表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/125

25・






「そろそろ話は済んだかな?」

「あ、あぁ。悪かったな先生」

「はは!男親は辛いな、カーター」

「…そうだなぁ。変な男じゃないだけマシだが、実際見るとクるもんがあるな」

「はははっ!理解のある父親でミーシャも幸せだろうさ、なぁ奥さん?」

「フフッ、そうね。私も貴方が旦那様でとても幸せよ」

「俺もニナが嫁さんで幸せだよ」



ライが女と攻防している側で男らは医者も含めて話しだす

途中から何故か女の両親が色を出し始めたがそんなことしてんなら娘をどうにかしろとライは切実に叫びたい


すると医者は笑顔を浮かべながら「やれやれ…」とこぼし攻防するライ達に視線を向けた




「ミーシャ、軽傷だったとはいえ彼は怪我人だ。傷に響くようなことをしたらいけないよ」

「あ!そうね、ごめんなさい」


医者が言えば女は慌てて腕を解いて離れていった

心底助かったが未だに甘い香りが自分に残っている気がしてひどく居心地が悪い

未だドクドクいっている心臓にライは内心で舌打ちをする



「フフッ、ミーシャは良い子だね。では、話も済んだようだし他にも傷がないか確認したいからライくんには服を脱いでもらいたい。女性陣は席を外してくれるかい」

「わかりました。ミーシャ、食事の準備手伝ってくれる?」

「はぁい」


もう怪我はないだろうしその必要もないのだがまたもや口を挟む間も無く話が進み、女達は部屋から出ていった


その際にこちらを未練がましく見てるような薄緑色には気づかないフリをした





女達が出ていったことで言われた通りにしたほうがいいのだろうとライが服を脱ごうとすれば医者に止められた



「あぁ、服を脱ぐ前にコレを飲んで」


見れば女親が置いていったグラスに水が入っている

言われたとおり口に含めば果実の味が微かにし、普通の水じゃないことが分かった


一口飲めばライは自分がかなり喉が渇いていたことに気付く

一気に飲んでしまうと男がその変わった味のする水が入っている容器を持ちグラスにさらに注ぐ

それを繰り返して五杯目を煽げば渇ききっていた喉はやっと落ち着くことができた



「もういいのか?」

「ああ」


がっついてしまったことに少し羞恥心がこみ上げてきた

自分の卑しさに内心舌打ちをして溜息を無理矢理飲み込むと医者が再度目の前にしゃがみ込む


そして真剣な顔でライの瞳を見ながら口を開いた



「さて、ライくん。君にいくつか聞きたいことがあるんだがいいかい?」


改まって言う医者に思わず身体が硬くなる

何を言われるのかやはり自分なんかがまともな仕事をするのは反対されるのか

わからないがもし反対されたり否定されたことで結果雇ってもらえなかったとしてもいつものことだと納得すればいい

痛む心臓には気付かないフリをして背筋をのばし医者に返事を返す


「あぁ」

「まず、年は?」

「……知らねぇ」

「…そうか。では、最後に食事をしたのはいつだい?」

「昨日の夜だ」

「なにをどの程度食べた?」

「干し肉を一切れ」


予想していた非難の言葉ではないが聞いてくる質問は全てライの現状を知るためのものだった

誤魔化しても仕方がないと正直に話すしかないが答える度に眉間に皺を寄せていく目の前の男2人に溜息を吐きたいのを必死で堪える



(やっぱ、こんな奴雇えねぇよな…)



