忍者とは
忍者——いつの時代も彼らは人知れず活躍してきた。
日本の歴史は忍者の存在なしには語れない。
忍者による国のトップの暗殺、国家重要機密の奪取などいつの時代も忍者がこの国に波乱をもたらした。
しかし、忍者の凄さはそれだけではない。
忍者は人が持つ『特別な力』が使える。
そう——忍法である。
忍者になるための最低条件として、忍法が使える必要がある。この俺も使うことができる。
え? 俺が誰だって?
そう言えば紹介がまだだったな。俺の名前は風磨翔。職業はもちろん、忍者だ。今年で十七になる。
「うわー囲まれちゃったね。お兄ちゃん」
「そうだな」
俺は年の一つ離れた妹の風磨麻里奈と一緒に任務を遂行していた。俺たちは黒い装束を纏い、顔を隠して任務を遂行している。
『あるお方』の指示である組織のアジトに侵入していた。
「おい、小僧。お前が持っているUSB返して貰おうか」
スキンヘッドで銃を持ったいかつい男がドスの利いた声で要求してきた。
「断る。こいつを持って帰らないと依頼人に顔向け出来ないんでね」
挑発するようにUSBメモリを取り出し、やつらに見せびらかした。
「なら、仕方ねぇな。お前ら! 殺っちまえ!」
取り巻きが五人ほど俺たちに接近して来た。それぞれ、金属バッド、木刀、ナイフといった武器を持っている。
「麻里奈、いけるか?」
「余裕でしょ」
俺と麻里奈は応戦すべく、戦う態勢を取った。
「オラァ!」
目の前の金髪の敵が俺に金属バッドを振り落とそうとしてきた。
「遅い」
後ろに回り込んだ。
「お前......いつの間に!」
俺に回り込まれたことに対して、金髪の男は驚愕しているようだった。
そして、金髪の男に手を翳した。
「忍法、『催眠の術』」
俺は忍術を発動させ、金髪の男に掛けた。
「な、なんだ? 急に眠気が......」
バタンと金髪の男は倒れ込んだ。催眠の術は掛けた相手を瞬時に眠らせることができる。
「オラァ!」
今度はコーンロウの髪型をした男が振り回して来た。
「おおっと、危ない」
難なく俺はこれを避けていった。
「この......ちょこまかと!」
「よっと!」
俺はナイフを持つ手に回し蹴りをした。
「うわ!」
手に蹴りを入れられた男はナイフを床に落とした。
「この......」
慌てて男がナイフを拾い上げようとした。俺は右腕を上げ、呪文のように唱えた。
「忍法、『超速移動の術』」
一瞬でナイフが落ちているところまで移動し、男よりも先にナイフを拾った。
「これは没収ね」
俺はナイフを見せびらかし、笑顔で男にそう言った。
「ひぃ! お、おい誰か助けてくれ!」
男は助けを求めるべく、麻里奈と戦っている奴らの方を見た。
「こいつらのこと?」
麻里奈が倒れている三人を指差した。
「う、嘘だろ!」
男は仲間を見捨て逃げ出した。
「お、おい!」
スキンヘッドの男は叫んだが、そのまま逃げた男はどこかへ行ってしまった。
「てめぇら! ぶっ殺してやる!」
銃をスキンヘッドの男は俺の方へ向けた。
「へへへ......さすがにこれを食らったら一溜まりもねぇだろ?」
「さぁ? どうかな」
俺の挑発に対して、スキンヘッドの男はムッとしたような表情を見せた。
「なら死......」
俺は男が引き金を引く前に忍術を唱えた。
「忍法、『火炎の術』!」
自分の手から炎を放ち、スキンヘッドの男へ浴びせた。
「あちちち!」
スキンヘッドの男は俺の忍術で作り出した炎の熱さにたまらず銃を落とした。
俺は男の後ろに回り込み、男の毛が一つもないツルツルの頭に手を置いた。
「忍法、『束縛の術』」
「か、身体が動かねぇ......」
スキンヘッドの男がブルブルと震えているのを感じた。束縛の術はしばらくの間、動けなくさせることができる忍術である。
「麻里奈。とどめを」
