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居間に戻るとライは手に何かを持ち見つめていた


よくよく見ればライが起きてくるのを待つ間ミーシャが書いていたものだ

出しっ放しにして片付けるのをすっかり忘れていた



「コレ新作か?」

「へへ、そう。と言っても思いつきで書いただけでまだ全然形にもなってないんだけど」

「ふーん」



父であるカーターの上着を持ったミーシャが近付けばライは目線を紙から動かさず相槌を打つ

文字の読み書きはできないと言っていたから絵を見てソレが何かわかったのだろう



「どんなんだ?」

「ふっふっふ、コレは夢の詰まったパンなのです!」

「は?」



よくぞ聞いてくれたというようにミーシャが胸を張って答えればやっとライはその御尊顔をミーシャに向けた

まぁその顔は大分訝しげだがそんな顔も実に様になっているのでミーシャ的には全く問題ない、大好きです



「あのねあのね、コレ甘いパンなの」

「甘い?」

「そう!友達に菓子店の子がいてね、その子と話してた時にパンとお菓子は似てるんじゃないかって話になって」

「へぇ」

「それでパンの種類も増えたって言ったでしょ?だから組み合わせ次第で甘い【お菓子パン】が作れるんじゃないかって!」

「落ち着け」



思わず興奮してしまいライに前のめりで熱論を繰り広げ始めたミーシャをライは掌で制する形を示して止めてしまった

しかしミーシャはパンを愛しているし若い娘らしく甘いものも愛しているのだ、それが合わさるのだから興奮するなというほうが難しい



「甘えのも好きなんか」

「大好き!!」

「本当食い意地はってんのな」

「そんなことないもん!」



そう言ったライは悪戯気に目を細めて口角をあげる

完全にミーシャを揶揄っているのが分かるのだがミーシャにとってはそんな似合い過ぎる表情をされれば胸に矢を射られるだけなので揶揄うつもりなら失敗だ、悶えるだけである


未だ先程のライのぬくもりが身体に残っている気がしてミーシャの落ち着かない心臓は更に痛くなる

胸に手を当て意識して呼吸を繰り返し何事もないように「ライは?」と振る舞ってみた



「あ?」

「甘いの好き?」

「食ったことねぇ」

「え⁉︎」

「腹にたまんなさそーじゃねぇか、アレ」

「そんな!甘いものが満たすのはお腹じゃなくて心だよ!」

「あぁ?」



なんてことだ、ライはあの幸せな瞬間を知らないというのか

甘いものは心を幸せにしてくれるものだ、それなのに何故かすぐ身体のお肉に繋がってしまう魔性の食べ物でもあるのだが

甘いものが苦手であればまた話は別だが甘いもの自体を知らないとは由々しき問題である



「じゃあお店に行く前に市場で食べて行こう!」

「はぁ?」

「買い食いしながら向かおうよ」

「おまえが食いたいだけか」

「……否定はしない」



ミーシャは目論見を見抜かれてしまいつい視線を逸らしてしまったがライに食べてみてもらいたいのも本音である

そのことを告げればライはケラケラと笑い「わーったわーった」とミーシャの頭に軽く手を置いた


そうやって気軽に触れてくれるようになったライの仕草がミーシャは嬉しくて嬉しくて仕方ない


仕方ないので緩む顔面を引き締めることは早々に放棄する


「じゃあさっさと行くか」と声をかけたライに手に持っていた上着を渡してミーシャも出しっ放しだった紙を棚の引き出しに閉まった

落書きのようなものとはいえ大事な商品案だ、留守の家に出しっ放しはよくない



カーターの上着は細身のライにとっては多少大きいらしかった

身長はあまり変わらないのだがガタイの良いカーターとライでは横幅が倍違う

そんな人物の上着を羽織りフードを被ってしまえばミーシャを魅了して止まない後世に残したいほど素晴らしいライの御尊顔もすっぽり隠れてしまった



「眉間に皺寄ってんぞ」

「……抱っこしてもらいながら歩こうかな」

「は?」

「そしたら私だけ、フードの中のライの顔が見える」

「おまえの脳味噌はトチ狂ってばっかだな」

「痛いっ」



皺の寄ったミーシャの眉間をライは指でグリグリ押した

そのまま流れる動作で小気味良い音を立てて額も弾く

冗談半分本気半分で妙案を出したつもりだったミーシャだが確かにずっと自分を抱き上げるのはライが大変かと溜息を吐き痛みから滲む涙目で渋々納得した



「おら、行くぞ」

「うん!」



何はともあれデートだ


ミーシャは緩む顔もそのままに自分の鞄と買い物用鞄を持てばライが何も言わずに買い物用の鞄を掴む

「ライ?」と声をかけても彼はミーシャを一瞥するだけで何も言わずにスタスタと玄関まで向かってしまった


買い物用鞄とはいっても沢山物が入るように作られたソレは少し立体的になってるうえに大きくて嵩張る

お洒落重視で選んだミーシャの鞄と一緒に持つのは少し持ちにくかった



(持ってくれるんだ)



また彼の優しさに触れてしまった


ミーシャは熱くなる胸を抱えてライの元まで駆け寄って行く

そしてライのあいているほうの手にするりと自分の手を重ねた



「あ?」

「行こっか」

「……掴まなくても逃げねぇよ」

「私が握ってないと歩けない」

「でた」

「もしくは抱っこで」

「ざけんな」



どこか覚えのある会話をして歩を進める

軽口を言い合いながらもライは手を振り解かなかった


それどころか、これまではミーシャがただ掴んでいただけの手に今はほんの少しだけライの指からも力が込められていた


ミーシャは嬉しくて仕方がなかった


ライがミーシャを受け入れ始めてくれてることも

大好きな人と今から出かけられることも



緩む顔も弾む歩みも隠さずにライと並んで家を出る





太陽の位置はまだ高い




今日はまだ、始まったばかりだ

















お待たせしました。

やっとデート開始です!

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