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愛しくてたまらない  作者: ゆーく
2日
30/124

30・









ー 暖かい




肌に触れている箇所が柔らかい

己を包む暖かさが居心地が良い

少し身動げば身体に合わせたように床も沈む




ー 気持ちが良い







少し動いたことで窓から射す光が顔に当たる

それを遮るように腕で目を隠せば石鹸の香りが鼻をかすめる

どこかで嗅いだことがある匂いだ



だが、


自分が覚えているのは、





もっと、








「…………あまい」





ポツリと呟いた声は擦れていた


己の声を合図にゆっくりと瞼を開ければ目に入ったのは白



己が着ていた土塗れの襤褸でもなく

いつも被っている薄いボロ布でもなく

ところどころある隙間から光が漏れ隙間風が吹く荒屋でもなく



真っ白な布




それが己の腕だと気付き顔の上から腕を下ろす


次に見えたのは木造の天井

しかし自分の記憶にある荒屋のソレとは違い隙間などどこにもない





(どこだ、此処……)






寝起きのまわらない頭で暫しその天井を眺めるが次第にハッキリしてきた意識に沿って金の瞳が大きく見開いていき弾けるように上半身を起こす


焦るように周囲を確認して己の現状を確かめた



知らない部屋

知らない寝床

知らない衣服


先程見ていた白い布は自分の衣服だったのか

それらを見てようやく昨日のことを思い出す




「あ、あぁ…そうか…」




昨日は変な女に捕まって、


それから、





(………現実、なのか)




一晩経っても変わらない現状に昨日のことは夢ではなかったのだと実感する


といっても今までこんな夢など見たことなかったしもし本当に夢に見ていたら己の弱さと情けなさに落ち込みそうだ


ライは顔にかかる焦茶の髪を煩わしそうに掻き上げるとそのまま頭を乱暴に掻き、現状を呑み込む為に息を一つ吐いた



光が差し込む窓の外を見れば既に太陽が高い位置にある


そこでようやく自分は随分と寝ていたのだと気付く





(……こんな寝れたのか、俺)





普段からライの眠りは浅い


隙間風と薄い襤褸にボロ布それと硬い地面が睡眠を手助けしないこともそうだが寝ている間に何が起こるかわからないからだ


身包みを剥がされたり鬱憤を発散したい奴らに寝込みを襲われたり金を奪われる可能性もある


だからこそ寝ている間でも人の気配には人一倍敏感にならざるを得なかった



それが昨夜は全く起きなかった



既に体力が限界だったこと

慣れないことが押し寄せ精神的に疲弊していたこと

初めての風呂で身体がほぐれ満足のいく食事量で胃も満たされていたこと


そして、



初めて己を受け入れてくれる場所に出会ったこと


初めての涙は存外体力を使っていたこと





それらが合わさり


部屋に入れば初めての寝台に目を瞬く間もなく毛布と寝台の間に横になりあとは泥のように眠っていた


明け方近く扉の向こうで狩人(ハンター)に狙われていたことに気配に聡い筈のライが気付かないほど深い眠りだった





(……さすが、貢ぎ坊ちゃんの愛用品だな)




