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お立ち寄りありがとうございます。

拙いモノですが生易しい目でご覧いただけますと幸いです。






-バキッッ




「?」


聴き慣れない音を拾いミーシャは思わず音のしたほうへ視線を向ける


どうやら音の発生源は路地裏へと繋がる細道からのようだが人気のないその道は不気味なほど薄暗い

発生源を見ずとも音の正体に気付いてしまったミーシャは小さな溜息を吐いた



(荒事を起こすならもっと奥でやればいいのに…)



ミーシャが住むこの町は比較的治安が良いとはいえ暴力沙汰も然程珍しくない

巻き込まれる前にさっさと移動するつもりだが気づいてしまったからには憲兵を呼んだほうがいいのだろうかと若干めんどくさく思っていると今度は罵声まで聞こえてきた



『ーーッツ!ーーー!!!』

『ーー!!!』



「聞こえない聞こえない、私はなーんにも聞こえない」



どうやら複数で誰かを囲っているようなのだが首を突っ込んで要らぬ火の粉を被りたくはない


平凡な一般人が幸せに暮らすには時として残酷になることも必要なのだ


ウンウンと1人頷きながら憲兵を呼びに歩みを再開させようとすると今まで聞こえていた濁声や野太い声とは違う別の声が聞こえてきた



『ーーーっせぇ!!!』

「!!」



先程から聞こえてくる声よりも幾分か若いその声にミーシャは思わずその場に留まり振り向いてしまう


(結構声が若い。…というか、低いのに声が通って聞こえる。というか!すっごい!イイ声!!)



ミーシャは先程の事なかれ主義な思考を跡形もなく捨てると素晴らしい美声の持ち主の顔をいざ拝みに行かんと荒事真っ最中の道へそそくさと近づいて行くことにした、実に欲望に忠実な娘である


しかし、それも仕方のないことなのかもしれない



ミーシャ好みの人物を見つけることができないこの町でたった一つでも惹かれる要素を持つ相手が近くに居るのならばそれはミーシャにとって千載一遇の貴重な機会なのだ




ミーシャが希望を胸に件の道へ近付くにつれ希望に添わない罵声の音も大きくなる



(こんな喉が潰れたような濁声でも皆は渋くて良いって思うのかな。鼻が潰れてても漢らしいって言うし、やっぱり皆が言う【かっこいい】の条件はさっぱりわかんないな)



ミーシャだって年頃の女の子だ

恋愛の一つや二つ、なんなら三つや四つ経験したいし憧れだってある

男性に力強く抱き締められたいし熱いキスだってしてみたいし熱の篭った瞳で狂う程求められたい



そう、ミーシャは少々、いや大分、恋愛に積極的だった



しかし、どうも周りとは好みが違うようで皆が言う【かっこいい】をミーシャは理解することができない


ミーシャに声をかけてくる男性達も


太く繋がりそうな眉

腫れているような瞼に埋もれた瞳

上から潰したような鼻に分厚い唇

顔は角張っていて

硬そうな髪を刈り上げた短髪に

輪郭を覆い隠すほどのもみあげ


揃いも揃って似たような容姿ばかり



別に不細工だとは思わないがそんな彼らが自信有り気に流し目をよこして甘い言葉で口説いてくるものだからミーシャはその都度、一度鏡を見てからアプローチ方法を再検討して全員出直せと言ってやりたくなる


なのに友人たちは皆、歯牙にもかけないミーシャに勿体ないと詰め寄ってくるのだから全くもって意味がわからない


事情を知らない者が聞けばそんな友人達の態度はモテるミーシャに不人気な男を当てたいのではと思われそうだが、生憎ミーシャの友人にはそんな捻くれた性格の持ち主はいない

加えてミーシャを口説いてきた男たちを懸想している女性たちの数の多さでその男たちがどれほど人気なのかは嫌でもわかるだろう


そしてその女性たちにミーシャはよく睨まれるのだが、ミーシャとしては彼らのどこが良いのかさっぱりわからないのでやっぱり意味がわからない




わからないから全くときめかない

ときめかない相手となんて恋愛したくもない


でもミーシャは【恋愛】がしたい



だからこそ一つでも自分の好みという可能性を見つけてしまえば見逃すことなど到底できる筈もなかった




ミーシャが逸る気持ちを抑えてソッと件の道を覗けば奥に複数の男の姿が在る


身なりはあまり良くなさそうだが浮浪者というには筋肉が付いている

低賃金の労働者辺りだろうか


しかしミーシャが気になった声の持ち主にしては皆年を取りすぎている気もする



(あの人たちよりも奥かな…)



