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「そのツラでまたおまえの知り合いに会ったら面倒だな」

「え、そんなひどい?」



そろそろ移動しようかとミーシャがライに声をかけるとライは金の瞳でジッとミーシャの顔を見つめた後で眉を顰めた

ライの言葉にミーシャは慌てて両手で顔を隠そうとしたがその手がベタついていることを寸前で思い出す

不自然に動作を止めたミーシャを気にすることなくライは「赤くなってる」と見たままの事実を告げた

確かにそれは一目で泣いたのが分かってしまう

ミーシャは使えない両手の代わりに下を向くことでその顔を隠した

散々ライの前で泣き既に色々と晒してしまっているがソレはソレ、コレはコレである


乙女心は複雑なのだ



「……おまえ、少しここにいろ」

「え、ライは?」

「水持ってくる」



この町に水場は比較的どこにでもあるが昨日ライの治療時に利用した水場のように掬える物が近くに置いてある箇所は少ない

置いてあったとしても遠くまで持ち運ばないのが暗黙の規則だ

その水をどうやって運んでくるのだろうとミーシャは首を傾げたがライの「来るとき小せぇ商店があった。なんかしらあんだろ」という言葉になるほどと首を頷きへと変えた



「私も行く」

「話聞いてたか?」

「聞いてた」

「じゃあ大人しく待ってろ」

「えー」



確かに一目で泣いたとわかるミーシャがライと歩いていれば下手をするとライが疑惑の目つきで見られてしまうかもしれない

それにミーシャのベタついた手では大好きなライの手を握ることはできない、それはなんという所業か


置いていかれるのも寂しいが隣りを歩く時に手を握れないのも哀しい

しかしライはミーシャのために態々水を持ってきてくれるというのだ

そんな優しい気遣いに我が儘ばかり言っていてはいけないとミーシャは渋々承諾した



「じゃあ…お願いします。手間をかけちゃってごめんね」

「謝ることじゃねーよ」


優しい

彼はもしや聖人なのかもしれない


「ありがとう。ライ、私の鞄開けてくれる?」

「鞄?」

「手がコレだから開けれなくて」

「あぁ」



そういうとライはミーシャの膝の上に乗せてあるミーシャのコルセットベルトと同色の手提げ鞄に手を伸ばそうとした、が、ピタッと不自然にその手が止まる

先程のミーシャと同じような動きをしたライをミーシャが疑問に思う前にその手はまた動き出したがその動きはどことなくぎこちない


恐る恐る手に取った鞄を今度は逆に素早く自分の手元に持っていったライにミーシャは思わず目を瞬いてしまう、どうしたというのか



「ライ?」

「あ?おら、なに取るんだ」

「あ、えーと、巾着。お金入ってるから持って行って」

「は?」



何も聞くなと言わんばかりに間髪入れずに問い返してきたライにミーシャも不思議に思いながら話に乗ったのだがなぜか眉を顰められてしまった、なんだなんだ


首を傾げながら「商店行くならお金必要でしょ?」と訊ねればライの柳眉がピクリと動き次に盛大な溜息を吐くものだからミーシャは益々首を傾げてしまう



(どうしよう、ライがさっぱり分からない…)



何か不快な思いをさせてしまったのか呆れられてしまったのかせっかく一緒にいたいと言ってくれたのにもしかして前言撤回されてしまうのかそんなのは嫌だ断固拒否するに決まっているとミーシャが不安でオロオロしていればライは柳眉を寄せながら美声を数段低くした



「もっと警戒心持て」

「え?」

「おまえが信用してるつっても金を丸ごと預けんな。開けるぞ」

「あ、うん」



ライの言葉に相手がライなら全く問題なし!と思っているミーシャだがライはそれを踏まえたうえで警戒しろとミーシャに忠言した

そのまま巾着を開ける前にもライは断りをいれ数枚持ち上げると「コレだけ持ってくからな」とミーシャに確認をとる



「うん」

「あと、今日使った飲み食いの金も俺の金入ったら払う」

「え!いいよ!大丈夫」

「うるせぇ」



慌てて拒否を示したミーシャだったが美声に一刀両断される

そのあまりの即断さに眉を下げ情けない顔をしている娘の横でライは巾着と鞄を元に戻しミーシャの側に置くとやっとその表情に気付き苦笑をこぼした



「ンな顔すんな」

「でも…」



お金は父であるカーターから多めに預かっているため多少二人で飲食しても全く問題ない、何よりそこまでライが甘えようとしないことに甘えるのは個人の自由と考えているミーシャであってもライから気を許していないと突きつけられているようで胸の奥がキュッと痛んだ


