32.オーク、一人でお留守番する!
お腹もいっぱいになった上に、はしゃいで疲れたんだろう。
水浴びを終えて泉から上がったタローは、木の根に座る俺の足元で、うつらうつらと船をこぎ始めた。
起こすのは忍びないが、肩をそっと揺すって呼び覚ます。
「たろちゃん、俺ね、もう行かないと」
伝えると、まさかと言うようにタローの顔が見る見る内に歪んだ。
「ど……ど、して。ママ、おでのこと、きらいなった?」
目にいっぱい、涙を浮かべて見上げられる。
ゆっくりと、その頭を撫でて宥める。
「そうじゃないよ。だけど、俺は街に住んでいてね、帰らないと心配する人たちがいるんだよ。たろちゃんを街に連れてくわけにもいかないし……」
「マ、マ、いかないで……いかないで!」
タローは必死に俺にしがみついてくる。俺だってこんな小さい子を森に放って行きたくはないが、すぐに帰ると言ったのに結構な時間が経ってしまっている。
そろそろ門番さんたちがヤキモキしている頃だろう。
下手したら捜索隊とか出されるかも知れない。
タローが冒険者に見つかったら、きっと、お目こぼしはしてもらえない。
子供と言えど討伐されてしまうだろう。
俺は、ランランララランランランとかBGMが流れる中で、「きちゃだめ~!」とか言いたくないからな!!
「タロー、俺は明日もちゃんと来るよ。約束するよ」
頭に手を置いて、目を合わせて言い聞かせると、渋々だがタローは俺からゆっくりと離れた。
「大丈夫だよ。精霊さんに、安全な場所を見つけてもらおうね?」
また手を繋いで、森の中を移動する。
風の精霊さんたちは張り切ってくださって、崖のふもとに広々とした洞窟を見つけてくれた。
幸い、何かの動物とかモンスターの根城に使われてるってこともなくて、完全に空き洞窟みたいだ。
近くに川もあるし、水にも困らなそうないい立地条件だ。
「お弁当を置いて行くからね。夜に食べるんだよ。俺以外の人間には、絶対に近づいたらダメだからね?」
よくよく言って聞かせるとタローは寂しそうながらもコクッと頷いた。
さっきからまったく喋らなくなってる。
俺はウェストポーチから全部の食料を出して、ドカドカと洞窟の中に並べた。
護符の使い方も教えたし、身代わりのブレスレットも身につけさせた。
精霊さんも半分以上がタローの側に残ってくれるみたいだ。きっと危険な魔物から目を逸らしてくれるんだろう。
だからタローは大丈夫。大丈夫と、根拠のない言葉で自分を納得させようとする。
「タローちゃん、また明日ね!」
俺は最後にぎゅっとタローを抱きしめると、振り返らず洞窟を出た。
振り向けば戻ってしまうと分かっていたからだ。
「マ……マ……!」
小さく、洞窟の奥からタローが俺を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
それを振り払うように俺はスタスタと早足で洞窟を出ると、前だけ見据えて歩き続けた。
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