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02 運命を変える為に性別を逆転したらすごい楽

 


 ルイーゼが男になったことによる変化を確かめる為、よく訪れていた訓練場に足を運んだ。


 護衛騎士のアンドリューもルイーゼの後ろをついてきている。


 数年後のアンドリューを見た後だからか少し若く感じるがルイーゼと同じく経験や技術は記憶に残っているらしい。隙がない。



「おうルイーゼ坊ちゃん! また鍛錬か?」


「ドルバか」


「毎日偉いねえ、ウチの兵共にも見習ってほしいくれえだ!」


 近付いてくるやいなやわしゃわしゃと頭を乱雑にかき回され、ルイーゼは眼を剥いた。



 ドルバは現騎士団長である。


 姫の頃も毎日のように訓練場に通ってそれなりに仲良くはあったし、戦争が起きた時はルイーゼが大将になった。


 アンドリューを除外すれば一番近い部下でもあった間柄ではあるが、頭を撫でられたことなど一度もない。


 更に言えば口調も些かフランクで、姫の時はそれなりに敬われていたが今は……あまり王子として扱われているような素振りを感じない。



「ルイーゼ様は王子って感じあんまりしないんだよなあ」


「わかるわかる! あっ! 悪い意味じゃないですよ」


「ああ。わかってる」


 それが嫌だというわけではなく、むしろ逆だ。


 ずっと他の者たちにも『姫だから』と気を遣われていた。




 訓練場に来る令嬢たちの面子と眼差しも変わっていた。


 ルイーゼはその凛々しくも美しい、中性的な魅力……令嬢から『憧れの姫騎士様』として女の頃から人気があった。


 女であり結婚は絶対に出来ないがどの女のものにもならない。


 いわゆる偶像崇拝(アイドル)に近い疑似恋愛を楽しむ令嬢たちがチヤホヤとしてくるようなものだった。



 しかし男になり王子になれば、王族という権力に相応しい強さ、そしてクールで元が女だったこともあり中性的な実に女好みの優男。


 結婚相手として恋人になりたい令嬢たちがルイーゼの周りを取り囲み、差し入れを渡す。


「あのう……こちら、汗拭きに使ってくださいまし……」


「…………」



 ルイーゼは令嬢の手からタオルを受け取ると優しく微笑んだ。


「有難う。嬉しいよ」


「きゃあああああ!!!」


 今の女であったルイーゼはどう言えば令嬢が喜ぶか、令嬢が褒められたいポイントなどを女社会で生きていく為に叩き込まれていた記憶がある。



(リリアン嬢はシトラスより三番街の香り屋のレモンオレンジの香りの方が好きだと思っていたが、まだ見つけていないのか)


 リリアン嬢とは女の頃からルイーゼを熱く追いかけていた認知している令嬢だ。


「君が気に入ると思う香りがあるんだが、三番街の香り屋に騙されたと思って行ってみてくれ」


「は、はい……!」


「あと君は……」


 女の頃の癖のまま令嬢のご機嫌を取っていくルイーゼは明らかにプレイボーイであり、遠くで見守っていたアンドリューは頭を抱えた。



 令嬢のあしらいも程々に、昼食を食べようと王宮に戻ろうとすると訓練所のドルバや兵士たちに一緒に食おうと呼び止められた。


「共に? いいのか」


「いいもなにもいつも一緒に食ってるじゃないっすか」


 ドルバ以外の兵士たちも姫の頃よりも相当気安い。



「それにしても今日のルイーゼ王子、令嬢への扱い完璧だったじゃないっすか~」


「そうそう、いつもは『訓練の邪魔だ』程度にしか思ってないのかなってくらいクールに対応してたのに」


「こりゃあ第一王子のレイス様と人気が二分するんじゃないか?」



 女の頃、ルイーゼはフィーニアス国の第一王女。しかし上に兄がおり、それは男になった今も変わっていない。


(兄上はご健在。聞いている限り特に変わられた様子もないな)


 兄、レイスは戦うことよりも政治事や外交などに力を入れて勉学に励んでいた。王になる為、日々努力を欠かさぬ尊敬できる兄であり、兄妹仲も良かった。


 男兄弟になり後継者争いなど起きていたら悲惨だと思っていたが、自分の戦闘狂が良い方に働いていたのか、役割分担をして国を支え合う仲の良い兄弟として上手く収まっているらしい。



