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突然凄い音を立てて机に顔を突っ伏してしまったライにミーシャは驚きもしたし慌てもしたし心配もしたのだがいつまでも顔を上げないライの姿に不安にもなった


(凄い音がしたし絶対痛い…)


それにあの綺麗な顔にまた傷が付いてしまうのでは、いや傷があればあったで更にライの野性的な魅力が上乗せされるので愛でる以外の選択肢はないのだがそれでも痛い思いはしてほしくない

もしかしたら赤くなっているかもしれない、いや赤くても日に焼けた肌との対称でヤンチャさが増してやっぱりライの魅力を上乗せしてくるのでまたもや愛でる以外の選択肢があるわけもないのだがそれでも心配は心配で


ライへの恋情と不安を交互に抱えながらオロオロとしていたミーシャは何かライの気を紛らわすことができないかと視線を彷徨わせ


そして考えついたのがお守りだった


これならライの字の練習の続きになるし何か明確な目的があるほうがライもやりやすいかもしれない

ミーシャ自身その考えが浮かんですぐに、自分は天才なのでは?と思うほど最適な答えに思えた


ライの書いた自分の名前を持ち歩く

なんて素晴らしいのかと


物凄く欲しくなってしまったミーシャは薄緑色の瞳を輝かせライの返答を待った

いやこれはライの気を紛らわすためでそしてライの練習が主だった目的であって決してミーシャの願望だけではない決して、そう決して





しかし、断られる

くぐもっていても鼓膜を蕩かせるような美声で「っれが、書くか…アホ」と言われてしまえばミーシャもうっかり『じゃあ、仕方ない』と諦めてしまいたくなる

それでも最後の悪足掻きにと再度懇願するところが欲に忠実だといえる所以だ


 

「ちけぇ」

「ふぶっ」



突っ伏していたライを覗き込むように懇願していたミーシャの顔をライは引き離した

今度は顔も上げずに腕だけ伸ばして掌で押したのだが実に見事にミーシャの額を捕らえていた


顔も上げていないのに何故距離が分かるのだろうかとミーシャは額を捕われ視界を覆われたまま首を傾げる


もしかしたらライは周囲の気配を読むのが上手いのかもしれない

初めてライを見つけた時も後ろから襲いかかられているのを見もせずに撃退していたし、なんてかっこいいんだ好き


視界を遮られていてもライの大きな掌に触れてもらえることやライの武勇伝を思い出したことでうっかりときめくお手軽なミーシャ

ただそんなお手軽娘でも好きな人に距離を取られるのは寂しかった



ライに振り向いて欲しくて

ライとの距離を縮めたくて


ミーシャはもう一度声をかける



「ねーえ、ライー」

「…ぁあ?」

「手、外して?」



ライは姿勢を変えずに顔だけを微かに横に向けて胡乱げな瞳でミーシャを睨む

しかし視界を覆われているミーシャにはその表情は見えないため相も変わらず大きな掌の温度にときめいていた



「てめぇの距離感がおかしいからだろぉが」

「…これでも我慢してるのにぃ」

「ぁあ?」


(しまった)



つい本音がこぼれてしまったミーシャはライの不機嫌そうな相槌に慌てて口を噤んだ

もう少しいやどうせならべったり引っ付いていたいがこれ以上距離は取られたくない、今この瞬間にも感じている温度に鼓動が早くなったりしてこの距離を楽しんでもいるミーシャだがソレはソレ、コレはコレである


前言を取り繕うようにミーシャは声音を改め明るく言い放つ

ついでに距離が縮まないならと額に伸びるライの手を握ることで接触箇所を増やすことも忘れない

その際ピクリとライの手が動いたがしっかり握りしめた感触を堪能するミーシャはただ驚いただけなのだと軽く受け止めていた



「お守りは諦めるから、違う紙に私の名前書いて?」



そんなミーシャの言葉にライは訝しげに眉を寄せ「あ?…なんで」と凄みを聞かせて問い返した

勿論視界が覆われているミーシャにはライのその射るような鋭い瞳は見えていないし低音に響く美声も色気を増して自分を陥落させようとしてるとしか思えないため頬を仄かに染めて楽しそうに答える