ライは低下層で転がってる奴らと同じだ

加えて客商売に影響を及ぼすツラを持っている

そんな奴を好き好んで雇う奇特な奴はいない



心臓が刺されたように痛む

夢を見てしまった己が馬鹿だったと自嘲し

未だそんな夢を持つような己の弱さに激しく苛立った



ライの持つ金色の瞳がどんどん色を無くしていく



それに気づいているのかいないのか医者は溜息をひとつ吐き言葉をこぼす



「よく身体がもったものだ…」

「……ライ、おまえ住んでた家はあるのか?」

「………寝床にしてる荒屋ならある」



男も質問に加わったため返事を返すがもういいだろとライは思う


拒絶するならサッサとしてくれと


目の前にいる男たちを冷めた感情で眺めていると男は薄緑色の瞳に怒りの色を浮かべていた


あぁ、やっと追い出してくれんのかハンパな夢見させやがってとライが自嘲した笑みを浮かべれば男は更に瞳の中の怒りの炎を強くして口を開く



「荷は?」

「は?」

「そこにおまえの大事なモノや荷物は置いてあるのか?」

「いや、なんもねぇけど…」



なんといっても荒屋だ

何か荷を置いてソコから離れれば直ぐに他の奴らに盗られるだろう

それがなかったとしてもライは稼いだ金以外は身一つだ

常に持ち運べる量の金がライの唯一の所持品だった



「じゃあおまえ、店の改装が終わるまでウチにいろ。元々今日は帰らすつもりもなかったが…。ほんっとに、ミーシャがおまえを見つけてくれてよかったよ…」

「あ?」

「ライくん、君の健康状態を知りたい。胸の音を聴くから服を脱いでくれるかい?」

「…は?」



予想していた罵声ではなく予想外のことを次々と言われる


理解が追いつかず眉を顰めていると目の前の医者は眉を垂らし聞き分けのないガキを見るような顔をしているし男は眉を顰めたまま瞼を閉じ大きく溜息を吐いた



「大丈夫だ、ライくん。君がこの家で働けることがなくなったりはしないよ」

「……なんで」

「当たり前だろうが。俺はおまえを気に入ったんだ、そんな奴がンな暮らしをしてたことに腹を立てはするがそんな理由で追い出す訳ないだろう」

「………」



やはり自分は夢を見ているのかもしれない

それも随分、都合の良い夢だ

自分の目の前にいる男は奇特な奴だったらしい



男の薄緑色の瞳を見れば脳裏に薄茶色の髪の女が浮かんだ



胸の内にこみ上げてくる熱を誤魔化すようにハッと鼻で笑って男を見る



「やっぱ、あんたもあの女の親だな」

「あン?」

「変な奴らだ」

「よーし、まず俺のことはあんたじゃなくてカーターさんだ」

「……………」



思ったことをそのまま言えば男は顰めていた眉をピクリとあげ、次の瞬間にはニヤリと笑い男の呼び方を直してきた



しかし、


ライは人の名前というのを呼んだことがない


今迄生きてきた中で自己紹介というものをしたことがなければされたこともないのだ

仕事をするうえでも互いの名など知らなくても問題なかったから気にも留めていなかった


自分に向けて名前を教えてきたりライの名前を尋ねてきたのは女が初めてだった





だから、


なんというか、





(くそ恥ずい…)



名前を呼ぶということがどうにも慣れなくて口から出てこないのだ



素直に敬語を話すことは平気でも名前を呼ぶことはひどく気恥ずかしい


ライのねじ曲がった羞恥心はここでも発揮されていた






顔に僅かに熱が集まっているのを理解しながらも男から顔を背け黙っていると男は首を傾げて不思議そうに聞いてきた



「なんだ?どぉした」

「……………」

「…もしかして、名を呼ぶのが苦手かい?」

「あン?」

「……………」



さっきからこの医者はこちらの考えていることを当てすぎではないだろうか


我慢できずに片手を顔に当て大きく溜息を吐くと男の笑い声が聞こえてきた



「そうか!じゃあ俺のことは師匠と呼べばいい。家内のことは奥さんとでも呼んでくれりゃあニナも喜ぶ」

「ミーシャのことはなんて呼んでも彼女は喜びそうだけど慣れて言えるようになったら名前を呼んであげなさい」



男…師匠からの言葉に安堵の息を溢しかけたところで医者から無理難題を突きつけられ辟易とする


そんなライにも構わず「じゃあ服を脱いで」と医者は己の行動を続けだした


溜息を吐きながら言われるがままに行動していくと師匠が楽し気にこちらを見ながら口を開く



「いやぁ〜、女を連れ込むような奴は困ると思っていたがライなら大丈夫そうだな」

「嫌味か?」

「ばっか、ちげぇよ。どんな不細工でも娼婦を買おうとする奴だっているだろ」

「ねぇな」



何を当然なことをと言葉を返すが師匠はそうではないという

だが、それこそライにとってあり得ない

誰が好き好んで嫌いな【女】に金を払って剰え気色悪がられなければならないのか


ライの返事に師匠であるカーターはゲラゲラ笑っている




「まぁこちらとしても若い男に性欲を禁止させるつもりはないんだが知らない間に知らない奴を勝手に連れ込まれるのは困るんだ」

「だろうな」

「ライくんが女性を連れ込むなんて言い出したらミーシャが一緒に暮らすと言いかねないね」



クスクスと笑いながら言う医師にライとカーターはギョッとして思わず視線を医師に向けてしまう

次いでカーターは真剣な表情をするとその視線をライに向けてきた



「いいか、ライ。絶対女を連れ込むなよ」

「ったりめえだ」



あの女ならやりかねない

連れ込むなんてあり得ないが女の前では絶対にその話はしないようにしようと内心誓っているとカーターは未だに眉を顰めたままジッとライを見る


なんだ?と思ってライも眉を顰めれば




「ライ…。ミーシャに手を出すのは結婚してからだからな」








師匠の言葉に頭の中が真っ白になる

次いで全身の血が沸騰し一瞬で頭の血管が切れそうなほど脳味噌の中まで熱くなる


腹の傷が痛むこともずっと全身を覆っていた倦怠感も全て忘れて腹の底から力を込めて思いっきり叫んだ











「ねぇよッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