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05 運命を変える為に策謀を巡らせます

 

「私はルイーゼ=フィーニアス。トラネス国の姫と結婚するには強い男であらねばならないと使者より聞き、ここまで参った。トラネス国一番の強者とお手合わせ願いたい」



 聞いたトラネス兵たちは一様に驚き騒ぎ始める。


 少々お待ちをと言ってルイーゼとアンドリューを置いて皆が皆門から引っ込んでしまった。



「トラネス軍は精鋭揃いだと聞いていたがこの程度で乱れるとは平和ボケしているな」


「今は平和ですからね」


 ツッコミのような世間話のようなアンドリューのコメントに「死者(アンデット)になってたから弱いのかと思っていた」などとルイーゼは一度目の時空軸の昔を振り返る。



「それにしても遅いな」


「トラネス王にまで連絡が行くような案件ですし、あちらも対応策を考えているのでしょう」


「なんか『武に秀でた実力主義の国』というから暴れたい者が我先にと突っ込んできてバッタバッタと倒す爽快劇が出来ると思っていたのに……拍子抜けだ」


「トラネス国がそんな世紀末でしたら国が成立してませんよ」



 トラネスの街民は他国の王子が道場破りの如く一人で騎士団を荒らしにきたことに怯えて近寄らないが、若干ガッカリした様子のルイーゼと涼しい顔のアンドリューは全く気にした様子はなかった。


 散々待たせた後、侮った態度で図体のデカい大男がやってきた。


「「あっ」」


 アンドリューとルイーゼの声が重なった。


 あのビジュアルの死者は覚えている。


 死者の中でも当時の2人からしたら強敵の死者だった。



「オークじゃなかったのか」


「私もオークだとてっきり」


 二人はコソコソと昔の記憶を訂正した。



「ああん? 俺様にビビって戦うのはやめるってか王子様よお」


 下品な笑いに見えてしまうのは太った図体と肉が詰まってパンパンの顔のせいだろう。


 確かにこの大男は強かった。


 しかしそれは『一度目』の話であり、今のルイーゼには小指で屠れる程の実力差が付いているだろう。



「いや、よろしく頼む」


「おっとその前に死んでも文句は言わねえと一筆書いてくれよな。王子様が弱すぎて俺が殺しちまったらフィーニアス国に怒られちまうからな!」


 ギャハハとガラの悪い声で笑う大男。



 ルイーゼが死んでもいいと一筆書いたところで何らかの手段で生きて返さず暗殺するつもりだろう。とアンドリューは読んだ。


「では其方にも一筆書いてもらいましょう。王子の責任問題になっては困りますので」


「ふぅん。なら殺してもいいのか」


 軽い口調で物騒なことを言うルイーゼ王子に辺りはどよめく。



「き、基本的に殺害は反則ですが不慮の事故の為の一筆になります」


 横に居た小賢しそうな文官の男が止めに入りルイーゼは「力の加減が難しそうだ」と面倒そうな顔をした。


 あまりの余裕さに大男も少したじろいだ様子を見せる。



 『一人殺せば犯罪者だが、100万人殺せば英雄』と言われるようにルイーゼは英雄になった者である。


 今の世界ではかなり危ない思想ともいえるが、人を殺すことが好きでなったわけでもないのでユニが関わらなければルイーゼはただ戦いが好きなだけのやんちゃ坊主だ。



 多分指示しているのはトラネス王なのだろう、どうやってでも『ルイーゼに自分が死んでもトラネス国のせいではない』と一筆書かせここで始末を付けたいが故、あまり気が乗らなくなり汗ばむ大男も静かに一筆を書いている。


