依頼内容
「ちょ、ちょっと君!」
消防士の声が聞こえたが気にせず、家の中に入った。
家の中では灼熱の炎が轟音を上げながら燃えていた。
「ゴホゴホ......想像以上にやばいな」
俺は腕を伸ばし、精神を集中させた。頭の中で清らかな水を思い浮かべた。
そして、指で術を発動させるために必要な印を切った。
「忍法、『水遁の術』!」
忍術で発生させた大量の水で炎を鎮火させた。
急いで一階をところどころ燃えている炎を水遁の術で鎮火させながら探索した。
しかし、一階には取り残されている子供が見つからなかった。
「おそらく二階か......」
俺は階段を登り、登りきったすぐ近くに一つの扉があった。
金属のドアノブが扉についていたが、おそらくとても熱くなっていると判断した俺はドアを蹴ってこじ開けることにした。
「オラァ!」
気合いを入れ、思いっきりドアを蹴った。バタンとドアが倒れると、部屋の中はたくさんの炎で燃え上がっていた。
「うわーん! ママ! 助けて!」
奥に小さい子供が泣いているのが見えた。小柄な体格で赤いスカートを着用しており、金色の髪をしていた。
「いま助ける! 待っていろ!」
俺はそういうと子供が泣き止んだ。
「う、うん! 分かった」
俺は精神を統一し、再び印を切る。
「忍法! 『水遁の術』!」
大量の水で炎を打ち消して行った。どす黒い煙で包まれた。
俺はダッシュで子供の元まで駆けつけた。
「目を閉じろ!」
子供にそう指示した。
「う、うん!」
俺の指示通り、子供は目を閉じた。
子供を抱きかかえ、そのまま窓へと勢いよく向かった。
「うおおお!」
バリンという音ともに窓が割れた。ガラスの破片は空中へと飛び散った。
俺と子供の身体は空中へと投げ出された状況である。
「に、二階から人が!」
野次馬の声が聞こえた。
「うわああああ! 落ちる!」
子供は怖そうな声を上げていた。
「安心しな。目を閉じるんだ」
諭すように俺は子供に言い聞かせた。
「う、うん!」
再び子供は目を閉じた。俺は忍気を操り、脚の耐久力を上げた。
ダンという音が鳴り響いた。
着地成功である。忍気で脚を強化したのだが、脚がジーンと痺れている。
結構、痛かった。
「き、君! 大丈夫か!」
消防士の一人が俺に駆けつけてきた。
俺は無視し、母親の元へ移動した。
「ちょ、君!」
消防士は俺に呼びかけたが気にしない。早いとこ子供を母親の元へと引き渡してしまおう。
「ゆ、ユカ! 大丈夫だった?」
俺は抱いていた子供を離し、母親の元へ返した。
「お母さん! 怖かった! 怖かったよ!」
ユカという子供は母親に抱きついた。
一人、炎に囲まれ取り残されるという状況は非常に怖かっただろう。
母親は俺の方を見た。
「あ、あの! 娘を助けてくれて本当にありがとうございます! ぜひ、お礼を! お名前はなんていうんでしょうか?」
「お礼なんていりませんよ。俺はただのしがない忍者です。では」
俺はその場を離れるべく歩き出した。
「ありがとう。お兄ちゃん」
ユカがお礼を言ってくれた。
「どういたしまして」
普段、人助けなんて滅多にしないが、まぁこういうのも悪くないかもな。
俺はひとけのない場所へ移動し、変化の術を解いた。
「お疲れさま。お兄ちゃん。さすがお兄ちゃんだよ」
元の姿に戻った時、麻里奈が現れた。
「まぁ、大したことないさ。それじゃ、帰るか」
「うん! 帰ってご飯にしよう!」
火事に取り残された俺たちはその後、食材などを買い、家に帰宅した。
「いやー、疲れたね。今日は私が夕食当番だよね? めんどくさいなぁ......」
「そっか。しょうがない。それじゃ、俺が作るか」
麻里奈に気を使ってそう提案した俺だが、なぜか麻里奈は顔をほっぺを膨らませ、仏頂面で俺のことを見た。
「いや、いい! お兄ちゃん、何か食べたいものある?」
結局、自分で作りたいらしい。
正直なところ、麻里奈は料理があまり得意ではないのがなぜか今日は張り切っている。
「あー、それじゃカレーで頼む」
さすがにカレーなら失敗することはないだろう。
「うん、分かった! 期待して待ってて!」
自信満々に言い切った麻里奈だった。意気揚々と麻里奈はキッチンに向かった。
大丈夫だよな? 以前、あいつはなぜか肉じゃがを作ろうとして、爆発が起きたが今日は信じてるぞ。
俺は一度、自分の部屋へと向かった。俺の部屋は余計な家具は置かれておらず、必要最低限のものしか置いていない。
俺は机に座り、ノートパソコンに電源を入れた。
画面が映り、俺は慣れた手つきでインターネットへアクセスした。
実は仕事の依頼をネットで受け付けている。
結構な依頼が来るのだが、冷やかしで送って来るのもあるため、真剣に依頼内容を確認し受けるかどうか吟味するのである。
パソコンのメールを確認した。十件前後メールが来ていた。
さてと、どんな内容だろうか。
——探している人がいます。お礼金、十万円。
人探しか。こういった依頼も来ることがある。探偵でも見つけられない場合、頼る場合がある。
次のメールを見た。
——殺してほしい人がいます。会社の上司です。報酬十五万円。
こういった依頼も結構来る。一度も受けたことはないが。
これは当然のごとくパスである。
——逃げ出した犬を探して欲しいです。報酬金百万円。
「ええ?」
驚きのあまり声を上げてしまった。通常、ペット探しなんて依頼はこないし、来たとしても基本はあまり報酬は高くない。
俺は内容をしっかりと確認した。
——犬の種類はローシェン。元気な男の子です。一週間前から家出しました。探偵にも頼ってみましたが、見つかりませんでした。どうぞ、よろしくお願いします。
どうやらすでに探偵に頼っているらしい。しかし、それでも見つからないとなると、もしかしたらすでに亡くなっているかもしれない。
その後も依頼のメールを確認し、いつの間にか結構時間が過ぎていた。
「お兄ちゃーん! ご飯できたよー!」
麻里奈の声が下から聞こえて来た。
俺は階段を下り、リビングへ向かった。
茶色い木でできたテーブルの上にはカレーライス、サラダ、リンゴのカットされているものが置かれていた。