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「おら、ンなツラしてっとまた潰すぞ」
「……………」
「食わねぇの?」
「………食べる」
ライが差し出してくれたものを手に取りミーシャは一口、口に入れる
そうすれば口の中に広がる濃厚な甘さにモヤモヤが少しちょっぴりだけ本当にちょっと減った気もする
先程の店の前でミーシャが不満たっぷりに叫んだところまたもやライに口を塞がれ強制退去させられてしまった
ライはそのままお店が見えない場所まで歩き大通りから外れる角を曲がって横道に入ると行き止まりの細道にあった細い階段までミーシャを連れてきた
そこにライが腰掛けたためミーシャも隣りに座っている
近くには通る道も入る扉もないため周りには誰もいない
「あんま美味くなさそーだな」
「…美味しい」
「にしてはひでぇツラ」
「………〜〜〜ッッッ‼︎もぉーーーーーっ!!!!」
「なんだ、今度は牛か」
「違うもん‼︎」
胸に巣食うモヤモヤを吐き出すように叫べばライはケラケラと笑っている
そんないつもと変わらない彼にもミーシャは八つ当たり気味にキッと睨んでしまう
「お?なんだ?」
「フード取って‼︎」
「ぁあ?」
「顔見たい!!!!」
手の中のホイップが飛び出そうなほど勢いづいてライに頼めばライは一瞬息を呑むも溜息ひとつ吐くとフードに手をかけパサッと後ろにおろした
家を出た時以来に見る
ライの焦茶色の髪、今日だけの髪型をしているライ
形の良い柳眉にかかる傷
キリッとした二重に鋭く輝く金の瞳
高い筋の通った鼻
薄い唇に輪郭がハッキリわかる顎
好き、大好き、ミーシャの大好きな人だ
「かっこいい」
「ぁあ?」
「かっこいい!ライかっこいいもん‼︎」
「またトチ狂ったこと「なんでみんな分かんないの!!」
呆れたようにもう聞き慣れた言葉を吐こうとするライに被せるようにミーシャは叫んだ
そんな初めて聞く悲鳴のようなミーシャの怒声にライが息を呑めばミーシャはライを睨む薄緑色の瞳からボロボロと滴をこぼし始める
「みんなはッ他の人を…ッかっこいいって言うのにッ!なんで!私がかっこいいって言う人には……ッ‼︎」
「……おい」
「もうッ‼︎‼︎趣味が悪いって…ッみんなッうるさいのよッッッ!大きなお世話!!!」
「ミィ」
「なんなのッ!……ッッ私の好きな人っ馬鹿にッッしないで!!!!!」
「ッ‼︎」
「ライはっ誰よりも!!かっこいいんだからッッッ!!!」
ー フワッ
涙をこぼし手の中のものを握りしめ開けていられない瞳をぎゅっと閉じたまま胸の内を叫ぶミーシャの髪が風に揺れた
ミーシャの頭に触れる大きな手の感触と硬い胸板の体温と鼓動
ミーシャとは違う野性的で透き通ったライの香りがミーシャを包んだ
「もういい、ミィ。わかったから」
「わかってない!!」
「わかった。わかったよ」
「う〜〜〜ッッ!」
悔しさで涙が止まらないミーシャの頭を横から抱えてポンポンと一定のリズムで叩くライ
そんな彼の優しさに温もりに……傷ついてきた心に
涙が止まらない
「本当、バカだな。おまえは…」
「ヒグッフッ…ッ」
「けど…。なぁ?」
ライの言葉は普段通りなのに
その声はひどく柔らかくて
ミーシャの胸は益々苦しくなる
「ミィ。俺は、おまえがトチ狂ってんの
すげぇ、…嬉しいんだ」
「だから…。なぁ、ミィ」
ライが好きだ
こんなにも素敵な人をひどく言わないで
大好きなの
大好きなの
私の大切な人を
傷付けないで
「ありがとな」
ブワッと涙が溢れる
涙腺が壊れたんじゃないかと思うほど次から次へと涙が止まらない
それでも変わらず撫で続けるライの手は大きくて、
…優しくて、
ミーシャは抑えていたものが零れるようにひとつひとつ嗚咽を含みながらライに言葉をこぼす
「ライッ……かっこいいもんッ」
「あぁ」
「素敵な、…ッ人、なんだからッ」
「あぁ」
「凄くッやさ、……ッしく、てッ」
「あぁ」
「大好き、ッなんだからッ」
「あぁ…」
「がいっけ、ん…ッも!な、ないっめんもッ……ッ全部!最高なんだ、からッ!!」
「……ッあぁ」
いつしか震えはミーシャのだけではなくなっていた
薄茶色の髪にも滴が一つ二つ
「なぁ…ッ、ミィ」
「フグッ、ヒグッ」
「俺は、おまえがいれば
あとは、
なんも、いらねぇな」
「ライ…?」
ポツリとこぼされた声にミーシャは瞳を開き涙を流しながら顔をあげる
見上げた先でライは濡れた金の瞳を細めて柔らかく笑っていた
ライは唇を震わせながらまたポツリとこぼす
「俺は、やっぱ【恋愛】だとかはわかんねぇ」
ポツリ
ポツリ
囁くようにこぼす声と一緒に金の滴もこぼれる
「だが」
ポツリ
ポツリ
「おまえと、一緒にいたい」
ポツリ…
ミーシャは
言葉にならない返事の代わりに
ライの腕の中で、何度も何度も肯いた




