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「いいか、これだけは先に言っておくが己の安全を最優先にすること。これがおまえを雇ううえでの絶対条件だ」




男が話す言葉にライは目を瞠った


今まで瓦礫拾いにしろなんにしろ自分が宛てがわれるのは決まって1番危険が多く過酷な場だった

そんな環境だったから当然の如く自分の身を優先しろなどと言われたことがない


あわよくばそこで命を落としてくれれば金を払わずに済むと思われていたのだから当然だ





驚きを露わにするライにカーターは眉を顰め薄緑色の瞳を哀しげに細める


「用心棒みたいなことを任せたいって言ってもな、誰かが居れば大抵人は入ってこないもんだ。だからそこは気楽に考えてくれればいい。ただ、万が一勝手に入ってくるような馬鹿がいてそいつが刃物を持っていたり相手が複数で手に負えないと思った時は応戦しようとするな」


「…なんで」

「今日みたいな怪我をする必要はねぇってことだ」



男のその言葉にライは納得する

自分が乱闘になる度に怪我をしているのだと思えばそう言って牽制して手間を省いておきたいのだろう



だからライはその心配はないと伝えるために


今日は稀なこと、

最近では怪我をするほうが少ないこと、

万全の体調ならあと2、3人増えたとしても問題ないこと


それらを教えればこの場に居る全員に驚かれた





「だとしても、だ。商売道具が大事とはいえ替えは効く。

だが、命は別だ。もし危ないと思ったら隠れるか俺を呼びに来い。いいな?」


真剣な顔でこちらに確認をとる男にライは瞬きを繰り返す


自分の下で働く奴が死ぬと体面が悪いからだろうか

なんにせよ自分の身を案じられるというのも酷くむず痒い




「わかった」

「『はい、わかりました』」


「……はい、わ、…かりまし、た…」

「素直だな。ますます気に入った」



言いにくそうに言葉を言い直すライに男は笑みを浮かべる

そして前のめりになっていた身体を起こすと腕を組みながらこれまでの空気を変えるように一段と明るい声をだした



「よし、じゃあ自己紹介をしよう。俺はカーターだ」

「あぁ」

「そこは『私の名前はライです。よろしくお願いします』だ」


「………俺の名前、はライ……です。よろしく、お願い……し、ます」

「ははっ!まぁいきなり全部変えるっていうのもしんどいだろ。今後は仕事の時だけにしよう」

「わかった」



その言葉にライは少し安堵する


自分から指摘したとはいえ使ったことがない言葉は酷く言いにくい

自分がこんな畏まった言葉を話しているということもむず痒いものがある


それに





(俺の名前は、ライ……)



元々【ライ】というのもガキの頃に側にいた男が発した言葉の中で唯一理解できなかった単語だったから自分の名なのかもしれないと思っただけだ

本当にそうだったのかはわからない


誰かに【ライ】と伝えたのも女が初めてだった



あの時は自分のことを「お兄さん」と呼ばれるのがどうも身体に合わなくて丁度使うのに便利だったからと軽い気持ちで言っただけだった



けど、


女が自分をライと呼ぶ

女親も医者もライと呼ぶ

男に真似て自分の名前はライと言う




初めて【ライ】という言葉が身体に馴染んだ気がした








「ウチではさっきも言ったように俺がパンを焼いてる。ウチの目玉商品は聞いたか?」

「いろんな飯と組み合わせてるって」

「ははっ!そうそう!その“いろんな飯”の部分を作ってるのが嫁さんだ」

「改めまして、ニナです。よろしくねライ君」

「……ライ、です。よろしく……お、ねがい、します」

「まぁ!フフッ」



初めて会話をした時よりも砕けた口調で女親に挨拶され言いにくさに苦戦しながらも覚えたばかりの話し方で返す

今更話し方を変えて挨拶するのが酷く羞恥心を煽ったが自分なんかを雇ってくれる人たちだ

礼儀はしっかりと返したいと思ってのことだったが女親は嬉しそうに笑っていた


そんな女親の隣にいる男も笑みをますます深め再度口を開く



「で、その組み合わせを考えたり店番をしてるのがミーシャだ。ライには用心棒代わりのこととは他に厨房にも入ってもらう」

「あぁ」

「と、言っても最初は皮剥きや皿洗いとか下働きになることは覚悟しとけよ?」

「わかった」



細かく説明をする男にひとつずつ肯定を返していく

自分を雇ってくれるならどんな仕事だってするつもりだがこうして事前に説明してくれる男にライは初めて雇用主という者の在り方を知った


素直に頷くライに男も満足そうに頷く



「よし!じゃあライ。これからよろしく頼むな!」

「よろ「やったねライ!!!!」

「どわっ!!」



ライが男に返事を返そうとした瞬間

突然後ろから重さがかかり身体が前のめりになる



何が起こったのか理解できずにいるとフワッと甘い香りが鼻をかすめ顔の横には薄茶色の髪が当たる

首には細い腕が回っていて女の吐息が肌を掠める

背中に当たる柔らかい感触にライは自分がどういう状況かを理解し全身の血が沸騰した



「なっ!!ばか!!離れろ!!!!」

「やだ!!むしろお父さんがよろしくって言うまで耐えてたことを褒めるために暫くこのままでお願いします!」

「は、はぁぁぁああ!?ッざけんな!!!」


回された腕を剥がそうと掴むがその腕の柔らかさと細さにまた心臓が早くなる

力任せに掴めば折れるのではないかと思えば下手に力も入れられず「離せッッッ!!!」と叫ぶしかない

なのに女は「イヤ!!」と耳元で叫ぶしますます腕に力を入れて柔らかいモノを背中に押し付けてくる


(こンッッのアマッッッッ!!!!!!!)



「あら?二人はもう恋人だったの」

「ライが私を好きになってくれれば恋人だよ!」



ライが必死に剥がそうとしているところへ女親がトチ狂ったことを言うが返す女も相変わらず盛大にイカれていた



「何言ってんだ!!!」と叫ぶライの様子に


女親は「あらあら」と言いつつ満面の笑みをこぼし


男親は笑顔のまま固まっていた








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