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「お小遣い叩いて有名絵師に描いてもらいたい」

「やめろ」




肩より長いといっても高く結い上げるほどの長さはないライの焦茶色の髪をサイドに寄せて耳の下で縛ることで、片側からは縛った髪の束が肩から垂れ、反対側からは長さの足りなかった髪がそのまま垂れている

元々長いライの前髪は少し分け目を作っただけであとはそのままにしているため偶に金の瞳を隠すように垂れてくるのがたまらない

単に後ろで一括りに縛るよりもずっと色気を纏っている髪型にミーシャは16年生きてきた中で一番の良い仕事をしたと感慨に耽っていた



瞳を蕩かせ頬を上気させながらウットリと眺めるミーシャにライは居心地悪そうに視線を逸らすがその頬も赤く染まっている

そんな姿が野性味溢れる風貌の彼の意外性を突いてきてミーシャはこの姿を後世に残さないのは美への冒涜だと本気で考えていた



「こっち見んな」

「無理」

「チッ‼︎」



ライに即答で返せばとても大きな舌打ちをされてしまったがこれは譲れない

なんせこの姿は今日限りなのだ、本当に絵師に描いてもらいたいほどだというのに本人が嫌だというのならもう自分の網膜と記憶に焼き付けるしかないではないか


未だウットリと眺め続けるミーシャにライは再度舌打ちをし片手を彼女に伸ばした


え、と声に出す間もなくその手はガッとミーシャの額を鷲掴む



「えぇ!?」

「見んな」

「無理だよ!そのために縛ってもらったのに‼︎」

「もう見たじゃねぇか」

「足りない!!」



額を掴まれてしまったためライの大きな手はミーシャの視界をも簡単に遮った

力が込められていないので全く痛くはないが問題はソコではない、見えないのだ

額は痛くないが心が痛い


足りない足りないと駄々をこねるミーシャにライは溜息を吐くと美声でボソリと呟いた



「解くか…」

「え!?」



掴んできたライの手の手首を握り必死に訴えていたミーシャがピタリと止まる



(今、なにか不穏な言葉が…)



ミーシャが固まっているうちにライは額から手を引き解放されたミーシャの視界のなかでもう片方の手を使って髪紐を解こうとしているではないか



「ま、待って待って待って!!!」

「ぁあ?離せ」

「なんで解くの!?」

「おまえがジロジロ見てくっからだろーが」

「えぇ!?」



ミーシャが慌ててライの手を掴んで止めるもライは止まらない

ミーシャはライの両手を掴むことでその非道を阻止し必死に言い募る



「ジッと見たのが駄目だった⁉︎」

「見過ぎだ」

「う〜ッ、〜〜ッわかった!ジッと見ない!」

「ぁあ?」

「普通に!普通にしてるから!お願い!解かないで!」



ミーシャのあまりの勢いにライも押され若干背中をのけ反らせる

必死に懇願するミーシャの瞳をライはその復活した鋭い瞳で暫く睨んだが変わらないミーシャの形相に、いや、ライに睨まれ(見つめられ)たことで段々と頬が赤くなっていたがそれでも必死な形相のままなのでライは溜息を吐いて折れた



「離せ」

「そんな!」

「解かねぇから」

「え、本当⁉︎」

「あぁ、言ったこと守れよ」

「わかった!」



ミーシャの嬉しそうな返事にライはまた溜息をこぼした


意識があるときに獣が勝つのは難しそうである




ライが解かないでいてくれたことも嬉しいしどさくさに紛れて両手を握れたことも嬉しくて離し難いのだがこれ以上握っていると今度こそ本当に髪を解かれてしまうかもしれないのでミーシャは断腸の思いで泣く泣く手を離した


