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第壱話 知らない世界

状況説明が少ないというコメントをいただきまして、改訂致しました。


どこか気になる点や不満がございましたら、気軽にコメントよろしくお願いします!

どれほど時間がたったのだろうか。直巳は自分に意識があることを理解し、石畳に手をついて起き上がろうとする。幸い、もう右手は震えていない。


あの時、確かに自分は殺された。そう思ったのだが、どうやらトドメを刺されなかったらしい。いや、トドメを刺した、と直巳を襲った人物も勘違いしたのだろうか。どちらにせよ、自分が死ななかったのは不幸中の幸いだ。


頭を殴られたせいだろう。まだ頭がぼんやりしており、上手く思考が纏まらない。そんな中、あたりが何となく騒がしい気がしたので、視線を上にあげた。


すると、そこには膝を曲げて直巳の様子を伺う、金髪で巫女装束の少女が一人。9割方、この神社のアルバイトだろう。


その周りに立つ着物を着た少女が数人。恐らく、直巳が倒れているのを見に来た野次馬だろう。とすると、きっと誰かが救急車でも呼んでくれているに違いない。


そしてその中に混じって、額の中央から角の生えた女性や、三つの目がある奇妙な女性などの異形をした者達が、心配そうな表情を浮かべ、直巳のことを軽く取り囲んでいた。...は?


「って...え?は?はあ!?よ、よ、妖怪!?」


直巳は職業柄ということもあって、非現実的なものは、全くと言っていい程に信じない部類の人間だ。


直巳は普段、奇妙なものに対する唯一の抗体、すなわち猜疑心(さいぎしん)で、恐怖から心を護っている。


しかし現在のように、金属バットで殴り殺されたはずが生きていた、という既に混乱した状態では、猜疑心を働かせることが直巳にはできない。


それ故に直巳は額から角の生えた女性が何の疑いもなく鬼だと、そして三つ目の女性も名前はわからないものの、何か得体の知れない妖怪だということを、これが何かのドッキリや、コスプレ集団だという考えもなく、すんなりと受け入れた。


そして、猜疑心が無くなり、それらが妖怪と認めると同時に、直巳の心の箍が外れ、絶叫してしまう。


その声に反応し、鬼のような角を持つ女性が、しゃがみこみ、直巳の顔をのぞき込むようにして話しかける。


「あ、気がついたみたいだな。どうだい?みたところ、怪我はなさそうで...」


「ッ!?しゃっ!(しゃべ)った!?」


直巳の絶叫に対し、落ち着いた声音で喋りかける女性。


しかし、混乱した直巳にはその言葉は届かず、反対に直巳を恐怖させる結果となってしまった。


直巳は後ずさりしながら、全速力で立ち上がろうとし、バランスを崩して尻餅をつき、再び立ち上がろうとして尻餅をつく。そんな漫才みたいなことを3度繰り返し、ようやく立ち上がるのを諦め、尻餅をついたまま後ずさった。


「だ...大丈夫かい?」


直巳の、ある種滑稽(こっけい)にすら見える奇行に対し、その場にいるもの達はやや不審な顔つきをしながらも、相変わらず心配そうにしながら、直巳に接触を試みる。


しかし、混乱のあまり心に余裕が無い直巳には、穏便な接触すら受け入れる事が出来ない。


「ち、ちか、近づくな!」


倒れた直巳を起こそうと、手を差し伸べながら近づいてきた巫女装束の少女や、その他大勢を手で牽制(けんせい)しながら、直巳は叫ぶ。だが、何かおかしいことに直巳は気がついた。


まず、自分の声が異様に高い。さらに、自分の体に意識を向けると胸部に今までにはなかった感覚がある。どうやら胸が膨らんでいるようだ。


(あー、これ夢かぁ...)


直巳は、俺が見ているこの世界は夢だぞ、と知っている夢を見たことがある。明晰夢(めいせきむ)、というらしい。


そういう夢は大概現実味のない内容だが、見ている時はそれが普通だと思い込む。そしてそういった夢は意識を失うことで起きることが出来る。


そういうわけで、直巳は夢から醒めるために、と再び意識を失った。眠った、という方が正確かもしれない。




「...どうしよう」


直巳が眠ってから少し経ったとこで、巫女装束の女性が呟くと、残された面々は倒れた直巳から視線をうつし、そちらを向く。


「いや、どうするったってよ...。アンタがこの世界とは別の、冥界の鬼とかいう、ヤバい奴を召喚するとかなんとか言うからこんなことに...なぁ?なら、その始末くらい自分でつけるのが筋ってもんだろ」


傍から聞けば、至極最もな意見を述べる女性。だが、巫女装束の女性は肩を落とした。


たとえ筋の通ったことを言われたとしても、誰だって困っている時に助けてもらえなければ肩を落とすだろう。間違った者を異世界から呼んだという規模の厄介事なら尚更だ。


「ええー、そんなぁ。...どうやって?」


そう言って巫女装束の女性は誰からということも無く助言を求める。だが、誰一人として助言を与えるものはいない。このような場面の解決策など知らないといった雰囲気もあるが、それ以上に厄介事には関わりたくないという感じだ。


「...美麗様はまた失敗ですね。ほんと懲りない御方です。...ま、まあ、私はできることもなさそうですので、今日のところは帰らせていただきますね。ですが、何かありましたら、何時でもうちをお尋ねください。それでは!」


誰も声を出さない状況に耐えかねたのか、無邪気そうな少女はそう言うと、全員に挨拶を告げ、本当に帰ってしまった。


それに連られるように、齢16程に見える、ピンクの髪の少女が、美麗と呼ばれていた巫女に話しかける。


「そうだな...。ここは君だけで事足りる。そうだろう?それに、私達がこれに関わっているなどと勘違いされるのは、双方にとって良くないことだ。だから、私も帰らせてもらう。君たちも、早く帰った方がいいんじゃあないか?」


そして、手をヒラヒラと振ってその場を去っていった。この二人を皮切りに、ほかの面々もバラバラと帰って行く。美麗は、それをただ恨みがましそうに見ているしかできなかった。


「ほんっっっと!非情なヤツらよね!血も涙もないわ!自分達だって、見たいとか言ってた癖に!...仕方ない、とりあえずここで放置するのは人間としてどうかと思うし、運ばないと」


そう言って美麗は直巳の傍にしゃがみこみ、直巳の膝の裏側と脇の下あたりに腕を通して、直巳を持ち上げた。お姫様抱っこだ。


意識のない人ひとりを運ぶというのは、並大抵のことではない。さらに山道を下りながらの場合、それは困難を極める。だが、美麗はそれを軽々とこなし、山頂にある拝殿から20分ほど山を下った、居住用の建物に直巳を運び込み、布団に寝かせた。


そして、静かな寝息を立てる直巳を見て、気持ちよく寝ているのを起こすのも悪いか、と美麗は判断し、とりあえずその場を去っていった。

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