 書き終わるとルイーゼは愛用の剣を抜き出し構えもせずに大男と向かい合った。







 ◇







 結果的に言えば、ルイーゼの圧勝であった。


 大男は早々に一撃で倒され、大きな動揺が走った。



「私が勝ったからユニをもらえるということで良いか」


「い、いや! トラネス国にいる強者はこの者だけではありません故……」


 文官は焦り言葉を遮る。ユニを持っていかれたら自分の身が危ないことをわかっているのだろう。


「なら全て呼び出し一筆書かせておけ。面倒だからかかってくるのはまとめてでも構わん」



 ――そこからトラネス軍はグダグダとひたすら兵士たちを向かわせるだけのルイーゼVSトラネス軍のようなかたちが始まってしまった。


 数の暴力でかかっても大魔法が打てるルイーゼにはただの烏合の衆であり、バリアも破れるものはいなかった。



「あぁ、大魔法に直撃貰っちゃってますね。この方のお命が危ないので先に搬送してください。治癒は必要ですか?」


 アンドリューが救命係になるほどにルイーゼたちは余裕であった。



 体力消耗の為に騎士団にいる者全てが挑まされ、その後強者と戦わせてもルイーゼに敵う事はない。


 誰一人ルイーゼに傷一つつけることなく、殆どの者がギブアップするまでボロボロにされた。


 報奨金でも出ているのか、死ぬ気で挑んでいるような者には気絶で眠らせたりして全員を一応生きて帰らせた。



「他にもういないのならユニをもらっていくぞ」


「ひっ え……あの……」


 身体を鍛えているからと言ってこんな一介の優男な王子一人に、大陸一と言われたトラネス軍が束になっても敵わないとはトラネス側としては完全に予想外であった。



 小賢しそうな文官は「こうなれば最後の手だ!」と、周りに潜ませていた暗殺者たちに護衛騎士であるアンドリューを人質にとらせた。


「お前の大切な部下の命が惜しければ剣を置いて大人しくしろ!!」



 ルイーゼは大層ガッカリしながら


「これが大陸一と言われた屈強なトラネス軍か」


「遂に本性を出しましたね」


 アンドリューは自分を拘束しようとした暗殺者を片手でいなし大きく投げ、壁にめり込ませた。


 その人間離れした力と技に文官や周りにいた意識のあるトラネス軍の兵士たちは驚きで開いた口が塞がらない。



「私の護衛騎士が弱い筈あるわけなかろう」


「恐縮です」


 ふんっと周りにふんぞり返る主であるルイーゼと対照的にアンドリューは極めて控えめであった。


 そうやってルイーゼを隠れ蓑にして暗躍するのが一番効率が良いと長年連れ添っていくうちに学んだアンドリューの処世術だ。



「しかし、他国の王子に対して先程の物言いは無礼ではないのか?」


「暗殺者まで使って不意打ちとは些か手合わせとは様子が違うかと思いますね」


「い、いや……それは……」


 なんとか言い訳しようとしどろもどろになる文官の奥から「ルイーゼ!」と走ってくる者がいた。



「ユニ!」


 後ろからメイドたちが「ユニ様! お戻りください!」と追いかけてくるがルイーゼが騎士たちを全員再起不能にしたせいで止められる者はいなかった。


「ルイーゼ!」


 そういってユニはルイーゼの胸に飛び込んだ。



「ユニ! ああ、夜の君も素晴らしかったが昼に会う君の姿もとても眩しくて綺麗だ」


「あ、有難う……ルイーゼも……ってそんな話じゃなくて! ルイーゼがトラネス騎士団と戦いに来たって聞いて僕びっくりして……!」


 怪我はない? と心配そうにルイーゼの身体のあちこちを見回すユニに「全部返り血だ」と安心(?)させた。



「トラネス国の実力主義社会の郷に従ってトラネスの強者と呼ばれる者には全て勝った。これでユニを貰い受けれるだろう」


「えっ 本当に勝っちゃったの?」


 心配して大急ぎで走って来たというのにピンピンしているどころか全てに勝ってユニを持ち帰る気でいた。


 ユニがキョロキョロと周りを見渡すと死屍累々の兵士たちの姿があり、それが事実であることを証明していた。




「ユニ!!」


 そう怒鳴るような大きな声にユニはビクリと震えた。


 ルイーゼはその怒鳴り声だけでその声の主が誰のものなのかがわかった。ユニを怯えさせるその正体をキッと睨む。