そして手の物足りなさを紛らわすように「そういえば、」とライに問いかける



「結局ライが着てた服どうしようか」

「あー、捨てていい」

「いいの?」

「どうせ今から買いに行くんだろ、じゃあ必要ねぇ」

「そっか、わかった」



頷いて返せばライは「あぁ、」と何かを思い出したような声を漏らして言葉を続けた



「俺からも言うつもりだが、師匠にはこれからの給料で金を引くよう言っとけよ?」

「そう?わかった」

「……あと」

「ん?」



父であるカーターがライの為の物を買うのにお金を出しても良いと決めたならそれに甘えても良いとも思うがライが払いたいというならそれで良いともミーシャは思う

甘えるか甘えないかを決めるのは本人だ


そう思い相槌を返せばライは今度は言いにくそうに自身の後頭部をガシガシと掻く

柔らかい彼の髪が解けないようだいぶ固く縛ったため解けることはないのだがそれでもいくつか髪紐から髪が外れる

その無造作さがまたライの野性的な魅力を上乗せして大変素晴らしい、眼福である


思わずウットリしかけたミーシャだったが慌ててライに再度問い返すことで思考を散らした



「どうしたの?」

「あー、師匠の服借りれるか?」

「え、もちろん。やっぱり着替えたくなった?すぐ持ってくるね」

「や、上着だけでいい」

「へ?」



思わず薄緑色の瞳で瞬きを繰り返すミーシャにライはどこか観念した様子で投げやりに言葉を放った



「ツラが見えねぇようなフード付いてるやつ」

「え?」

「他の奴らが湧いてるようなとこ行くんなら、ツラは見られねぇほうがいい」

「…どうして?」



ミーシャは瞬いていた瞳を今度は大きくして目の前の彼に問い返す

そういえば昨夜父もそんなことを言っていたような気もするがあの時は髪のことと手を握っていたライのことで頭がいっぱいでよく聞いていなかった


何故そんなことを言うのかとミーシャは首を傾げる

するとライはどこか困ったような顔で彼女を見下ろした




それだけだった


それだけでミーシャはライのその言葉の意味がなんとなく分かった気がして、身体にナイフを突き刺されたような気がした






暫くしてライの溜息がこぼれる






「…やっぱ泣いた」


「……だって」




分かっている


ミーシャが泣いたところでただ目の前の彼を困らせるだけで何にもならないということは



でも、でもどうしようもないじゃないか



ただ町を歩くということさえ気軽にできないなんて


彼が何をしたというのか

こんなにも優しい青年が一体何をしたというのだ、と


ライの受けている理不尽な仕打ちを思うとミーシャの瞳からは次々に涙が溢れてくるのだ






「泣くな」



困らせることしかできないミーシャにもライは優しく声をかける

そんな彼に益々涙が溢れてきてしまい中々止めることができない


変わらず泣き続けるミーシャを前にライは溜息を一つ吐くと自身が着ている服の袖を伸ばして一歩ミーシャに近付いた


そして袖を纏った両掌でミーシャの頬を包むように挟み袖で涙を拭っていく




「泣くなミィ」

「ッ‼︎」




ライの行動にライの優しい声にミーシャは一瞬涙も忘れ息を呑んだ

溜まっていた涙をそのままにライを見上げればライは困った顔をして笑っていた



自分のほうが辛いのに

そんな仕打ちをずっと受け続けて傷付いているのはライ自身なのに


それでも彼はミーシャを労って「泣くな」と言う





ミーシャは堪らなかった



堪らなく、目の前の彼のことが



【好意】に慣れていないのに

当然のように人に優しくできる彼のことが





ライのことが


好きだと思った









「……ッねぇ、ライ?…ヒック」

「なんだ?」


「…ック、…だ、抱き…ック…ついても、いい?」




「………………しょーがねぇな」




優しい声だった


次の瞬間には彼の腕の中にいた



抱きしめてくれる腕は優しく添えているだけだけど


ライの匂いがする

同じ石鹸を使っても彼からしかしない香りがミーシャを包む


彼の温もりが暖かい


彼の優しさが暖かい




ミーシャはライの背に手をまわして涙で濡れた顔を彼の硬い胸板に押し当てた







「……ック…ねぇ、ライ」

「ん」



「大好きだよ…」





ライの身体は一瞬固まったが

すぐにいつもの溜息を一つ吐いた





そして











「……知ってる」




ポツリとこぼされたライの声に


ミーシャはまた、涙を止めることができなくなった













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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしました、めちゃくちゃ面白かったです! ライくんが愛され慣れてなくてちょっと不憫だなってとこもあるけどきっとミーシャちゃんと一緒に居れば幸せになれますよね! 続き楽しみにしています…
[一言] あああぁぁあ....泣きました_(:3」z)_ ライの...知ってるで涙腺崩壊。ライにはもっと愛を知ってほしいなって思ったし、ミーシャちゃんの愛が本当に純粋で胸が締め付けられる思いです。
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