「鍛錬後に食うメシは美味いな」


 そんな話を肴に食べる昼食は美味かった。


「あ! ルイーゼ様! あんまり食い過ぎないで下さいよ!!」


「そうだそうだ! ルイーゼ様はもっと豪華なメシ食えんだから!」


「わはははは!!」


 鍛錬後にこうやって皆と同じ釜の飯を食べることも無かった。


 男になりその壁が一気になくなったようで嬉しいがなんとも複雑だった。





 ◇





 その後ルイーゼは『一度目』の記憶で成長であったり、忠誠心だったり……見込みのある者たちを集めた。


「ルイーゼ様直属の部隊に組み込んでくださるのは嬉しいんですが……」


 平民兵たちは周りをキョロキョロと見た。


 普通王族直属の近衛兵と言えばお貴族の騎士様と相場が決まっているのに選抜基準が全くの不透明。


 貴族の次男以下の息子も平民も平等に整列している。



「選抜基準は私から見て見込みのある者を選んだ。勿論怠ける者は捨て置くが、お前たちには期待している」


 なお、訓練はアンドリューが担当する。とアンドリューを紹介し、細かい説明は任せる。



 戦の途中、特殊技能に目覚めた奴もいた。


 そういう奴らはまた別のカリキュラムを用意し罠の仕込みや偵察などに特化させる。



『一度目』では皆ルイーゼと共に死ぬと戦ってくれた。


 今度こそは生かしたい。そうルイーゼは思い拳を握った。






 ◇






 フィーニアス国では『女は女らしく』という風潮がとても強い。


 女の頃のルイーゼは愛らしい令嬢達と並ぶと頭一つ出る長身だが、顔は小さく凛として美しい。正に女が好みの女であった。


 しかし背は高いがスラリと美しいルイーゼは着飾れば、なかなかな迫力美人。男にも人気があった。



 だからこそ、なのか。


 近付き口説いて来る男は皆口を揃えて


『背が高いことがコンプレックスかもしれないけれど、君は本当はとても美人だ』


『無理して男らしくしなくてもいいんだよ』


 と、「俺はわかっている」と言わんばかりの言葉を吐いて決め付けてくる。



 ルイーゼは女にしてはリーチのある自分の身体に不満は無かったし、男に見られてもさして苦痛では無かった。


 勝手に気持ちを代弁した気になり自分の長所を蔑ろにする奴らが嫌いだった。





 だからこそ、ユニに出会った時の衝撃はルイーゼは忘れられない。



「ぼ、僕はユニ。君は……」


「ルイーゼ=フィーニアスだ」


「う、うん。そうだよね……ええと……ルイーゼ、でいいかな」


「ああ」


 決められた婚約者として紹介され、お互いを知る為にと二人きりにされたルイーゼとユニだが、無言のルイーゼと気弱なユニで話は全く弾まず。


 時々勇気を出したユニがルイーゼに話しかけては切り捨てられるといった様子だった。



 トラネス国王の目論見としては姫武者と名高いルイーゼを嫁にあてがうことで、ユニを奮起させるつもりだったのだろう。


 普通であれば大人しい守りたくなるような婚約者を引き合わせ「強くならねば」とやる気にさせそうなものだとルイーゼは思ったが、それはお国柄なのだろう。



「ええと……ルイーゼは好きなこととかあるの?」


「強い者と戦うことだ。現トラネス国王の全盛期とは是非戦って見たかった」


 その頃のルイーゼはただ強者のみを求め、ひ弱そうなユニよりもその父であるトラネス国王の戦闘力に惹かれるような、とんだ戦闘狂であった。



「……ふふっ」


「?」


 女のクセにと嗤われたかと思いユニを見やるとルイーゼは目を見張る。


 ユニは優しく笑いルイーゼをやんちゃ坊主を見守る母のような、慈愛に満ちた目で見つめていた。



「君はとても格好良いね」




 その時、ルイーゼの身体の中に稲妻が走る。


 この男が……この男こそが私が守るべき者なのだと、運命を感じてしまった。


「ユニ」


「う、うん」


 両手を掴まれ強制的にルイーゼに向き直させられたユニはルイーゼ側からのいきなりのアプローチにただただ驚くばかりで。



「私が君を守ろう。だから私の側にいてくれ」



 ……大人しい守りたくなるような婚約者を引き合わせ「強くならねば」とやる気になったのはルイーゼの方であった。







 ◇






 訓練所での情報収集は概ね成功と言える。


 部屋に戻りルイーゼは部屋の中に設置されているトレーニング用のダンベルを手に持ち動かしながら物思いにふける。



 ルイーゼは些細な変化はあったものの、これといって変わった事はなく予備の第二王子として比較的自由に過ごさせてもらっていた。


 特に制限もなく、かなり快適な生活のようだった。


(あとは身体を鍛え、何処かに潜んでいる女神を取り込んだ邪神を倒せばいいわけだな)



 そう悠長に事を構えていたら、アンドリューが凄い勢いで部屋に入ってきた。


「大変でございます!!」


「アンドリュー、今日で二度目だぞ」


 ルイーゼが冷静にしたコメントには目もくれず先程手に入れてきた最新の情報を叫んだ。



「性別が逆転したルイーゼ様とユニ様は、婚約できません!!」



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