表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/125

41








「……ぐちゃぐちゃ」

「おまえ、力入れすぎだろ…」



ミーシャの手の中にある悲惨な尊きモノに対して二人は只々呆然と眺めることしかできない

今回のデートの最初の目的でもある【甘い物】はミーシャが握りしめていたため指の跡がつき中のホイップが溢れ出している

幸い包んでいた紙の上から握り潰していたためホイップもその中に垂れるようにこぼれていたのでミーシャのお気に入りのワンピースが被害を受けることはなかった

ただし手はちょっとベタついている


それでも味は変わらないからとミーシャは口に運んでみた、うん甘い



「食うのか」

「味は変わらないかなって」

「そりゃあな」

「……」

「どうした」



本来ならコレはライと2人で分け合って食べるつもりだったものだ

2人で楽しく食べあい昼時堪能できなかった間接キスを思う存分堪能出来たはずで、それはもう素晴らしい食べ物になる予定だったものだ

けれどさすがにホイップが飛び出し蜂蜜が溶けてしまいミーシャの指が食い込んだ跡がはっきりとわかるものをライに差し出すことはできない

もう一度買いに行くか違うものを買ってもいいのだがコレをミーシャ一人で食べてしまえば流石に他のものは食べられなくなりライ一人で食べることになるだろう


楽しみにしていた思惑が叶わなくなりミーシャはシュンと肩を落とした



「ライと食べたかった」

「あ?食ってんじゃねぇか」

「一緒に半分こしたかった」

「…くれねぇの?」

「え?」

「おまえ一人で食うつもりなのか」



膝に頬杖をつきながら呆れたような表情を浮かべるライにミーシャは赤くなった瞳でパチパチと瞬きを繰り返した



「食べてくれるの?」

「なんだそりゃ」

「だって、ぐちゃぐちゃ…。指の跡とかも付いちゃってるし」

「味は変わんねぇんだろ」

「…うん」


「まぁおまえ一人で食いてぇなら好きに食えよ」

「…一緒に食べたい」

「じゃあ、くれ」

「うん…!」



肩を落として落ち込んでいたミーシャの表情が一転して明るくなる

未だ赤い瞳を嬉しそうに細め花が咲いたような笑顔になるミーシャにライも瞳を柔らかく細めた

しかしそれも顔の前に差し出されたものを取ろうとした手をミーシャが避けたところで訝しげに変わる



「ンだよ、どっちだ」

「食べて」

「なら渡せよ」

「これ触ると手がベタベタになっちゃうから、このまま食べて」

「は?」



笑顔でまたライの口元に運ぶミーシャにライは瞳を瞠る


ミーシャの手の中のものは既に蜂蜜が包装紙に染み込んでしまい紙の部分を持ったとしてもベタついてしまう

これはライの節くれ立った男らしい大きな手をベタつきから守るためのやむを得ない策であり決してミーシャの“あーん願望”だけではない、決して。大事なことなので三度言おう、決して



ニコニコと嬉しそうに口元から動かそうとしないミーシャにライは溜息を吐くと再度手を伸ばした

ミーシャがそれを避ける、伸ばす、避ける、伸ばす、避ける


4度目の攻防が終わるとライの額にピクピクと青筋が浮かび出した



「おまえ、いい加減にしろよ…」

「ガブっていっちゃっていいよ」

「さっさと寄越せ」

「大好きなライの手をベタベタにさせられない」

「…もうおまえ一人で食え」

「そんな!」



何度攻防を繰り返してもニコニコしていたミーシャの顔が今度は驚愕に変わり青ざめ始める

それでもそこまで嫌がられてしまったらミーシャも泣く泣く折れるしかない

だからといってやはりライの手まで汚せない、ライには他に別のものを食べてもらうしかないかと眉を下げて自分の口元に運び出した


しょんぼりしながらモソモソと食べるミーシャ


それを呆れたように見ていたライだったがモソモソと食べ続けるミーシャの様子に徐々に眉間を狭めていくと突然自身の後頭部をガシガシと掻き「あぁ〜ッ‼︎クソッ!!!!」と忌々しそうに吐き捨てた