「トラネス王」


「貴様、何をしておる。ユニから手を離せ」


「いいえ。私はトラネス国の慣習通りに実力でユニを貰い受けました」


「ユニはわしの娘だ。自由にする権利はわしにある」


 あるわけあるかボケジジイ。首をへし折りたくなる気持ちをグッと抑えて言い返す。



「同じくトラネスの慣習で王になられた貴方が力でユニを嫁にする私を覆そうとでも?」


 現トラネス王は旧トラネス王とは血のつながりはなく、ただ純粋な強さと賢さで圧倒し王になった。


 流石のトラネス王もこれには黙るしかなかったようで、無言で剣を突き立ててきた。


「……ならば、力で奪い返せばよかろう」



「父様! ルイーゼ! やめてください!」


「大丈夫だユニ。君が悲しむから殺さない」


 そう言ってユニをアンドリューに任せ、突っ込んでくるトラネス王の剣を受ける。



 剣と剣がぶつかり合い、鍔迫り合い、擦れるような音が響く。


 実力でトラネス()を勝ち取った男なだけあり、未だに強さは健在のようだった。



『一度目』であったのなら絶対に敵わなかっただろう。しかし



「私は! お前から! ユニを救う為にやり直したんだ……っ!!」



 ルイーゼは渾身の力を込めてトラネス王を押し返し思いっきり足で蹴り上げた。


 巨体は空を飛び、滑空して綺麗に落ちた。


「父様!」


 まずい、憎しみで全然力の制御が出来ていなかった。



「ユニ、すまないトラネス王の治療をしてやってくれ」


 手加減なくやりすぎたと正直に言うとユニは真剣な表情で頷きトラネス王の方に駆け寄って治癒魔法をかけた。


「ユニ様が治癒魔法だと……」


 何も知らない箱入り娘のユニが治癒魔法を使えることに皆驚いていた。



 治癒魔法は適性があるものしか使えない。


 どこへ行っても食いっぱぐれることのない優秀な能力であるので、かなり当たり適性とも言われる。


 が、強さが正義のトラネス国では治癒は下に見られる為、トラネス国に居座る酔狂な治癒師は少なかった。



(そんなんだから他国と比べてトラネスの平均寿命は低いんだろうな)


 ユニはそういうところにも目を向けていた。ユニなりに良い王になろうと精一杯努めていたのだ。


 ルイーゼには到底できない考えであり、ユニのその穏やかな考え方を聞いていると戦いに明け暮れた自分まで清らかな気持ちになってくる。不思議な男だった。




 ユニの治癒魔法で目を覚ましたトラネス王にルイーゼは「ユニは貰っていく」と声をかけた。


「荷物などは追い追いウチの者を呼んで運ばせよう」


「待て……!!」



 しかしこの父親はそんなユニの努力を「無駄」と一蹴して力を求めることを強要した。


 好きなユニの一部を踏み潰すことはルイーゼにとってそれは到底許せることではなかった。



「儂から離れるなど許さん!! ユニは儂の言う通りに生きればいいのだ!! お前は儂の子だ!!」


 まだ食いついてくるトラネス王に、ユニに対しての歪んだ執着を感じる。



「……トラネス王よ、貴方はユニを愛しているのか?」


「る、ルイーゼ!」


 たった一人の子供であるユニを愛していることだけは本当だと信じたかった。


 強さを追い求めるルイーゼはユニよりもトラネス王の考えの方が良くわかる気さえしている。


 出来ることならば、同じく闘いを好む強者として酒を酌み交わしたりしたかったものだ。とルイーゼは思った。



「何を世迷い事を……ユニは儂の元で育ち暮らしたからこそ今こうやって生きてこられている! 故に我が物である!! ()()に儂の意向に添わせて何が悪い!?」


「…………」



「ユニ、すまない……」


「……いや、いいんだ。……有難う」



 ユニは王子の頃から愛されることに慣れておらず、愛されるということにたまらないほど喜んだ。


 そんなユニを見てルイーゼは『ユニは親に愛されたいと願っていた』のではないかと思っていた。


 だから、こんなにも執着をしているのならユニは愛されているのではないかと思ったのだ。



 トラネス王はただひたすらに自分の完全な理想を追い求めて、()()を見ていなかった。



 小手先だけの強さで強さを誇示して、無理矢理従わせて楽しいのか?




