59.ワサワサトレイン
「ぼやっとすんな! 逃げるぞ!」
目を吊り上げて怒れる猛牛……もとい、ワサたちを目の前にして呆然とするばかりの俺だったが、おやっさんの大声が耳を打ってハッと我に返る。
すぐさまタローの手を握りしめて、脱兎のごとく走り出す。
ティアさんの逃げ足を舐めんじゃねーぞ!
西の森で鍛えた逃げ足、とくと拝ませてやるぜ!と気合を入れて走り出したはいいのだが、このエロエルフの身体には欠点があった。
〇っぱいである。
平時は俺たちDTの夢をたくさん詰め込んで、素晴らしい大きさと柔らかさを誇るが、なにせ走る時は揺れる揺れる。
スライムがごとき流動体であるふたつのふくらみは、激走すればするほどバインバインと上下に跳ねまくる。
痛いのだ。
ブラジャーはつけてるけど、そんなの意味ないってくらい痛い。
女の子がなぜ両腕を強く振って全力疾走しないのか、よく分かった。そんなことをしたら乳がもげる。
俺はタローと繋いでるのとは反対の腕で胸を押さえて、泣く泣く走っていた。
もちろん、そんな走り方だから速度もたかが知れている。
「ちんたらしてんじゃねーぞ! もっとスピード出せないのか!」
「これが精いっぱいですって~~!」
いつの間にか後ろから追いついてたおやっさんにも抜かれるし、もはやタローの手を引いてんのか引かれてんのかも分からない状態だ。
チラリと背後を見ると、俺たちの後ろはもうもうと立ち上る土煙で何も見えない状態だった。
その煙幕の向こうから、ブモーブモーッ!と怒りの鳴き声が響き渡っている。
俺は目の端に涙を浮かべてスピードアップした。乳が痛いとか言ってる場合じゃない!
「違う、ちがう、そっちじゃねぇ! こんな大量のワサを連れて街には戻れねぇ!」
「じゃぁどうするんですかあぁ~!」
一目散に街に戻るのかと思ったのに、おやっさんは違う方へ行けと指示を出す。いつまで走り続ければいいんだよおおぉぉ!
そうこうしている内に、俺たちの進行方向にポカンと口を開けて突っ立っている4人の若者の姿が見えてきた。
やっばい! 忘れてた! 他の冒険者もワサ狩りに来てたんだった!
「ごめん、ごめんなさーい! 逃げて逃げてー!」
俺は走りながら見えやすいように両腕を上げてブンブンッと大きく振りまくった。
冒険者たちは男2人、女の子2人って構成のパーティだった。
男2人に関しては、突然、大量のワサを引き連れて現れた俺たちに驚いているのか、走る動きに合わせて上下に揺れている俺のおっ〇いに目が釘づけになっているのか、よく分からない。
隣の女の子がムッとした表情になったので、やっぱりちょっとは注目したみたいだ。
若い冒険者4人は何が起こったのかあまり分かっていない様子だが、ほとんど俺たちと団子になって一緒に走り出した。
「なっ、何があったんですか!?」
「このバカがメスのワサを射抜きやがったんだ」
おやっさんが俺を親指で指さす。それは言わない約束でしょ、おとっつぁん!
おやっさんの言葉を聞いて、4人はさーっと顔を青くさせた。メスのワサを襲うって、それだけ怖いことなんだな。
俺はもう、絶対、ワサ狩りなんかには来ないからな!!
「そ、それでこれからどうすれば!」
「とにかく、こいつらが飽きて追いかけて来るのをやめるまで走り続けるしかねぇ!」
「そ、そんなぁ~」
おやっさんや、鍛えている戦士らしき男2人はともかく、俺や女の子たちはどこまで体力が持つか分からない。
俺だけじゃなくて、ちょっと遅れてついてきている女の子たちからも悲愴な声が上がる。
大量のワサを引き連れた俺たち一団は、死ぬ気で草原を爆走し続けた。
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金曜日は「60.草原からの帰還」を更新予定です。
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