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「ライ?」
顔を覆ったまま、またしても項垂れてしまった相手にミーシャは不思議そうに問いかけるがライから反応はない
何か彼を困らせるようなことをまた言ってしまっただろうかと考えるも先程の会話では溢れる好意を表にだしてはいなかった筈である、多分
特に理由が思い当たらない、が
(はっ!もしかしてライの行動を穴が開くほど注視して尚且つ網膜に焼き付けていたことを気持ち悪がられてる⁉︎)
確かにあの時はライの御尊顔を知らなかったとはいえ気になる声の持ち主が長身で足が長くて喧嘩も強かったことで既に恋愛相手の最有力候補として狩人は狙いを定めていた
そのためライの行動も逐一記憶していたのだ
しかしライからしたら見知らぬ女に物影から凝視されていたということになる
気味悪がられるのも当然だ
サーッと血の気が引いたミーシャの顔は次第に青褪めていく
(ど、どうしよう…)
なんて言い訳をすればとミーシャがオロオロしていればライが溜息を吐いた
この短時間でその色気を匂わす溜息も何度目だとミーシャが更にオロオロしているとライは顔を覆っていた手で髪をかきあげると頭をガシガシと搔いた
「……このツラだとあることないこと言われるからな。面倒ごとになりそうな原因は極力作らねぇようにしてるだけだ」
「へ?」
不意打ちでもたらされた心臓に多大なる負荷を与えるかっこいい行動に胸を押さえていればライのぶっきらぼうな声が聞こえミーシャは思わず間の抜けた声をだしてしまう
そんなミーシャにライは眉を顰める
「なんだ?」
「や、ううん、大丈夫。思わぬ流れ矢が心臓に刺さって悶えてたから反応ができなかっただけで」
「何言ってんだ?」
ますます眉間に皺をよせ視線をミーシャの胸元へと動かしたライだったがすぐに顔を横に向けた、その頬は少し赤い
鋭い瞳と危うい雰囲気を持っているのにすぐに肌を赤くするところも彼の魅力でとても好きだとミーシャはまた射抜かれた
だからこそ不安だ
「……私のこと、気味悪いと思った?」
ライの魅力で痛む心臓と不安からくる鼓動の早さにミーシャの心臓はいっそ止まりそうだった
「はぁ?なんで」
「……見えないところからライのことずっと見てたから…」
訝しげに聞いてくるライはミーシャが不安そうにポツリと返答をこぼすと呆けたようにポカンと口を開ける
次いでその開いた口を僅かに動かし「…俺に気味わりいか聞いてんのか?」と呆然とした表情のまま問われたのでミーシャは何故そんなことを聞かれるのかと不思議に思いながらも頷くことで肯定を示した
するとライは口角をあげたかと思えば頭を下げ「ククッ…!」と喉の奥で笑いはじめる
(笑ってるの本当可愛いなー)
と、ミーシャが現実逃避気味に眺めていると「今更だろ」と美声が届いた
やはり気味悪がられていたのかと肩をシュンと落としたミーシャだったがここからどうやって挽回すべきかと狩人は落ち込む気持ちを不屈の精神で紛らわせる
狩人が脳内でアレコレ計画を立てていると笑いがおさまったらしいライは頭をあげミーシャに愉しげな視線を向けた
「あんたがぶっ飛んでんのは今更だろ。ンなことでいちいち気味悪がってたらキリがねぇよ」
と、目を細めて言う彼は本当にカッコイイ
ミーシャ自身はぶっ飛んでいるつもりはないのだがそのおかげで気味悪がられないなら渡りに船である
「ほんと?」
「なんで嘘つかなきゃなんねぇんだ」
口元を楽しそうに歪めているライを見てどうやら本当に気にしてなさそうだとミーシャは安堵の息を吐いた
なら、もう問題もない
「良かった!じゃあ行こうか」
「は?どこに」
「え?だから家に」
「は?」
「え?」
ミーシャの中ではもうライとのめくるめく半同居生活が始まっていたのだがライに怪訝そうに返されてしまった
そういえば彼から返事は貰ってなかったかもしれない
一人暴走してしまったことに気付いたミーシャは慌ててライに確認をとる
「え、駄目かな⁉︎
こちらが用心棒として住み込みをお願いするからもちろん家賃は取らないし三食賄い付きだよ?それとは別に厨房に入ってもらうつもりだからお給料だってちゃんと出すし…。
あっ!お休みも希望言ってくれればそれに沿うようにするよ」
指を一つずつ折りながら可能な条件を提示していくと呆気に取られていたライは次第に眉間に皺をよせていく
なぜそんな顔をするのか
不思議に思って首を傾げるミーシャにライは溜息を吐き投げやりに言い放った
「ンな好条件、俺じゃなくてもやりたい奴山程いんだろ」
「………そうなんだよね…」
ライの言葉は尤もだ
(本当に、その通りで……)
つい最近の出来事を思い出してミーシャも溜息を吐くと遠い目をしながらライに事情を話すことにした
「確かに、たくさん希望者はいるの。だけどやっぱりお店は大事な場所だから信用できる人にしかお願いしたくなくて」
「だろうな」
「用心棒みたいなことをお願いするからどうしても男性になるし」
「あぁ」
「でも腕に覚えがなくて返り討ちにあうような人じゃ意味ないでしょう?」
「そりゃそーだな」
「それに…」
これを言うのは物凄く気まずい
というか言いづらい
ましてやライに言うのかと思うと自意識過剰だと思われそうで恥ずかし死にするかもしれない
「うぅぅ〜あ〜」と唸るミーシャにライは「ンだよ」と怪訝そうな表情で先を促す
ミーシャはせめてもの抵抗として自身の顔を両手で隠し小さな声で白状した
「………私に、気がある人以外…っていうのが、条件で…」
「………は?」
精一杯小さい声で話したミーシャだったがどうやらライの耳はとても良いらしい
湧き上がる顔の熱を必死に隠しながらミーシャは(ライは耳もいいのかー)と明後日な方向へと思考を逸らした