「そうやって見た目の強さや完璧さに執着してる人間が一番弱く見えるぞ」



「…………」


 押し黙るトラネス王を横目にルイーゼは踵を返した。



「ユニ……ッ」


「……父様……さようなら」


 そう礼をしてユニはルイーゼの後を追い、隣に並んでは肩を寄せ合った。



「…………」


 ルイーゼの言葉が響いたトラネス王は呆然としたまま追えとも命令もせず立ちすくんでいた。






 ◇






「トラネス国の騎士や国王まで叩きのめして姫を奪ってきたーー!?」


 ユニをつれてフィーニアス国に帰ると当たり前のようにフィーニアス国王も王妃も眼を剥いて驚いた。



「きちんとトラネスでの筋は通しましたので問題はありませんよ」


 ここにいるのはフィーニアス国の王族と護衛騎士のアンドリューのみ。


 他の騎士たちは退出を命じられて外で護衛を務めている。



「そういう問題ではありません!!」


 ルイーゼが姫の頃によく聞いた金切り声の王妃の声で叱られる。




「……とりあえず、やってしまったものは仕方がないよ」


 国王と王妃に連絡が行く前にアンドリューから話を聞いていた兄は比較的冷静な面持ちだった。


「しかしレイスよ、これは今後のトラネス国とフィーニアス国にも影響を及ぼす問題なのだぞ」



「父上、その影響を利用するのが我らの腕の見せ所です」


 そうレイスは両親である国王王妃に向かって言葉を続けた。


「『トラネスから姫を攫った王子』は外聞が悪いですが『碌に外にも出されず軟禁状態だった姫を救い出した王子』と伝え広ませればどうです、フィーニアス国は悪いようには聞こえません」


 フィーニアス国は外交に特化した国。噂を広めるのは大得意であるし、力任せな外交をしているトラネス国より信頼は厚い。


 口だけの社交界での戦いなら圧倒的に分があるわけだ。



「民はみな、最近トラネス国のユニ姫とフィーニアス国のルイーゼ王子の夢物語を面白おかしく肴にしていると聞きました。そこに事実ユニ姫がフィーニアス国に来たとなれば信憑性は増します」


「民心を味方につけるか。それでユニ姫がこの国に迎えられたとしてもトラネス国との関係はどうなる。プライドを傷付けられたと攻撃してくるやも……」


 ここ最近のトラネス国からの圧力に国王は参ったように疲れた姿勢を見せた。



「事実、ルイーゼはトラネス国の騎士も国王も倒してトラネス国の流儀に沿ってユニ姫を手に入れています。そこで「天晴!」というのがトラネス流であり、喧嘩を仕掛けてくるのはトラネス国の恥だと言えば黙るでしょう」


 事実にみんなが食いつくような多少の味付けをして吹聴する。


 そうすることにより周囲の善悪を操作させる。


 吟遊詩人を雇いそのような詩を作らせ思いっきり広めさせ、そしてフィーニアス国は一環としてトラネス国から可哀想な姫を救った、夢物語が本物になったと口当たりの良い言葉で扇動してトラネス国より優位になるよう動く。



「だんだんトラネス国が孤立してきた時にユニ姫とルイーゼの平和的婚約の話を再度出し、こちらに有利な条件で和解関係込の政略結婚にすることができます」


 トラネス国の腹の内はどうであれ、和解も出来た上に外交面で有利な状態に持っていくことができる。


「うむむ……なるほど……」


 レイスの外交手腕はなかなかのものであったが、今回の策はレイスが考えるには些か老獪だった。


「レイスよ、それはどこで学んだのだ?」



「アンドリューと共に考えました。まだ若い護衛騎士だというのによく気が付く」


「いいえ、私はレイス様のお言葉に少し添えただけでございます」



 そう人好きのする笑顔をして謙虚に一礼するアンドリューにルイーゼは『またやってる』と思っていた。


 人を上手く口車に乗せ、あたかも其方が考えたとタダで動かし自分の真の目標である『ユニとルイーゼの幸せな結婚』に気付かせないように操る。



 確かに若い頃から気の利く男だったが、連合軍として国同士が『どの国が犠牲になるか』のような生死をかけた腹の探り合いによって、気が利く利用方向が180度変わったと言っても過言ではない。


 アンドリューも変わったものだと感慨にふけりながらルイーゼは威風堂々という言葉が似合う佇まいで国王に進言した。



「まあ……もしトラネス国が攻めてくるとしたら私が先頭に立って蹴散らしてみせよう」


「頼むからお前はもう何もしないでくれ!!」



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