俺は麻里奈に声を掛けた。
「あいよ」
麻里奈はタタタと素早くスキンヘッドの男の元へと近づき、ブンブンと腕を振り回した。
「く、くそ! 何なんだ! お前ら!」
スキンヘッドの男は俺たちの正体を訊いた。
「俺たちはただの......」
「忍者だよっと!」
麻里奈は思いっきりスキンヘッドの男へ腹パンし、気絶させた。
任務終了である。
「よくやってくれたわ。翔くん、麻里奈ちゃん」
任務が終わると俺たちは近代的な設備が取り揃っている東京城へ向かい、姫さまの元へ依頼主に会いに訪れた。
「えへへへへ。私とお兄ちゃんにかかれば余裕ですよ」
麻里奈が得意げにそう言った。
姫の名前は徳川昭恵。和服を着用しており、くっきりとした目鼻立ちをしていて美人である。年齢は二十歳とまだ若いのにも関わらず、この国の政治の実権を担っている。
まぁ、『この国』と言っても『日本全体』というわけじゃない。
「本当二人ともお手柄よ。薬物に手を染める人もい減るはず」
「そうですか。取り敢えず約束の報酬は忘れないでくださいよ」。
忍者は誰かに雇われるものである。企業の用心棒であったり、それこそ姫さまの身に仕えたり。
だが俺と麻里奈はフリーランスの忍者として活動している。
「ええ。もちろん。それよりも、うちの忍者として働く気はないかしら?」
昭恵が俺たちをスカウトしてきた。東京城に使える忍者は破格の待遇を受けられると訊いたことがある。
「悪いですが遠慮しておきます。それじゃ、失礼しますね」
軽く会釈し、出口へと向かった。
「ちょっと待ってよ! お兄ちゃん!」
麻里奈が慌てて俺に付いて来た。
「まったくつれないわねぇ......」
ため息混じりに昭恵の呟きが俺の耳に入った。
その次の日の朝。
「おはよー! お兄ちゃん!」
麻里奈が慌てて二階からリビングにやって来た。着替え終わったようで白いセーラー服を着用していた。
「おはよう麻里奈。早くしないと遅刻するぞ」」
麻里奈は何とかやや長めの茶色い髪を必死にゴムで結びおえた。。
「やばいやばい!」
麻里奈はすぐにテーブルに置いているトーストに噛り付いた。何と一口でトーストの半分を食べた。
「それじゃ、麻里奈。俺は先に寺子屋に行くからな」
そういうと、食事中の麻里奈が涙目で俺のことを見た。
「ほっほはっへよ! おひいはん!」
何言ってるんだ、こいつは。
麻里奈を無視し、俺は家を後にした。
朝日が差し込み、眩しくて思わず手で日差しを遮った。
朝型の人間ならば、あるいは希望の朝だ! とテンションも高くなるのだろうが、あいにく夜に活動することが多い、忍者にとっては朝など苦痛でしかない。
今、超眠い。授業中に寝たらどうしよう。
周りを見ると、死んだ魚のような目をしたサラリーマンや生徒が歩いているのが目に入った。
やれやれ、みんな行きたくないのに無理やり寺子屋や仕事に向かうようである。
憂鬱とした人間とは真逆に目に映る景色はなかなか良かった。
鳥はさえずり、川は日差しを反射させながら心地よい水音を立てながら流れ、大気汚染など微塵も感じられないほどに空は透き通るくらい青かった。
「うおおおおお!」
後ろから叫び声が聞こえてきた。
振り向くと、
「置いていくなんてひどいよ! お兄ちゃん!」
麻里奈が全速力で俺の前にやってくると、仏頂面で俺に指を差した。
「寝坊するお前が悪い」
「お兄ちゃんが起こさないから!」
「起こしたよ。けど、何回起こしても後五分とか、後十分とか、後十年とか言って起きないんだもん」
すると、麻里奈が顔を赤くさせた。
「た、叩き起こしてよ!」
「やだよ。お前を叩き起こそうものなら俺が永遠の眠りにつくわい」
「むきー!」
麻里奈が俺の体をポカポカと叩いて来た。痛い。こいつのポカポカは洒落にならない。
そんな感じで麻里奈と雑談しながら寺子屋へと向かった。