「いーからいーから」

「……持ち歩くんじゃねえぞ」

「肌身離さず持って幸せを感じてたいんだけど」

「アホか」

「イタッ」



呆れたような美声と共に視界を覆っていた手がミーシャの額と手から外れるとすぐにミーシャの額に微かな痛みが走った

ライはミーシャの額を弾いた指と手をヒラヒラと振ると顔を上げてその手で頬杖を付く

ミーシャからの視線から逃れるように体勢を変えるライの姿にミーシャは弾かれた額を摩りながら慌てて追い縋った



「持ち歩かないから…!」

「ぁあ?」

「絶対持ち歩いたりしないから、この紙に書いてほしいの!」



何処からか出した別の紙を差し出しながらミーシャは必死に懇願した

ミーシャに背を向けるような姿勢でいたライだったか着ている衣服を掴まれたことで顔だけをミーシャに向けて柳眉を寄せる

訝しげにしながらもその紙が今までライが練習で使っていた紙とサイズ以外は全く同じものだったためか何も言わずに渋々といった態度でその紙を受け取った


今まで使っていた紙よりも小さな掌サイズの長四角の紙にライはミーシャに言われたままに彼女の名前を書いた



「おらよ」

「ありがとう!」



ライは傷のあるほうの眉を上げて訝しみながら小さな紙をミーシャに手渡す

それを受け取ったミーシャはニコニコと顔に満面の笑みを浮かべてソレを眺めると一度胸にギュッと抱きしめてから小物が置いてある棚へと移動した


何をするつもりなのかとライが黙ってその行動を見つめていればミーシャは徐に棚から針の付いたピンを取り出してソレをライから手渡された小さな紙に付けた

そして、そのピンを片手に持ちもう片方の手で着ている衣服の胸元部分を軽く引っ張るミーシャ


服に穴を開けてピンを付けようとするミーシャの行動にライは慌てて立ち上がり声を荒げた



「あ!?何やってんだおまえ!!」

「え?ライに書いてもらったのずっと付けてようと思って」

「はぁ!?おまえっ持ち歩かねえつったじゃねえか!」

「持ってないよ!付けるだけ!」

「同じだろッ!」

「全然違うよ!?肌に触れてるか触れてないかは大きいよ!」

「はぁぁあっ!?」



信じられないとばかりに瞳を大きくするミーシャに対してライも信じられないとばかりに顔を顰めた



「バカじゃねぇのか!?ンなことのために穴開けんのかよ!」

「そうだよ?この服は記念すべき第一号だね!」

「他にも開けるつもりかよ!?」

「勿論!毎日付けるからゆくゆくは全ての服にこの穴を開けてみせるよ!」

「ッッッバッッカじゃねえの!?」



ミーシャの持つピンを取り上げようと近付くライにミーシャは胸を張って答えるが足はライから逃げるように遠ざかっている

普段ならライが近付いてくると分かった瞬間にその胸に突撃しにいくミーシャだったが今はその愛してやまない桃源郷のような腕の中から逃げようと距離を取るのもライが嫌がると分かっていたからだろう


それでも掌の中にある新たに増えた宝物を取り上げられるわけにはいかないのでミーシャは必死に逃げた



「寄越せっ!!」

「いやっ!!」



先程まで距離を縮めたいと思っていた相手から必死に離れるミーシャ

愛故に仕方がないのだと涙を飲み込み狭い部屋の中を障害物を利用して必死に逃げまわる



「こンッの…!ちょこまかと…!!」

「大丈夫だよライ!持たないから!付けてるだけ!!ほら、コレがあれば新規のお客さんにもすぐに名前覚えてもらえて親しみ持ってもらえるし!」

「てめぇ!店でまで付けるつもりか!?」

「しまった!!」



もう何度目になるかわからない二人の攻防は、

ガタンバタンと色々な音を立てながらも暫く続いたのだった










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