そんなミーシャのもどかしい思いを他所にライはおもむろに立ち上がると何故か上着を脱ぎ始める



「ライ?」

「世話ンなってばっかじゃ情けねぇからな。おら、立て。ンで腕上げろ」



ボソリと呟かれた言葉の意味を理解する前にミーシャは腕を引っ張られ立たされる

思考も行動も理解が追いつかずアワアワしていればミーシャの上げていた腕に布が通る感触がした


え、と視線を向ければライがミーシャに上着を着せている



「ラ、ライ!?」

「あ?」

「な、な、なに⁉︎なんで⁉︎」

「なにが」



なにがとはなんだ何故ライがそんな従者みたいな行動をしているのだなんで着ていた上着を着せているのだなにがどうなって今自分はライにこんなお嬢様みたいなことをされているのだ


グルグルと何故ばかりが回るミーシャの頭に今度はポスッとフードが被せられた



「わ、わ、ライ⁉︎」

「いいか、フード被って上着ん中で鞄抱えて持っとけ。あと前閉めて女だってわかんねぇようにしとけよ」

「え、え?」

「あー…その手じゃ前も閉めらんねぇのか?ッたく、おら座れ」

「わ、わ、わ!」



フードを被せられたことで狭くなった視界の中でミーシャは次に肩を押されて再度階段に座らされる

腕を引っ張った時も今の肩を押した時も突然ではあったがその手は乱暴ではなく力強いのに優しい


突然の行動と気遣いにミーシャの思考はやはり理解が追いつかない

頭の中で疑問符を並べながら混乱していれば膝の上にポンと鞄が放られて、それを目で追えば狭いフードの視界の中で焦茶の髪と大きな手がチラついた


その大きな手はミーシャに着せた上着の前を引っ張り一つ一つボタンを止め始める


再びライが自分に対して従者か将又保護者のように世話をしていることにミーシャはただただ唖然と混乱を繰り返すことしかできない、顔が既に赤いことだけは自覚済みだ

それでも揺れる焦茶の髪にミーシャはハッとした



「ライ、髪解いたの?」

「どうせボサボサで意味なかったしな」



確かに固く結ったといってもライが髪を何度か掻いていたことで彼の髪はすでに髪紐の役割をしていなかった

それでもあの素晴らしき姿が終わってしまったのかと思うとミーシャは残念で堪らない



「そんな…」

「なんつー声出してんだ。後でまた結えばいーだろォが」



そう言うとライは最後のボタンを止め終わり立ち上がった

ミーシャが顔を上げてみてもフードでライの御尊顔が見え難かったため手の甲を使ってフードをあげようかと手を動かした時にミーシャの頭にポスッと軽い重さがかかる



「いいか、大人しくここにいろよ。女だってバレねーようにな」

「え、うん」

「すぐ戻る」



見えない視界の中で落とされた美声と離れていく体温、そして走っていくような足音でミーシャはライが離れて行ったことがわかった






静かになった空間でミーシャはようやく頭がまわり始める


まわり始めたことでライの言動にやっと思考が追いついてきていた




ライが頑なに甘えようとしなかったのは拒絶からではなく己の自尊心からくるもので


ミーシャに警戒心を持てと諭したのは過酷な現実を知る彼故の知恵で


お金を扱う際に何度も確認をとったのは彼がミーシャを裏切りたくないと思っているからで


上着を着させボタンを閉めてくれたのはミーシャの手が使えないと判断した彼の気遣いで


ライが髪を解いて自分の顔を隠し上着をミーシャに貸したのは人気のないこの場所にミーシャを置いていくための安全性を考えたためであって







思考が追いついていく度にミーシャは己の顔が胸がジワジワと熱くなっていくのがわかる






ライの持つ


男としてのプライドに

頼りがいがある面に

誠実さに

荒い口調では隠せないほどの優しさに

ミーシャを大事に思っているとわかる行動に



熱くなりすぎた胸は張り裂けそうなほどの鼓動へと変わる



父であるカーターの上着は細身のライには大きかった

そんなライよりも小柄なミーシャには鞄を抱えて膝を抱えてもスッポリと上着に包まれてしまう


先程までライが着ていた上着には彼の香りとぬくもりが残っている

それらに包まれているとまるでライに包まれているようでますますミーシャの全身は熱くなるし鼓動が痛い






押し募るライの魅力を魅せられてミーシャは堪らない想いを吐き出すために声を落とした








「……な、ッに、それぇ……。反則、すぎる………」








他に誰もいないミーシャだけの空間で


そのかすれた小声だけがポツリと響いた














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