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大変お待たせして申し訳ありません!
誰だっけコレ?という方いらしたらコチラで登場人物まとめてありますのでよろしければご参照ください…!
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前回までの雑なあらすじ↓
風邪で瀕死のライに添い寝する役得ミーシャ
ー 暖かい
肌に触れている箇所が柔らかい
己を包む暖かさは居心地が良い
少し身動げば身体に合わせたように床も沈む
ー 気持ちが良い
荒屋の汚い床でも硬い地面の上でもない場所で寝起きするようになって数日経った
泥のように眠った初日以外は身体に沿うような弾力さをもつ寝台の上は何かと居心地が悪かった
だがその慣れない故の居心地の悪さが日に日に薄れかけていったのはこの家に流れる空気のせいかもしれない
だとしても今微睡むライを包む暖かさはこれまで以上にライに居心地の良さを感じさせた
少し身動いだことで窓から射す光がライの顔に当たる
それを遮るように顔を伏せれば甘い香りが濃くなった
慣れ始めた石鹸の香りと胸いっぱいに吸い込みたくなるような甘い香り
どこかで嗅いだことがある匂いだ
脳裏に薄緑色の瞳が過る
ライがその香りを追うように更に顔を伏せれば鼻にくすぐったさを覚えて僅かに意識が浮上する
どうやら日の眩しさから逃れるために顔だけではなく腕にも力を入れていたらしい
腕の中にある暖かさと柔らかさのせいで空虚さを感じなかったため力を入れていることに全く気付かなかった
(………?)
なぜ腕に力を入れているのだろうかとライは寝起きの頭で暫し悩んだ
自分の身体には上掛けがかけられている
頭の下には枕といわれるクッションも置かれている
何かを抱え込むにしても見当がつかない
衣服でも掴んでるのかと思うものの力を入れているわりには自分に当たる感触は柔らかさしか感じられず己の骨張った腕が身体に当たる感触もない
だが、
力を入れた腕の中
柔らかさと暖かさを併せ持つものはとても気持ちが良くて
その気持ちよさに浸るように更に身体を寄せれば甘い香りが更に強くなる
僅かに浮かんだ意識がその香りに誘われてまた意識を手放しかける
もっと、
この香りと暖かさを感じていたい
再び眠りに落ちる前にライは再度腕に力を入れてその居心地の良さを感受しようとした
「…………んっ」
ポツリと小さな音が零れた
透き通っているのに耳に残るその音はライの耳にもよく残る
そう、その音はよく耳に残るのだ
(……あ?)
脳裏を過った薄茶色の髪に引かれるようにライがゆっくりと瞼を開ければ目に入ったのは脳裏を過った薄茶色
慣れ始めた寝具の真っ白さではなく随分見慣れてしまった薄茶色
近過ぎる距離と寝起きのまわらない頭で訳もわからず顔を離し僅かに距離をとる
次に腕に違和感を覚えてそのまま視線を下ろした
視界いっぱいに広がっていた薄茶色の髪に包まれた自分より白い肌
髪と同じ色の長い睫毛が頬に影を作り脳裏に浮かぶ薄緑色は硬く閉ざされた目蓋の下
肌色と薄いピンクの間という名前の分からない色をもつふっくらとした唇が無防備に開いていて
その唇から微かな声が零れた
「…ラ、ィ……」
「!!??!」
寝台から落ちた
ライが盛大な音を立てて寝台から落ちたにもかかわらずライの腕の中で至高の眠りについていたミーシャは僅かに眉根を寄せただけで未だ目を開けない
そんな変わらず眠り続けるミーシャの姿を目前にライは更に混乱した
「なっ!?はっ?はぁぁっ!?」
寝ている時でさえ他人が近くにいれば警戒してきたライにとって誰かと隣り合わせで眠ることなんて有り得ないことだった
そんな有り得ないことを知らぬ間に実行してたうえに目覚めてすぐにその事実を目の当たりにしたのだ
しかも何故か自分はミーシャを抱き締めていた
あまりの驚愕に寝台から落ちるというものである
目前で未だ気持ち良さそうに眠るミーシャ
寝ぼけていたときに感じた居心地の良さと香りが思い起こされてライの羞恥を煽った
「何してんだおまえ!!??」
「!?」
脳内で処理しきれない状況と湧き上がる羞恥を散らすようにライは痛む喉が裂けんばかりに理不尽に叫んだ
その渾身の叫びにミーシャはビクッと身体を震わせパチリと目を覚ます
しかし寝起きで呆然としているのかミーシャは瞬きを繰り返すだけで何の反応も示さない
返されない反応を待つよりも先に寝起きの頭がハッキリしてきたライは徐々に昨日の記憶が蘇ってきていた
雇用主であるカーターに身体を拭かれたこと
奥さんであるニナに食欲を聞かれたこと
ミーシャに世話をされたこと
そして、昨夜のこと
徐々に記憶が鮮明になってきたライは床に座り込んだまま頭を抱えて呻いた
(な、…っくそ!なんつー…っ)
あまりの醜態に言葉がでない
初めての風邪に死を覚悟したものの起き上がれる今となっては自分の弱りようが酷く大袈裟で情けなく反吐が出る
少し辛かったからといって雇用主や奥さんに面倒を見られミーシャにも散々世話をかけた
物心ついた時には既に頼れる者もなく自分のことは自分で面倒を見るしかなかったライにとって身動きの取れない時に人の手を借りるということは顔から火が出るほど恥ずかしかった
(くそが…っ!!!)
