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味の〇〇箱

 茶色い木でできたテーブルの上にはカレーライス、サラダ、リンゴのカットされているものが置かれていた。

 普通に美味しそうに見えた。カレーの香ばしい香りが鼻に入り、腹の虫がなり、一気に食欲が湧きあがった。

「美味しそうだな」

「えへへへ。そうでしょ。頑張って作ったからね!」

 俺が感想を述べると、麻里奈がニヤケだした。椅子に座り、両手を合わせた。

「いただきます」

 俺に倣うように麻里奈も両手を合わせ、目を閉じた。

「この世の全てに感謝を込めて、いただきます!」

 内容は忘れたが、少年漫画のなんかだったような気がする。こいつ、結構少年漫画好きなんだよな。

 俺はスプーンを使い、カレーライスを一口、口へと入れた。

「こ、これは......」

「どう? 美味しい? お兄ちゃん」

 ニコニコしながら麻里奈が訊いた。

 しっかりと火の通っていない野菜、ヌチャヌチャと気持ちの悪い感触のお米、なんか超辛いカレーのルー。

 あらゆる要素が見事にミストマッチをしていて、あ、味のゴミ箱やー!

 平たく言って超不味い。見た目、超美味しそうなのに。

なんと返したらいいか、言葉がうまく思い浮かばなかった。

「もしかして......美味しくない?」

 険しい表情をしていた俺のことを見て麻里奈が悲しそうな顔をした。

 きっと、ここで不味いなんて言ったらこいつは悲しむだろう。

 夜に枕元を濡らすかもしれない。

 それは——なんとしても避けないと!

「いや、超美味しいよ! 腕を上げたな!」

 俺はバクバクと食べる速度を上げた。そして、皿に守られていたカレーを何とか完食した。

「おかわり!」

 おかわりを麻里奈にお願いした。美味しそうに食べる俺を見た麻里奈はものすごく嬉しそうな顔をした。

「うん! たくさんあるからどんどん食べて!」

 麻里奈はおかわりのカレーライスをお皿に大量に持った。

「ああ、ありがとう」

 俺はその後、やけくそでひたすらカレーライスを食べ続けた。

 この後、ものすごい腹痛に苛まれることになるのだが、今は置いておこう。

「ふー、食べた食べた」

 麻里奈は満足そうな表情でお腹をさすっていた。

「俺もたくさん食べたなぁ。ご馳走様」

「ご馳走様。それじゃ、お皿片付けるね」

「ちょっと、いいか? 麻里奈」

「何? お兄ちゃん」

 片付けをしようとする麻里奈に話しかけた。

「その、仕事のことなんだが、良さそうな案件を見つけてな」

 俺は犬探しのことを麻里奈に話そうと思った。

「へー、そうなんだ。どんな内容なの?」

「犬探しだ」

「犬探し?」

 依頼内容を言うと、麻里奈は訝しんだ様子で俺のことをみた。

「ああ。ペットが失踪したらしくて、見つけだして欲しいんだとさ。なんと報酬金が百万円みたいだ」

すると、麻里奈は大きく目を見開いた。

「ひゃ、百万円! すごい大金だね」

「だろ? おそらく探偵にも依頼したが見つからず、しょうがなく俺たちに依頼したと思うんだ」

「うーん、でもさ。もしかしたらもう亡くなってるかもしれないよ」

 麻里奈は俺が先ほど考えたことを話し出した。

「まあな。でも、話だけは聞いてみようと思う。もし生きているなら変化の術で犬になって探せばすぐに見つかるからな」

「そうか! 変化の術で犬に化ければすぐに見つかるよね! さすがお兄ちゃん! ちっとも思いつかなかったよ」

 変化の術で犬に化けると犬と会話することができる。これは他の動物でも同じだが、虫(ちなみにカブトムシに化けた)に変化しても会話できなかった。

 虫は結構苦手なので滅多に化けることはないのだが。

「ああ。生きていれば割のいい仕事になると思うから受けようと思うんだ。明日の放課後、依頼人に会ってみようと思うんだが、お前も行くか?」

 麻里奈に同行するかどうか訊いた。犬探しなので俺一人でも別に問題はないのだが。

「うん。私も行くよ」

「そうか、分かった」

 そういう訳で明日、俺たちは犬探しをすることになった。

 ご飯を食べ終えた後、仕事を請けるという趣旨のメールを送信した。

次の日の放課後。俺と麻里奈はとある喫茶店に訪れた。この喫茶店が依頼人との待ち合わせ場所である。

 俺と麻里奈は私服でやってきた。

 麻里奈はいつもより、メイクを厚くし、髪色を金色に変えていた。また服装は上は黄色のスリーブ、下はやや丈の短い青色のスカートを履いていた。

 俺はサングラスを着用し、ワックスを使い、髪を立て雰囲気を変えた。服は黒い無印のTシャツと下にジーパンを履いた。

 基本、仕事の依頼を受けるときは、偽名を使い、自分たちの正体がバレないようにしている。

 もっとも、姫に対しては例外で本名を語っているが。 

「中々良さそうなお店だね」

「そうだな」

 中に入ると小洒落たテーブルや椅子が置かれており、店の中はゆったりとしたジャズの音楽が流れていた。

 あたりを見渡すと歳は三十代後半から四十代くらいの大きな赤いサメガネを掛けた太めの女性が座っていた。赤いスリーブを着用しており、いかにもマダムっぽい感じがする。

 メールの情報の通りならあれが依頼人だろう。

 俺はゆっくりと女性に近づき、話しかけた。

「初めまして。星川哲也と言います。依頼者の動物大好きさんで間違いないでしょうか?」

 俺は星川哲也という偽名を使用した。適当に思いついた名前である。ちなみに動物大好きさんというのはメールに書いてあったペンネームのことである。

「はい、そうです。それじゃ......あなたが忍者さん?」

 女性は真顔で俺のことを指差した。

「ええ、そうです。この度はご依頼ありがとうございます。こちらに座ってもいいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

 俺と麻里奈は茶色い木でできた椅子に腰掛けた。座り心地は中々良いと感じた。

「改めて自己紹介させていただきます。私の名前は星川哲也。忍者として日々、依頼に勤しんでおります」

 そう言い、俺は星川哲也と書かれた名刺を差し出した。昨日、三分で作った名刺である。

「同じく、忍者の伊藤栞菜です。哲也と一緒に依頼に取り組んでます」

 ぺこりとお辞儀をし、麻里奈も名刺を差し出した。麻里奈の名刺も俺が作ってやったものである。

「ありがとう。私も紹介させてもらうわね。私は清水多恵しみずたえ。私が探して欲しいのはこの『フクくん』を見つけて欲しいの」

 多恵は写真を取り出し、俺たちに見せた。

 写真には顔から胸にかけてタテガミがある、白い毛と黒い毛の混ざった可愛らしい小さな犬が写り込んでいた。



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