39・
「お!ミーシャちゃん!いいのあるよ!」
「ミーシャちゃん!コレも持ってくかい!?」
「ミーシャちゃん!新しいの入ったよ!」
「ミーシャちゃんこの間はありがとね!」
「なんだぁ嬢ちゃん!今日はえらいめかしこんで、デートか!!」
「「「なにぃ!?」」」
市場を奥へと進むうちにミーシャに声をかける者が増えてきたが彼女はそれに対して「わぁ!美味しそう!」「今日は荷物が増える予定だからまた来ますね!」「食べたい!!」とひとつひとつ笑顔で返していた
のだが、店のオヤジの一言に周りの奴らが目の色を変えて反応した時には流石にライも余計なことをと小さく舌打ちをした
そんなまわりの反応など気にもしないようにミーシャは頬を染めてライの腕にしがみついてくる
「へへーっそうなの!」
「おい」
「カァーーーッ‼︎‼︎‼︎‼︎なんだなんだ!遂に嬢ちゃんにも男ができたか!」
「そんな!俺らの癒しが!」
「ミーシャちゃん男の趣味変わったのか⁉︎」
「畜生!あんた、幸せモンだなぁ!おい!!」
ミーシャに離せと抗議をする間も無く矢継ぎ早に四方八方から声が投げられそれは返事なんぞいらないというように続けられる
「ミーシャちゃんに男ができたとありゃあアイツらも泣くなぁ!!!」
「色男が揃いも揃って失恋すんだ!周りの女らは喜ぶだろうよ‼︎」
「あんたもよく射止めたもんだ!」
「嬢ちゃんはちと趣味がおかしかったからなぁ、あんたも苦労したろ!!」
「ちょっと!!おかしくないですよ!!!」
「ダッハッハッハ!!まだ言ってらぁ!!!」
喧しいオヤジどもの掛け合いに突然ミーシャも加わり、笑われたことが悔しいのか白い頬をこれでもかと膨らませ始めた
そんな彼女をその通りじゃねぇかとライが呆れて見下ろせばそのまま息を大きく吸い込み始めたミーシャに嫌な予感がした
「ッライは!かっハブッ「黙れ」
また盛大にトチ狂ったことを言いそうな口をライは慌てて手で塞ぐ、こんな中で叫ばれたらたまったもんじゃない
そのまま頬を潰すように指に少し力を入れれば薄緑色に不満の色を乗せてライを見上げてくる
「ブゥーッ」
「豚か」
「ひひょい!」
「ンなとこでトチ狂ったこと言うんじゃねぇ」
「ブゥーっ!!!」
呆れて忠告すればまたもや不満を動物のように告げてくるミーシャに苦笑をこぼす
そのまま頬の手を外し頭に乗せれば薄緑色の瞳から不満は消え代わりに喜色が浮かんだ
そんなコロコロ変わるミーシャに笑いがこみあげてくる
「おら、甘いもん食うんだろ。どれだ」
「なんだなんだ!!熱いなぁおい!!」
「嬉しそうな顔して、骨抜きじゃねぇか!!」
「やるなぁあんた!!!」
「よっしゃ!!祝いだ!コレ持ってけドロボー!!!」
「うるせぇな」とライがこぼしてもやんややんやと騒ぐオヤジどもにはその声が聞こえない、ドロボーってなんだ
ミーシャもミーシャで周りからの野次に頬を染めて嬉しそうに手渡された包みを手にとり「ありがとうございます」と返している
ライはそれに溜息をひとつ吐きミーシャが受け取った紙袋を奪う
持っていた鞄にそれを突っ込みミーシャの手を掴むと「行くぞ」と足を早めた、長居は無用だ
またもや「カァーーーッあまずっぺぇなぁおい!」などと好き勝手ほざく奴らを放置し声が聞こえなくなるところまで行けば幾分静かになった
先程よりも店が密集していない場所のせいかもしれないが何にせよコレで少しはマシになる
どこへ向かえばいいのかと尋ねるためにライが横にいるミーシャを見下ろせば彼女は顔を真っ赤にして潤んだ瞳でライを見上げていた
その予想外な反応にライはギョッとする
あんなに周りから好き勝手言われてもここまで赤くしてはいなかったのになぜ今更こんなに顔を染めているのか
「ンだそのツラ…」
「ッ‼︎だ、だって!ラ、ライが…!」
「ぁあ?」
「〜〜〜ッ!心臓痛いッ!!!」
「大丈夫かおまえ」
突然胸を押さえて叫ぶミーシャにまたかとライは呆れたように声をかける、この奇行も随分見慣れたもんだ
