41.オーク、絶体絶命!
「じゃーな! タロちゃん、また明日!」
俺が拳を振り上げて告げるのを、タローは洞窟の入り口のところから見送った。
肩辺りで小さく手を振ってちょっと淋しそうではあるが、昨日みたいにグズったりはしてない。
戦い方も教えたし、今日も精霊さんたちがついてくれてる。夜の間は洞窟の中にいれば安全だろう。
そう思っていたのに翌日、俺はタローを放って帰ったことを後悔するはめになった。
宿の食堂でミミたちと朝ご飯を食べていると、外で強い風が吹いたようでガタガタッと窓が鳴ったのだ。
「うむ? シルフ?」
ドワーフが怪訝そうに窓の外に視線を向ける。俺も同じ方向を見ると、精霊さんが小さな腕で必死に窓を叩いていた。
その口がパクパクと動いて、何かを伝えてくる。
≪た・ろ・ちゃ・ん≫
「俺、行かないと!!」
血相を変えて俺はガタンと椅子を立ち上がった。
「お嬢?」
「ティアちゃんっ!?」
驚く皆に何も答えず食堂を飛び出すと、一足飛びに階段を駆け上がる。
早く行かなきゃと思うのに、手が震えてなかなか装備が身につけられない。
どうしたんだよ、タロー。何があったんだ。
なんとか身支度を整えて宿を飛び出す。
まだ朝も早いが、市が立っているので人混みを抜けるのに時間を食う。
「ごめんね、通るよ!」
「ティアさん、こんな朝早くからどこ行くんすか!」
西門の門番さんたちが声をかけてくるが、ギルドカードだけ手に掲げて、そのまま通り過ぎる。
『クイックステップ!』
マジックバッグからサークレットを取り出して身に着けると、すぐさま自分に魔法をかける。
追い風って言うんだろうか。風が自分の身体を押してくれるような感覚がして、見る見る内に走る速度が上がった。
どんどん景色が後ろに流れていって森が近づいてくる。
それでも。それでも遅い。この距離が遠い。
息が続く限り俺は森へと駆けた。
精霊さんとはっきり意思疎通できないのがもどかしい。
急いで、急いでと言っているみたいだが、タローの状況を教えてくれたりはしないのだ。
あまり難しい言葉は分からないんだろう。
何を聞いても悲しそうな顔で首を振られるだけだ。
急いでって言うからには、急げば間に合うんだろう。そう信じて走るしかない。
洞窟にタローはいなかった。朝ご飯に置いていった弁当も手つかずで残っている。
「タロー? おーい、タロちゃーん? どこにいるんだー? ママ、怒らないから出ておいでー!」
呼びながら周囲をうろうろと探し回る。
精霊さんたちが一箇所でクルクルと円を描いているので、近づいてみると短剣が落ちていた。
タローに買ってあげた剣だ。
こんなものが抜き身で落ちてるってことは、剣を使わないといけない状況になったってことだ。
「俺のせいだ……」
俺が中途半端に戦い方なんて教えるから……タローには防御しか教えてない。あいつは攻撃の仕方を知らないんだ!
近くを探すが、タローの姿は見当たらない。
その代わり、何かを引きずったような跡が森の下草にうっすらと残っていた。
その幅は、ちょうど子供1人分くらいの大きさで……。
カッと頭に血が上る。
「待ってろ、タロー!」
俺が今、行くからな!
精霊さんを見上げると、力強く頷いて森の中、なだらかに丘になっている方向を指さされる。
俺は脇目も振らず、そちらに向かって走り出した。