そして顔を真っ赤にさせてミーシャの手首を掴む



え、とミーシャが声を出すよりも早くミーシャの目の前で焦茶の髪が揺れた

伏せた金の瞳が鋭くミーシャの手の中のものを睨み日に焼けた肌を塗りつぶしたように真っ赤に染めて薄い唇を大きく開き歯を剥き出しにして、ライはミーシャが今まで食べていた箇所にかぶりつく



ー ガブっ





「これでいーんだろッッッ!!!」

「ッ‼︎‼︎‼︎」



ミーシャは手の中のものを危うく落とすところだった


そんなことをすればせっかく守り抜いたライの手を汚してしまうと、手に力を込めて止まりそうな呼吸を意識して必死に繰り返す



それでも、心臓は止まりそうで






「も、もぅ……ャダ………ッ」

「ぁあ!?」


「ライがッ…、かっこよすぎて……死んじゃう」

「………!?」



全身を真っ赤に染めて瞳を潤ませながら蹲るようにして頭を下げるミーシャには同じように、いやそれ以上に全身を赤く塗り潰したかと思うほど染め上げたライが金の瞳を大きく瞠り口の中のモノを噛むことも飲み込むこともできずに固まってしまっていることに気付かない



お互い真っ赤に染まり何も言えずに、ただひたすら沈黙だけが流れる






先に再可動したのは口の中のものを無理やり噛み潰し飲み込んだライだった

グシャグシャと前髪を掻きむしりそのまま片手で顔を覆い長い長い息を吐く


そしてボソリと、ミーシャが愛してやまない美声をおとした






「やっぱり、……おまえは、イカれてる……」





その言葉にミーシャは下げていた頭を恐る恐る上げてライをチラッと覗いて見る


横に座っている青年は膝に肘をつきミーシャと同じような蹲る姿勢をしていて顔を覆った手もそこから見える肌も髪を結ってることでよく見えるようになった耳も首もミーシャと同じように染め上げていた




そんなライの姿にミーシャは己の口元から力が抜けたように緩んでいくのがわかった






「ねぇ、ライ」

「………………」

「ライー」

「ンだよ……」


「美味しかった?」

「………………」

「苦手だった?」

「………いや」


「食べれそう?」

「……喉渇く、な」

「確かに」





一つ一つ姿勢を変えないまま言葉を返してくれるライにミーシャは頬も瞳も赤くしたままクスクスと笑う


そして手の中のものを嬉しそうに見つめて


もう一度、ゆっくり大事そうに口に運んだ



柔らかい卵の味とホイップの軽い口当たりに砂糖の味、それに重なるように香る蜂蜜の香りに濃厚な蜜の味




「美味しい」

「………そーかよ」


「はい、ライ」

「………」



未だ顔を隠すライの前にもう3分の1もない手の中のものを差し出す

彼の一口は自分の何倍も大きいようだとミーシャは差し出しながらまたクスクス笑う



「…笑うな」

「ライの一口大きいなーって」

「ぁあ?悪いか」

「ううん、いっぱい食べて」


「………」

「はい、どうぞ」



差し出して暫くは動かなかったライだったがミーシャが何も言わずに待っていれば盛大な溜息を吐き顔を上げる


そのまま、またミーシャの手首を掴むからミーシャの心臓はドキッと強い音を立てる


今度はミーシャの真正面から口を大きく開けてかぶりつく

ライの伏せた金の瞳の色香と目の前の唇にミーシャの鼓動は痛いほど早くなる


口に入れてすぐに手と顔は離れてしまった

ミーシャは未だ赤いままの大好きな人の顔を覗き込んで尋ねてみた




「美味しい?」

「…………あめぇ」




ボソリとこぼすライに笑顔を浮かべミーシャも最後の一口を口に運んだ





「うん、甘い」





それは今まで食べてきたどんな物よりも


特別で、甘かった














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
素敵な作品をありがとうございます! もう!もう!! 2人のやりとりが尊すぎて、顔がにやけて、外で読んでた私は完全に不審人物でした。 泣く泣くその場で読むのは諦めてお家で堪能してたのですが、続く供給にた…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