いつものことだろうと適当に流して「で、どこ行くんだ」と聞けば「冷たい……ッでも、そこが…!」とボソボソと何か言いながら手を強く握ってくる
暫く放っておくしかないかと判断したライが目線を上げて周りを見れば進行上にガキや女が2、3並んでいる露店があった
もしかしたらミーシャのいう【甘いもの】かもしれないと思い歩を進めると繋がった手から止まっていた彼女も歩き出すのがわかった
店に近づくにつれ甘い匂いが鼻先をかすめる
予想通り目星をつけた店は【甘いもの】を売っているようだ
「ミィ、目当てのもんだぞ」
「へ?」
ライが声をかければ胸を押さえたまま下を向いていたミーシャは間抜けな声をだして顔を上げる
しかしひとたび薄緑色の瞳に目の前の店を映せばその瞳はキラキラと輝きだした
分かり易すぎて思わず吹き出す
「食うのか?」
「うん!」
返事をするなり駆け足で店に並び出すミーシャに引かれライも歩みを少し早めた
店で売っていたのはなにか黄色い柔らかそうなものだった
(パン……じゃねぇんだよな?)
ソレは何か四角いデコボコとしたものが無数に表面にありそれ自体も長方形をしていてやたら四角だらけだ、しかもデカイ
ソレを二枚にしてるのか元は1枚で間に切れ込んでいるのかわからないが中には白いものが挟まっていてさらに上から黄色いドロリとした液状のものがかかっている
やたらと高いうえに腹持ちしなさそうな【甘いもの】にはこれまでの生活で縁がなかったライにとって見るもの全てが謎だった
ただひたすらよくわからない謎の物体を受け取っている前の客の手元を眉根を寄せて眺めていれば横から耳に馴染んだ透き通る声が聞こえてきた
「ライはこれ見たことある?」
「ねぇな」
「そっか、食べるのも初めてだもんね。いきなり一人で一つはやめといたほうがいいかな…」
「あ?」
「もしライが甘いの苦手だったらこの量じゃ多いもんね」
「あー…」
ライは食べられるならばそれこそ草でも虫でも牛の舌でもなんでもいい
だが初めて口にする【甘いもの】が果たして自分の食べられるものに入るのか
わからないから返事も濁ってしまう
「じゃあこれも半分こしようか」
「………」
平然と言ってのけるミーシャをライは思わず見下ろした
ライは自分の食いかけに泣かれたと思い己の考え無しな行動に酷く嫌悪したが泣かれた理由がまたもや【拒絶】からではなかったとわかったのはつい数時間前のことだ
その時にミーシャはまた頭が沸いてるようなことをつらつら述べていたし先程も平然と自身の食いかけを渡してきた
(……俺の食いかけでも平気なんざ本当イカれてんな)
躊躇なく食物を分け合おうとするミーシャにライは内心毒吐くもそんなミーシャの行動はライの身体のどこかを擽られているようでもあった
「あら、ミーシャちゃん。いらっしゃい」
「こんにちはおばさん」
「可愛い格好してるじゃない。デート?二つでいいかい?」
「へへッ、一つでお願いします!」
前の客が買い終わり順番が来れば早速売り主の女に話しかけられる
ここでも知り合いなのかとライが半ば呆れていればミーシャは照れたように笑って頭をライの腕に傾けた
サラッとこぼれる薄茶色の髪から香る匂いが目の前の【甘いもの】と重なりライは無意識に喉を動かす
「おい離れろ」
「嫌」
「おまえな」
「なんだい、つれない彼氏さんなんだねぇ」
「彼氏じゃねぇ」
「まだね!」
アホなことをぬかす売り主をジロリと見返すも顔の見えないフードと隣から即乱入するミーシャのせいでケラケラと笑う売り主には全く効いた様子はない
ライが内心で舌を打っていれば売り主は作業している手元に視線を落としたまま楽しそうに「遂にミーシャちゃんも年貢の納め時かい」と訳が分からないことを言う
これはミーシャも分からなかったのか首を傾げて「どういう意味ですか?」と聞いていた
「ん?理想を求めるのはやめたんだろう?あぁ、お兄さんがどうこうって話じゃないんだ、気を悪くしないでおくれ」
