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60.草原からの帰還


 ワサを引き連れて逃げる俺たちの人数は7人。

 俺、タロー、おやっさん、冒険者が男2人、女の子2人の4人組だ。

 中でも俺たち女3人の体力がやばい。タローもオークだから子供にしては筋力はあるが、いつまで持つかは怪しいものだ。


 若い冒険者の一行の中で、魔法使い風の地味なおさげの女の子はハァハァと息をついていて、俺たちの中で一番、遅れがちだった。


「コニー、がんばれ!」


 仲間たちに励まされてコクンと頷くが、もう答える元気もないみたいだ。

 両手で杖を握りしめて走ってるからスピードが出ないんじゃないかなと思ったりもしたが、俺にだってそこまで助言する余裕はない。


「マ、マ、がんば!」


 タロー、お前、結構余裕だな?

 とにかくこのままじゃジリ貧だ。何か手はないのか?


「反転して戦いましょう!」


 男の一人がキリッと眉を寄せて、決意の眼差しで伝えてくる。おおー、男らしい! そう言うアツい展開も嫌いじゃないが、でも今はちょっと無謀じゃないかな。

 おやっさんも同じ意見のようで、いつにもまして険しい顔を横に振った。


「あの数だ。踏みつぶされて終わるのがオチだ」

「でも、だったらどうすれば……!」


 男は気遣うように遅れているコニーちゃんを振り返る。仲間想いのいい奴じゃねーか!

 さっき、俺の乳をチラっと見ていたけど、無罪!


 仲間たちの想いを汲んだのか、ゼーゼーと苦しい吐息の中、コニーちゃんが顔を上げて口を開く。


「わ、私……ミラージュの魔法が使えます……」


 ミラージュ……幻影の魔法だな。俺たちの偽の映像を見せて、ワサを別方向へ誘導しようって作戦か。

 だけど、それには致命的な欠点があった。

 言い出した女の子、コニーちゃんも分かっている。


 ここは遮るものは何もない草原。

 幻影を作り出しても、俺たちが隠れるところがない。


「おい、エルフ。何か目くらましはできねーか?」


 おやっさんが走りながら俺に顎をしゃくる。

 よーし、俺も中身は男だ。不可抗力とは言え、この事態を引き起こした張本人でもあるしな。やってやるさ!


「誰か火を持ってないですか!」

「俺は生活魔法を使える。魔法使いほど威力はないが、焚火に着火するくらいの炎なら出せる」


 盗賊風で、首元に黒いマフラーを巻いて風になびかせている男が伝えてくる。


「それでいいです! 合図を出したらお願いします!」


 皆で強く頷き合う。俺は走る速度は緩めないまま、ウェストポーチに手を突っ込んだ。こう言う時、魔法の鞄は便利だな。走りながらでも中身をこぼすことなく、欲しいものを取り出せる。

 精霊石のサークレット。お値段、白金貨1枚、およそ100万円也を引っ張り出して、額にはめる。


 あんまりにも高価過ぎて人前でつけたことなかったんだけど、この際、そんな悠長なことは言っていられない。

 細やかな細工の美しいサークレットを身に着けた俺を見て、どよめきが走った。

 ふっふ。俺の美しさに見惚れてもいいんですよ。


 すぐに俺の周囲を風の精霊さんたちが取り囲むが、ごめんね。今は出番ないんだ。


「準備できました、お願いします!」

『イグニション!』


 男が叫ぶと掌の上にボッと炎が灯った。その中心に、チロチロと舌を出す赤いトカゲみたいな、半透明の存在がほんのり見え隠れしている。

 お願いだから、力を貸してくれるかな?

 ええーい、大盤振る舞いだ。魔力、半分持っていけ!!


『ファイヤウォール!!!!』


 炎の精霊を介して、ワサの大群の方へと掌を突き出す。

 轟々と、螺旋を描いて大きくなった炎は、草原を覆いつくさんばかりの巨大な炎の壁を作り出した。これには怒りに我を忘れたワサもたまらず、炎の壁の向こうでたたらを踏んだようだった。

 ただ炎の精霊さんは気まぐれだ。こんな大きな炎、多分、数秒も維持できない。


「今だ、コニーちゃん!」

『光よ。その(ことわり)を曲げ、我の前に幻影を作り給え。ミラージュ!』


 しっかりと両手で杖を握りしめ、額の付近に掲げて、コニーちゃんは目を閉じて集中した。ユラリと、俺たちから影のような幻影が立ち上って別方向へと動き出す。


 この間に、炎の精霊の活躍を見た風の精霊さんたちが活気づいてくれちゃって、俺の髪をツンツンと引っ張ってくる。

 分かってる、わかってるって。このために半分、魔力を残したんだからな。


「みんなっ、このまま逃げるよ! クイックステップー!」


 ぐっ……7人一気はやっぱりきついな。ごっそり魔力を持っていかれる感じがする。

 風の加護をまとった俺たちは、今、走り始めたかのようなスピードでその場を離脱した。

 炎の壁が消えた後ではパニックになったワサたちが、反転しようとしたり、幻影の俺たちを踏みつぶそうとしたり大騒動になっていた。


 こっ、怖いよー。幻影だからよかったようなものの、あのままあそこに居座ってたら俺たち、ぺしゃんこになってたよ。

 涙目で、かなり遠くなってきた光景を振り返って眺める。


 こうして俺たちはなんとか東の草原から無事に帰還したのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

章の途中で大変申し訳ないのですが、都合により、しばらく更新をお休みさせていただきます。

更新を楽しみにしてくださっている方には本当にすみません。

また更新を再開した際にはどうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

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