昨夜女…ミーシャ、が言っていたことを思い出しライは口元を緩めた



















「あ!おはよう、ラ……イ!?」



あれから部屋をでて階段を降りさてどこへ向かえばいいかと悩んだ

とりあえず医者と初めて会った部屋でいいかと足を向ければミーシャが1人ソファに座って何かを書いていた


ライが部屋に入ればミーシャは弾かれたように振り返り嬉しさを隠しもしない笑顔で挨拶をしてきたのだが、その表情はすぐに驚愕に変わる


なんだ?と不思議に思っていればミーシャの顔がどんどん青ざめていった




その様子にライは自分の喉からヒュッと音が鳴った気がした





なぜ彼女が今更そんな()()()()の反応をするのか


やはり昨日は何かの間違いだったのか


寝て起きて正気に戻ったのか




心臓がドクドクと嫌な音を立てる


干上がったように乾く喉を無理やり潤わすために唾を飲み込む






あんなに人を掻き回しておいて


そうやっておまえも




俺を拒絶するのか





目の前が黒く塗り潰されていく

ドロドロとした思考が脳内を覆っていく

足元がぐらついて思わず顔を隠そうと手を上げかけた時



目の前から悲鳴が混じったような声がした






「た、大変大変!!ラ、ライ、目、目が!目が!!!」

「………あ?」


「ライの綺麗な瞳を際立たせてくれる大切な瞼が!は、腫れてる!!!」

「……………はぁ?」


「私としたことが!昨夜の内に冷やしておけば良かったのに!急いで冷やそう!!」



そう言ってライの手を引こうと手を伸ばすミーシャにライはビクッと身体が上下してしまう

しかしそんなことには御構い無しに手を掴むミーシャは泣きそうな顔でライを見上げる




昨日と何も変わらないミーシャの様子に塗り潰されていた色が一気に飛散した



…どうやら相変わらずイカれたままのようだ




全身の力が一気に抜けたライは盛大な溜息をこぼしそんな自分に内心で大きく舌を打つ


苦虫を噛み潰したような顔をするライを見て泣きそうだったミーシャの顔はキョトンとした不思議そうな顔へと変わる


そんな能天気な顔にライは沸々と怒りが湧いてきて掴まれている手を離し両手でミーシャの両頬を摘むと左右に軽く引っ張った




ひひゃひ(いたい)!」

「一晩経ってもイカれてんなおまえは」



昨日触った時もライは思ったがミーシャの頬は滑らかで柔らかい


だがその感触に動揺するよりも今は自分を振り回す目の前の彼女へ向けて八つ当たりするほうが先決だと無情にも指に僅かな力をいれた




散々ぶにぶにと弄っていればミーシャは引っ張られている頬を赤く染め嬉しそうに笑いだした


器用だなとライは呆れつつも眺めていれば彼女はそのまま「へへっ」と笑い、そして両手を伸ばし





ライの胸に飛び込んだ




ライは一瞬息を呑むもフワリと香る甘い匂いに


あぁ、寝起きに思い出した匂いはコレだったと




その香りをもう少し覚えておきたくて







両腕をミーシャの背に回す





彼女を抱きしめ

彼女の薄茶色の髪に顔を埋め

目を閉じスゥッと息を吸いこむ



あぁ、これだと

自分が求めていた香りを堪能する




(……あったけぇ)





ライがその香りと暖かさを甘受していると





「ラ、ライ…?」


と、蚊の鳴くような声が己の腕の中から聞こえてきた




目を開ければミーシャが自分の腕の中で固まっている


自分の、腕の、中で……





「ッッ⁉︎⁉︎⁉︎」



ライが慌ててミーシャをバッと引き剥がし距離をとれば彼女は瞳を潤ませ全身を真っ赤にさせていた


動揺を隠せないミーシャの様子にライも負けず劣らず混乱し動揺し己を叱咤する



(ッッッッッにしてんだ!俺!!!!!!)




自分の行動が信じられない

あんなにミーシャを受け入れることに抵抗があったのに






あの香りに温もりに彼女の柔らかさに


昨日と変わらず己を受け入れる彼女に




無意識に手が伸びていた






(変態か!!俺は!!!!!)




未だ全身を赤く染め口をパクパクしているミーシャから顔ごと逸らす

手で口元を覆い羞恥に塗れながらも彼女へ「ッわりぃ…!」と謝罪すれば





「も、もう一回!!!」

「ぁあ⁉︎」

「もう一回!お願いします!!!」



「するかッッッッッッッッ!!!!!!!!」







変わらない彼女のトチ狂った願いに

ライの怒声が響き渡った















ブクマ評価感想、そしてお読みいただきありがとうございます!

とてもとてもとても嬉しいです。

出会いの1日が28話に渡るという恐ろしい効率の悪さにお付き合いいただけて感謝でいっぱいでございます。

今後もこんな感じで続くと思われますが楽しんでいただけたら幸いです。

ありがとうございました!

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