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4・



(…なんなんだ、この女は…)



もう何度繰り返したか分からない疑問がライの頭の中を巡る



いつものように金をがめろうとする奴らをのしてさっさとその場から離れるつもりが何でこんなことになっているのか、何度考えてもライには分からない


人が殴り合っていた後に平然と声をかけてきたからただの偽善者か自己陶酔してる奴だと思えば若い女だ


若い女なんて自分のツラを見たら直ぐに悲鳴をあげるか逃げるかだ

いちいち相手にするのも面倒でさっさとその場から離れようとしたのだが、何故か腕をひかれて走らされ怪我の治療をされている



(意味がわからねぇ…)



顔がバレる前に離れたほうがいいのは分かっていた

目の前で叫ばれるのも、ましてや吐かれるのも真っ平御免だ



だが、初めて触れる女の手の柔らかさと甘い匂いにその場から動けなかった



腹の傷にタオルを巻かれた時はあまりの近さに全身の血が沸騰した


女なんて、きたねぇうるせぇめんどくせぇものだと思っていたのに

初めて触れる柔らかさに息が止まって頭の中まで沸騰して何も考えられなくなった



やっと離れた女は今度は腕や手に濡れた布を当て始める



顔を下に向ける度に薄い茶色の長く真っ直ぐな髪が肩から滑り落ちて、それを女は耳にかけ直す

少し日に焼けてはいるものの自分よりも白い肌は先ほど走ったせいか少し汗ばんでいる

長い睫毛は上をむき少し吊り上がっていた薄い緑の瞳は今は傷を真剣に見つめている

鼻は少し低く小ぶりで唇はふっくらと肌色と薄いピンクの中間という初めて見た色をしていた



「お兄さんのお名前は?」

「……あ?」



初めて間近で見た女を観察していたからか一瞬何を言われているか分からなかった



「名前。お兄さんの名前、教えて?」



薄緑の瞳でこちらを覗き込んできた女に何故か心臓が跳ねて目を合わせられなくなる



(……?なんだ?)



少し早い心臓の動きに内心首をかしげているとフワッと視界が明るくなった



「ッッッ!!!」



バッ!!と女の手を払いのけ睨み付ける



(くそッ見られたっ!油断した、こんなに近くにいても平気そうにしてるから…っ!!)



睨み付けながらもライはこの後の女の反応を見たくなかった

今まで自分の顔を女に気色悪がられても『どいつもこいつも似たような反応しやがって』とさえ思っていたのに

目の前の女が今までの女と同じように自分の顔を気持ち悪がると思うとなぜかライの胸はひどく痛んだ


女はその吊り上がった薄緑の瞳をまん丸にし口をポカンと開けてライを凝視している


この顔が青く染まる前にこの場から離れようとライが足に力を込めた時、女の唇が微かに震えて小さな声が漏れた




「……好き…」


「…………は?」



聞き慣れない言葉だった


女の悲鳴を聞きたくなくて眉を顰めていたのに今度は違う意味で眉を顰めてしまう


女が言った言葉も意味も理解が追いつかずにいると青くなるかと思った女の顔はみるみる赤く染まり慌てた様子で両手を胸の前で振りだした



「あっやっ、ちが、思わず本音が…っ!じゃなくて!ごめんなさい!勝手にっ髪触っちゃって!ちがうの!ほら!口!怪我!してるから!だからっ!」

「………」



(何を、言ってんだ…?)



未だ理解が追いつかず呆然とするしかないライの前で女は必死に誤解だと伝えている



「怪我っ!髪当たると痛いしばい菌入るでしょう!?だからっ、でも勝手に、あの、ごめんなさい!そのっ綺麗な瞳が気になるとか、顔見たいとか、そんな下心はちょっとしかなくて!!」


「……何を、言ってんだ…?」

「へ?」



思わず思ったことをそのまま口にしてしまったが女は不思議そうに首を傾げている



なぜ、こんな普通にしてる?

一瞬だったからよく見えなかったのか?

それとも見えたからこそ、自分は見ていないと誤魔化し恐怖しているのか?



「………俺のツラ、見てねぇのか?」

「え、あ、大丈夫ですよ!!鋭くてカッコいい金色の瞳と筋が通ったかのような綺麗な鼻と薄い色っぽい唇と触りたくなる顎は見えましたけど、全部は見てませんっ!!」


「は?」

「え?」



………は?





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