歪んだ羞恥心を持つライは人並み以上に羞恥の波に襲われた
しかも言わなくてもいいようなことをミーシャにベラベラと喋った気もする自分にライは(何を余計なことを…っ!)とさらに打ち拉がれた
ライが頭を抱えて己の醜態に散々打ち拉がれている間も部屋の中は沈黙が流れていた
(…っ!……、………?やけに、静かだな)
同じ部屋にいるはずのミーシャから何の音も聞こえない
また寝たのか?と打ち拉がれていたライが顔を上げるとミーシャは横たわった姿勢のまま両手で顔を覆っていた
「?」
てっきり今朝もトチ狂ったことを言い出すのかと思っていた
いやむしろライの醜態を目の当たりにしてこれまで以上に騒がれるかとも思っていた
けれどミーシャは黙したまま微動だにしない
不審に思ったライは身を乗り出し寝台に腕を置く
「何してんだ?」
むしろ寝台から落ちたライが何をしているのだと聞かれそうなものだがミーシャの不自然な様子を前にしたライにとって自分が寝台から落ちたことは頭にない
しかしライの棚上げの声掛けにもミーシャは何も返さない
「ミィ?」
「…っ」
ライが更に近寄り顔を覗きこもうとするとミーシャは両手の下で息を呑む
ミーシャは微かに震えていた
その姿にライも息を呑む
何故ミーシャが震えているのか
自分が怒鳴ったからか
流石のミーシャでも寝起きに怒鳴られたことで怖がらせてしまったのか
それとも醜態を晒しておきながら掌返しに怒鳴り散らしたことで怯えさせてしまったのか
浮かび上がる原因の数々に自己嫌悪で内心舌を打つ
せめてこれ以上ミーシャを怯えさせないようにとライは努めて声を潜めてミーシャに問いかけた
「ミィ、どうした?」
「見たかった…っ!」
ミーシャの頭を撫でようとしていたライの手が止まった
「…あ?」
「やっと!やっと見れると思ったのにぃ!!」
顔を覆っていた両手をバッと下げたミーシャの薄緑色の瞳は今にも零れ落ちそうなほどの涙で揺れていた
しかしそんな悲壮な表情を前にしたライは這い寄る違和感に眉根を寄せて伸ばしかけた手を引っ込める
ミーシャのトチ狂った感性の気配を感じながらも拭いきれない罪悪感に後押しされてライは静かに問いかけてみた
「…何を」
「ライが起きる瞬間を!!せっかく一緒に寝れたからライの寝起き姿を遂に見れると思ったのに!!ライの起きた瞬間の寝ぼけ眼が見れると思ったのにぃぃいいい!!!!!」
「……」
「見たかったぁぁああ!!ライの綺麗な金色の瞳が寝起きでトロンってなるかもしれない寝ぼけ眼!!瞼が上がる瞬間!!起きた後の掠れ声!!聞きたかったぁぁあああ!!!」
「……」
「あわよくばライが起きる前に腕の中に潜ろうと思ってたのにぃぃいいい!!!!!」
「っ!いい加減にしろ!!!!!」
思わぬミーシャの願望に一部不可抗力で気付いた時には実行してしまっていたライは湧き上がった身体中の熱を散らすように再度痛む喉が張り裂けんばかりの怒声をあげる
今日も元気に朝からトチ狂ってるミーシャの隣でライは暫し喉の痛さに咽せ続けた
「愛しくてたまらない」にぶつけられない雑な書きたい欲をぶつけた短編をまた新たに書いてしまいました!
もしよろしければお暇な時にでも「不能魔女」と「灼熱の赫と緋色の蒼炎」を覗いてみてやってくださいませ…っ!
いつも鈍亀不定期更新にお付き合いくださりありがとうございます…!(感涙