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「はぁっはぁっ……っ、はぁぁ。ここならっ、大丈夫か、な、ッ」

「…」



あまり人目につかないほうがいいだろうとミーシャは人通りのある道を避け自宅の近くまで逃げてきた

ここなら水場も近いし手当もしやすいと一言も話さなくなってしまった青年のほうへ振り向くと青年は掴まれた腕を凝視しながら固まっていた



「あ、ごめんなさい。痛いですよね?今、手当てしますから座ってください」

「っ!」



ミーシャが声をかけると青年はビクッと肩を上下に動かし「いやっいい…」とまた背を向けようとする

そんな青年を問答無用でその場に座らせたミーシャは先程買ったばかりの品から真新しいタオルと傷薬を取り出し近場の水場から急いで水を汲んでくる

のだが、汲みにいく間に青年が逃げそうだったので仕方なく手を掴み連れて行く

手を掴まれた青年はまたもやビクッと身体を震わせたがミーシャの手を振り解くことはなくぎこちない動きで付いてきた

その様がなんだか面白くてつい口元が緩んでしまう


水を汲んだ後、元の場所に戻りもう一度青年にしゃがんでもらう



「お腹、ナイフ掠りましたよね。血はもう出てないみたいだけど…。大丈夫ですか?ちょっとめくりますね」

「⁉︎いやっいい!さわんな!」

「良くないです!酷くなったらどうするんですか!大人しくしてください!」

「~ッッッ、なんっだおまえ!?」

「ミーシャです」

「はぁっ!?」

「だから、私の名前。ミーシャです」

「…っそうじゃねぇ!!」



喚く青年を気にせず着ている服をめくればまたもや青年の身体がビクッと震え固まった

これ幸いと腹部の傷口を確認して水で汚れを流し消毒をしタオルを細長く裂き包帯代わりにする

タオルを巻くにはどうしても抱きつくような形になってしまうが、青年の痩せているけど薄く割れている腹筋に胸をときめかせたミーシャは役得だと嬉々として密着しタオルを巻き付けていく

その行動に青年の身体は面白いほど反応して視認できる範囲の肌全てが真っ赤に染まっていった


タオルを巻き付けて固定したあとは水で濡らしたハンカチで怪我をしている他の箇所の汚れや血を拭い清め消毒するだけに止める


あらかた治療し終えたところでミーシャが顔を上げれば長い焦茶色の髪の間から金の瞳がミーシャをジッと見つめていた



(綺麗な色…)



「お兄さんのお名前は?」

「……あ?」



金色の瞳を覗き込みながらミーシャがもう一度名前を尋ねると視線を逸らされる

残念に思っていると青年が顔を少し傾けたことで顔を覆っている長い髪が揺れその間から見えた口端に血が滲んでいることに気付く

髪が当たると痛いだろうとそこも治療するためにミーシャは青年の顔にかかっている髪をかきあげる

すると硬そうだと思っていた髪質は存外柔らかく指先をすり抜け、その感触にミーシャの胸が一度大きく脈打った



「ッッッ!!!」



息を呑んだ青年はミーシャの手を強く払うと髪の間から金の瞳で鋭く睨みつけた

しかしその瞳はひどく揺れていて頼りない

ミーシャの手を振り払った青年の手も微かに震えていた



彼を驚かせてしまったかもしれない、謝らなければ、と思うのにミーシャは自分の心臓が止まったかのような錯覚を覚え動くことができなかった



少し見えた青年の鋭い瞳

筋が通っているような高い鼻

薄い唇

少し頬が痩けているようだったが手を滑らせたくなるような輪郭





「……好き…」

「…………は?」





ミーシャは、



“自身の好みドンピシャな人物に巡り会えた奇跡”



という名の雷に打たれて、動けなかった






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