃぃ」
「はいはい」
片手を振りながらライにおざなりな返事をされたミーシャは本日2回目の人生における最高の手腕に大変満足していた
「おそろいだね」
「阿呆か」
「うぅーっ」
「おら、もう行くぞ。上貸せ」
不満を露わにするミーシャを気にも留めないライだがその目元は俄かに赤い
それに気付かず狩人は熟考する
上着を渡せばすぐにフードを被ってしまう、そしたらせっかくの美と色香のコントラストも見えなくなってしまうと
片手を差し出してきたライにミーシャはもう少し粘ってみることにした
「このままもう暫く眺めてたい」
「金取んぞ」
「言い値で払います」
「トチ狂ってねぇでさっさとしろ、日が暮れる」
駄目だった、獣の勝利である
差し出された手とコントラストを交互に見比べミーシャは渋々上着を脱ぎライに手渡す
受け取ったライはさっさとソレを羽織りフードも被るが被った瞬間不自然な姿勢でピタッと固まった
かと思えばまたすぐにフードを外す
一連のライの行動にミーシャが目を瞬いていればライは片手で顔を覆いだした、何故かその顔は赤く染まっている
「……クソッ」
「ライ?どうしたの?」
「うるせぇ、おまえ本当ふざけんな」
「えぇ⁉︎」
何故か怒られるミーシャ
ミーシャがしたことと言えば少し粘ったこととコントラストを脳と網膜と心に焼き付けていたことと着ていた上着を返したくらいである
他に何かしただろうかとミーシャは記憶を辿るが色々やらかしていたので一体どれを怒られているかもわからなくなった
(でも、その時に何も言われなかったし…)
時間差で怒りが湧いてきてしまったのだろうかと眉を顰め己の行動を見つめ返していれば不意にミーシャの頬が摘まれた
「ふぇッ⁉︎」
摘んだ張本人は何も言わずにただただミーシャの頬を引っ張る、しかしその顔は赤い
「わ、わはひはんはひは⁉︎」
「なんでもねぇよ畜生」
「ひふひん‼︎」
「うるせぇ」
ひたすら顔を赤らめミーシャの頬を蹂躙していたライは大きな舌打ちを残してやっとその手を離した
「なんで⁉︎」
「なんでもねぇつったろ。行くぞ」
ミーシャは全くもって意味がわからない
そんなミーシャを放りライは再度フードを被るがやはり一瞬固まるとまた小さな美声で「クソッ」と悪態をこぼした
そのまま歩き出してしまったライにミーシャは慌てて駆け寄りライの手を掴む
どれだけ意味がわからなくてもこれだけはミーシャにとって譲れないのだ
そんなミーシャに手を掴まれたライはピタリと歩みを止めフードに隠した顔でミーシャを見下ろし盛大な溜息をつくと掴まれた指に少しだけ力を入れて歩みを再開させた
その歩みに首を傾げながら着いていったミーシャの薄茶色の髪が風に吹かれてフワリと揺れればその場に甘い香りだけが残った




