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火事

「それじゃ、明日は戦国時代の話をするから、今日はここまで!」

 先生はそう言うと、踵を返して職員室に戻って行った。

「いやぁ、今日の授業面白かったな! お前もそう思わないか? 翔!」

 授業が終わると武が興奮気味に俺に話しかけてきた。

「まぁ......確かに今日は面白い話だったな」

「だろ? そう思うよな! いやぁ、俺も忍者目指そっかな! かっこいいし!」

 シュッシュッと手で空手裏剣を投げる動作を始めた。

 忍者がかっこいいか。よくよく考えれば俺も昔、そんな理由で忍者を目指し始めたような気がする。

「いくらお前が運動神経がいいと言ってもそんな簡単になれるもんでもないだろ」

 俺は冷静に武にそう告げた。

「ははは! まぁ、そうだな。冗談だよ。それに俺にはプロテニス選手になるっていう夢があるからな」

 そういえば武ってテニス部だったな。すっかり忘れていた。

「そうか。武、お前テニス部だったな。もう少しで大会だっけか?」

 俺がそう聞くと、武は頷いた。

「ああ。来月から地区予選が始まる。今、練習頑張ってるところだ」

「そうか。頑張れよ」

 武はぼっち気味の俺に話しかけてくれる貴重なクラスメートである。

 是非とも勝ち進んで欲しいと思っている。

「ありがとう。そういえば、翔は帰宅部なんだっけ?」

「ああ、そうだ」

 俺は部活に所属していない。放課後は基本的に忍者として活動するため、入学する前から部活には入らないつもりでいた。

「なんかの部に入るつもりはないのか?」

 武は訝しんだ表情で訊いた。

「ああ。もう二年だし、今更入っても浮くだけだしな。それにどうも俺に部活というのが合いそうには思えないんだよな」

「そうか。けど、テニス部ならいつでも歓迎だぞ?」

 武が不敵な笑みを浮かべた。

「遠慮しておくよ。テニスなんかやったことないしな」

「まぁ、無理強いはしないさ。けど、お前が言うほど、部活は悪いもんじゃないと思うぞ?」

 割と真剣な表情で武がそう宣言した。

「まぁ、そうかもな」

 武の言うとおりもごもっともだ。中学時代、俺も部活に所属していた。途中で辞めたがそこそこ楽しかった。




 二時間目以降の授業は教師にバレない程度に睡眠を取り、今日の全授業が終わった。

「じゃあ、また明日な! 翔!」

「ああ、また明日」

 俺は武に別れを告げ、教室を後にした。

 玄関へ向かい、上履きを脱ぎ、靴に履き替え校門へと向かう。

 いつも、麻里奈と一緒に帰っているのだが今日はあいつの姿が見当たらない。

 先に一人で帰ってるか。

 そう思った時、数十メートル先に麻里奈の姿らしき人影を見かけた。

 麻里奈と男子生徒が何やら話しているようだった。

 興味深かったので忍気を操り気配を消して、麻里奈の近くまで近づいた。

 男子生徒は顔を赤くし、麻里奈のことを真剣な眼差しで見つめていた。

「ま、麻里奈さん! 聞いて欲しいことがあります!」

 そう言われた麻里奈は困惑したような顔をしていた。

「ぼ、僕と付き合ってくれませんか?」

 男子生徒は麻里奈に対して告白をした。

 あいつ、結構モテるんだな。

普段の言動こそ残念な感じだが、見た目は身内の贔屓目から見ても悪くないと思う。

 やや背が高い以外、地味な顔立ちと容姿の俺と違い、あいつはあどけなさを感じさせつつも整った顔立ちをしている。

「えーと、ごめんなさい......私、好きな人がいるから」

 麻里奈はぺこりと頭を下げた。

 あっさりと男子生徒を振ってしまった。

 麻里奈に告白した男子生徒も顔だけ見るとなかなかだと個人的に思ったのだがダメだったようである。

「そ、そうですか......分かりました」

 男子生徒はしょぼくれた様子でどこかへ行った。

 麻里奈の好きな人ね。誰なのだろうか。少し興味があるが、いくら兄妹といえど教えてはくれないだろう。

 俺はバレないようにこの場を離れようとした。

「何してるのお兄ちゃん?」

 麻里奈はいつの間にか俺の後ろにいた。

「うわ!」

 驚きのあまり情けない声を上げた。

「見てたの?」

 無表情で俺のことを見つめる麻里奈。なかなか迫力があって少し怖い。

「わ、悪い。ちょっと気になってな......」

 正直に答える俺だったが麻里奈は「フーン」と呟いた。

「まぁ、いいや。それよりも家に帰ろう」

「ああ」

 麻里奈はさほど気にした様子を見せず、俺たちは一緒に歩いた。

「なぁ、麻里奈。お前、一緒に帰る友達とかいないのか?」

 基本的に俺たちは一緒に帰るのだがそれとなく麻里奈の友人関係について訊いてみた。

「基本的に私の友達はみんな部活に入ってるからね。お兄ちゃんこそどうなのさ?」

「お、俺の友達もみんな部活入ってるからな。ははは......」

 バツが悪くなり、俺は麻里奈の目を逸らし、答えた。

 ぶっちゃけ、一緒に下校できるような友人など殆どいないだが、少し見栄をはりそう答える俺だった。

「そっか。それじゃ、お互い様だね」

「そうだね」

 すると、麻里奈は突如、左の方向を凝視し始めた。

「ん? お兄ちゃん、なんかあっちに煙出てない?」

 麻里奈が指差した方向を見ると、確かにモクモクと黒い煙が上がっていた。

「本当だ。火事かなんかかな?」

 すると麻里奈は俺の腕を掴み、

「お兄ちゃん! ちょっと、行ってみよう!」

 煙が上がっている場所まで走り出した。

「お、おい! 分かったから離せ!」

 煙が上がっている場所を目指し走り始め、およそ三分後、一軒の大きな家の前にたどり着いた。

 豪邸と呼ぶにふさわしい白い大きな家は激しい炎を放っていた。

 消防士の人たちもおり、必死に消火活動をしているが、炎はなかなか収まる気配がなかった。

 たくさんの野次馬が興味深そうに消火活動を眺めており、中にはスマホで写真を撮っているものもいた。

「誰か娘を助けてください! まだ家の中にいるんです!」

 母親と思わしき壮年の女性が叫んでいた。必死に消防士達に訴えかけているがあまりの炎に為す術がないのか、消防士達は困ったような顔をしていた。

「お兄ちゃん! 私、助けに行きたい!」

 助けに行くと主張する麻里奈だった。こう言い出したら麻里奈は聞かないのである。

 俺と違って麻里奈は正義感が強い。

「しょうがない。分かった。だけど、お前はここにいろ。俺が助けにいく」

「お兄ちゃん、私も......」

「ダメだ。ここにいろ。俺を信じて待っててくれ。いいな?」

 俺は強く麻里奈にいい聞かせた。

「うん、分かった! 気をつけてね」

「ああ」

 俺は一度、ひとけの少ない場所に移動した。流石に制服姿で救出するのはまずい。

 あまり目立ちたくないのである。

「忍法、『変化の術』!」

 ドロンと煙が上がった。俺の体は黒色の忍者がよく着ているような装束に包まれた。

 変化の術は、自分の姿を変えることができる。

 変化できる対象は広く、服装を変えられるほか、他人や果ては一部の動物にも化けることが可能である。

 だが、変化していられる時間には制限時間が存在する。

「さてと......行くか!」

 俺は物凄い速度で走り出し、火事が起きている玄関に向かった。

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