「やめてないですよー!むしろ彼が理想そのものです!」
「えぇ?」
意味がわからず会話を聞くしかないライを余所にミーシャは心外だとばかりに声を上げ、そんな発言に売り主の女は作業をしていた手を止めて皺が伸びるほど瞳を大きくした顔をあげた
次いでその女は驚きに声が出ないというように口をパクパクさせたかと思うと徐々に顔色が悪くなっていった
なんだ?と内心首を傾げていれば女は震える声でミーシャに問いかけた
「ミ、ミーシャちゃんの理想そのもの?本当に?嘘じゃなく?」
「そうなの‼︎‼︎彼に会えたのは私史上最大最上級の奇跡だったんです!!もう、私嬉しくって!!!しかも彼見た目だけじゃなくて中身もすっっっごく素敵で!!!!聞いてくれまフガッ「黙れ」
懲りずにまたトチ狂ったことを言い出したミーシャの口をライは先程と同じように手で塞ぐ
するとそれを見ていた売り主の女は顔色が悪く見えたのは見間違いだったのかと思うほどポカンと間抜けな顔をしていた、ミーシャの興奮した様子についていけないのだろう
しかしそれもライ達の後ろにまた人が並び始めたことに気付くまでで、女は表情を改めると慌てて作業を再開した
そしてどこか苦笑を含んだ声で話し出す
「なるほど、だからフード被ってんのかい」
「……どういう意味だ?俺のツラ知ってんのか」
「いーや、知らないさね。ただほら、ミーシャちゃんモテるだろう?なのにこの子ったらどんな色男にも靡かないからみんな男の趣味を聞くんだよ」
「……あぁ」
ライは余計なことを言いそうな口を塞いだまま気になる発言をした売り主に問い質してみたが、段々と話が見えてきた
自分が口を塞ぐよりもずっと前にミーシャはトチ狂った発言を既にかましていたらしい
「まぁー、それを聞いたら大抵みんな唖然としてねぇ。だからミーシャちゃんの趣味の悪さは有名なのさ」
「フガフガフッ!」
「なるほどな」
「あんたには悪いけど、できたら私の前ではフードは取らないでおいてくれるかい。ミーシャちゃんの好きな子にこんなこと言うのは忍びないがわたしゃ心臓が弱いからね、倒れでもして店ができなくなったら困っちまう」
「フガフッ!!!!」
「俺も目の前で倒れられんのはごめんだ」
暴れるミーシャをそのままにライが売り主との会話を続ければ売り主の女は眉を下げてどこか申し訳なさそうに言った
「あはは、気分を悪くさせちまって悪いね」
「いや、むしろ安心した」
「安心?」
目を瞬かせる女に分かるようにライが視線をミーシャに向ければミーシャは眉を下げた情けない顔でライを見上げていた
そんな顔をする彼女にライは息が抜けるような笑いを漏らす
「どーも、こいつもこいつの家族もイカれてるらしくてな。逆に俺がイカれてんのかと心配になってたとこだ」
「は?」
「だから、正常なあんたの反応に晴れて俺も正常だとわかったとこだ」
思ったことをそのまま告げたライの発言にミーシャは薄緑色の色が零れそうなほど瞳を大きくさせ、売り主の女はまたもや間抜けな顔をした
そして女は腕で顔を隠したかと思うと盛大に吹き出した
「……ッぷ!あっはっはっはっ!あんた面白いねぇ!!」
「ぁあ?」
「確かに、こりゃあイイ男だわ!ミーシャちゃんあんた見る目あるねぇ!!」
「フガッ!」
「余計なこと言っちまって悪かったね。はいよ、お待たせ!お代はいいよ」
「あ?いいのか?」
「あぁ。失礼なこと言っちまった詫びだよ。またミーシャちゃんと食べに来ておくれ」
「美味けりゃな」
ライの尊大な返しにも気を悪くした様子のない売り主は大きな口で笑いながら黄色い謎物体を差し出した
渡された物を受け取るためにライがミーシャの口を塞いでいた手を外せば外した途端に「おばさん‼︎ライかっこいいんだから!!!!」と叫ばれたため、
ライはミーシャの口を再度潰して塞ぐことになった
甘いものは
ワッフルのホイップサンド蜂蜜がけ
初心者にはきっとゲロ甘