少しでも顔が見えないかと目を凝らしていると男たちの罵声の内容がはっきりと聞こえてきた



「てめぇに金なんか必要ねぇ!これは俺等の金に決まってんだろうが!」

「仕事まわしてやったんだから仲介料ってやつだよ、そんなんも知らねぇのかっ」

「お前みたいな見てるだけで吐きたくなるような男に、親切にも仕事を紹介してやった俺たちへ感謝をあらわすべきだろう?」

ーーギャハハハハッ





(……なんてわかりやすい罵倒…)



そんなつもりはなかったが今ので大体の事情が分かってしまった


と、すると

ミーシャが気になる声の持ち主は奥に居るであろう、“男たちに騙された見てるだけで吐きたくなるような男”ということになる



(えー、あんまりかっこよくないってこと?でもここでも好みの違いがあるかもだしなー。うーん…、やっぱり先に憲兵さん呼んでこようかなー)



自分の欲望に素直なミーシャは好みじゃないかもしれないと分かるやいなや興味が薄れつつあるのだから結構ひどい



「っっざけんじゃねぇ!!!!自分で稼いだ金自分で使って何が悪い!!!てめぇらは仕事押し付けてきただけだろうが!!」



ーーーバキッ!!



「てめぇ!」「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」



初めに聞き留めた音と同じ殴りつける音を合図に男たちの乱闘が始まってしまった

囲んでいる男たちは5・6人、1人で相手取るのは危険すぎる


流石にコレはまずいとミーシャは助けを呼びに走るべきなのだ、が、


なんだか状況がおかしい


乱闘状態で姿がよく見えないが焦げた茶色の髪を持つ男が複数の男達を次々にのしていくのだ


向かってきた拳を避けそのまま相手の腹部に拳を叩きこんだかと思えば、足を大きく振りかぶって後ろから襲おうとしていた男の横顔に長い足をめり込ませる

かと思えば掴みかかろうとしてきた男をしゃがんで避けるとそのまま足を払い倒れたところを踏みつける



(すごい…)



数分もしないうちに囲んでいた男たちは全員倒れ伏していた


乱闘が収まったことで焦茶色の髪の持ち主の姿がよく見えた

一人立ち続けているその男はやはり倒れている男たちよりも若く見える


薄汚れた衣服を纏った肩が上下に動くことで青年の息が荒いこともわかった

暫く洗っていないのかくすんで見える焦茶の髪は肩より長い

首を垂らしているためその髪がベールのように青年の顔を隠している

流石に無傷とはいかなかったのかところどころ痣や傷も見て取れた

しかしそんな状態にも構わず青年はフラッと足を進めると倒れている男の懐から金が入っていそうな袋を回収していた





「…大丈夫ですか?」

「‼︎」



意を決したミーシャが恐る恐る青年に近づきソッと声をかけると青年は焦茶色の髪が跳ねるほど身体を反応させ素早く身構えた

体勢を変えずに髪の隙間から一瞬ミーシャを覗き見ると青年はすぐさま顔を逸らしミーシャの居る道とは別の道へ逃げようとする


「待って!」と声をかけるが青年は振り向かずそのまま走りだしてしまう、が、



「危ないっ!!!」

「!?」



一瞬のことだった

倒れていた男のうちの1人がナイフを取り出すと背中を見せて走ろうとする青年に向けて投げ放ったのだ


ミーシャの声で振り返った青年は瞬時に身体を捻るがナイフは僅かに横腹に掠る

微かに呻き声をもらしたものの痛みに耐えた青年はナイフを投げた男の元まで戻ると相手の頭部を蹴り付け意識を奪った

荒い息を繰り返しながら男を見下ろす青年は相手の意識が戻らないことを確認すると再度踵を返してしまう

しかし小さな声を漏らすと己の腹部に手を当てて地面に膝をつけてしまった



「大丈夫ですか?!」

「…っ来んな!!」

「っ、」



青年の唸るような怒声に一瞬怯んだミーシャだったが背後の通り沿いがざわつき始めていることにも気付いてしまったため急いで青年に走り寄った

このままココにいては青年が憲兵に捕まってしまうかもしれない



「こっち!」

「は?あ、おいっ!」



未だ肩より長い髪で顔を隠している青年の腕を掴むとミーシャはその場から逃げるために駆け出した






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