13・
「………泣き止まねぇじゃねぇか」
未だ両手で顔を覆い泣きじゃくっている女を前にライは溜息を零す
するとくぐもった嗚咽を伴った声で「ラ、…っライの、せい…っ」と返してきたがなぜ自分のせいにされなければならないのかライはさっぱりわからない
もう一度大きく溜息を吐き膝に肘をかけそこに顔を乗せながら目の前の女を眺める
自分を見て泣き叫ぶ女は見たことがあったがこうしてボロボロ泣いているのをライは初めて見た
最初は動揺もしたがこの短い間で何度も泣かれてしまえば正直慣れてきてしまう
(俺がこんな間近で女の泣き顔を眺めるなんざなぁ…)
今朝の自分に言っても絶対信じなかっただろうとライは自嘲した笑みをこぼす
それどころかそんな馬鹿げたことを宣う自分を哀れんだかもしれない
ましてや【俺とじゃなきゃ嫌だ】と女に泣かれたなんて言おうものならそれこそ頭がイカれたと思っただろう
そういえば誰かに【ライ】という言葉を言ったのは初めてだからそのことさえ何故言ったのかと不思議がったかもしれない
自分だって未だこの状況が信じられない
ライにとって今まで起こり得なかったことが、ましてや死ぬまで経験しないだろうと思っていたことがものの数時間で怒涛のように押し寄せてきたのだ
すぐに受け入れろというほうが無理だった
(ただ、まぁ……)
女の言う【恋愛】というやつもわからなければ
【好き】だというのもわからない、が、
(悪くねぇな…)
と、ライは思う
【好き】はわからないが嫌いなものなら沢山ある
今まで出会ってきた【女】もその嫌いの部類に入る
しかし目の前の女がそこに入らないことだけはライにもわかっていた
女との会話もライは楽しかった
突拍子もなくぶっ飛んだことは言うがライに変に同情することもなければ否定もしない
こんなに長く他人と会話をすること自体初めてだったが【楽しい】と感じたことも多分初めてだった
ライの顔が原因で仕事を断られることがあると知って目の前の女は泣き出したが泣き出した奴が目の前の女でなければ同情か自己陶酔に浸ってる偽善者だと蔑んでいただろう
ライはそういう奴らも嫌いだった
だが目の前の女が泣いた理由を知ったときライは(馬鹿だな)とは思ったが何故か蔑む気にはならなかった
(こんなに汚ねぇ見るからに低下層の野郎に平然と抱きついてくるほどイカれてる女だからだな。寧ろこっちが同情しそうだ)
大分失礼なことをライが内心思って納得していることも知らずに女は変わらず泣き続けている
よく泣くなと思って眺めているとふいに女の横に鞄が置いてあることに気付いた
治療をする際にそこからタオルや消毒薬を取り出していたのを思い出しよく持ってたなと今更ながら少し驚く
どうやらその鞄には他にも物が入っているようだ
もしかしたら買い物用の鞄なのかもしれない
そこでライはふと気付き女に声をかけた
「なぁ」
「…ズビッ、…はい?」
「あんた買い出しかなんかの途中なんじゃねぇのか?」
「………あ」
女は思い出したように声をもらすと少しずつ嗚咽が小さくなっていった
そのことに少しだけ安堵したライは呆れながら「こんなとこで道草くってていいのか?」と聞くと「もう、買うものは、買った、から…っ」と女は声を途切れさせつつ答えた
「じゃあもう帰れ」
「……ライは?」
「俺も戻る」
「仕事?」
「いや?仕事は今日ので今回のは終いだ」
聞かれたので答えたのだが何故か女は不思議そうな顔をした
「戻るってどこに?」
「寝床」
「………家とは違うの?」
聞かれてライは返事に詰まってしまう
確かにあの荒屋で寝てはいるがそれだけだったためそこに【家として帰る】ということを当て嵌るのが思い浮かばなかったのだ
「あー、ンな立派なモンじゃねぇよ」
「………」
ライとしては当たり前のことを言ったつもりが女は眉を顰め何かを考えるように黙ってしまった
不思議に思ったがまた頓珍漢なことを言い出す前にさっさとココから離れようとすると
「ねぇ、ライ。家で働かない?」
と、女はやはり頓珍漢なことを言い出した




