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正体





3人で馬車を並べられるほど広い道を進み、魔王城が目の前にやってきて漸く右隣を走る勇者が口を開いた。


「あの・・・魔王城が見えてきましたが・・・」



どうする!?俺!

ここは腹を括って!



「それが」と言いかけて左隣から声が聞こえた。


「わかった!今から魔王を討伐して食料や財産がっぽり手に入れるんですね!」



こいつの頭はおかしいのか?



「任せてください!魔王攻略ならお手のものです!」



あなた俺に手も足も出なかったでしょうが。



「え!魔王に挑んだことがあるんですか!?」



いやおかしいだろ!信じるなよ!



いったいどこからどう突っ込めばいいのかわからなくなってきた俺は頭を隠していたフードを脱ぐ。


大きな2本の角と、その後ろには三角の耳。漆黒の長い髪に首には黒によく映える真っ赤なルビーのチョーカー。金色と深紅のオッドアイ。


「我が魔王だ」


一瞬の沈黙。


「我とか今の時代遅れてますよ!だってそのフードノラさんで・・・」


そう言いながら俺を見た彼女の顔が凍り付いたのと魔王城へとついたのだ同時だった。







甲高い悲鳴が響く。

否、悲鳴に似た何かだった。

反対側の勇者は目をパチクリさせてなんとも言えないあほ面だ。

ティーと言えば悲鳴じみた何かを叫んだあと口をパクパクさせている。


「あ、あなた!!!だましたわね!!」


そう言って馬車から飛び降りて。こけた。

俺は溜息をついて同じように降りて、勇者もそうしろと手招きする。


「だましたつもりはない」


きっぱりと否定した。


「いいから俺の城にある食料を運ぶぞ。ネズ案内しろ」


「かしこまりました~」


ネズの軽快な声だけが変わらなかった。






あれから食料を運ぶ間ティーの質問は止まらない。


何故魔王が街を助けただの。どうして店にきただの。

知っていれば魔王城なんかいかなかっただの。死ねだの途中から文句に変わったが。


後で説明すると言って食料を運ばせたが、やはり男手に比べると遅い。何故来たのか。

小1時間かかってようやく3台分の馬車に積み終えると帰路についた。

やはり空間転移魔法は練習せねばならないと心にしみた瞬間でもあった。



「どうしてあなたが魔王なのよ!!」


行き過ぎた疑問はもう八つ当たりの域にきていた。


「俺が知るか!俺だってやりたくて魔王になったんじゃねーの!

そもそも元は魔法使いの使い魔だったんだぞ」


そう、俺はもともとなりたくて魔王になったわけではない。

しかし彼女は聞く耳を持たない。


「そんなの聞いてないわ!ああ~~思い出しただけでも恥ずかしい!」


「こっちだってそんなの知らねえよ!あんなぼろい恰好で経験すらないのに魔王の俺に立ち向かってきがやって!無事返してやったんだから感謝してほしいくらいだよ!」


「あなたが人間を殺さないって知ってたから行ったのよ!じゃないといかないわ!あんなぼろい城!」


ああいったらこういう。本性はかなり気が強いようだ。


「言ったな!?ぼろくねえよ!レイナに謝れよ!」


「レイナって誰よ!知らない人には謝れなんかしないわばーか」


これじゃ埒が明かない。

そんなところに助け舟のような笑い声が響いた。

先ほどまで隣に魔王がいる恐怖からか黙り込んでいた勇者だ。


2人のやりとりがおかしかったのか、恐怖のためおかしくなったのか。

前者であったらしい。


「なんだ、魔王も人間とさほど変わらないんですね。これじゃ今から討伐行きづらいじゃないですか」


さほど気にしていなかったが、笑うと幼い。まだこんな幼いものが勇者をやっているのか。


「気にせずきてくれ。まぁ、9割がた俺が負けるんだけどな」


ハッハッハッと自慢気に笑いとばしたが本当は笑いごとじゃない・・・

そんな俺の胸に傷を抉るようにネズが付け足した。


「ノラ様。正確には1割もありません」

そんな噂は聞いていたのかなぜか納得したような勇者は再び口を開く。


「何故・・・街を救おうと思ったんですか?」


同じ質問を投げかけてきたティーも興味深く耳を傾けているのがわかった。


「別に・・・今に始まったことじゃない。俺が魔王であることは村長だけが知ってる。

俺は街の復興に莫大な金を村長に預けていた」


それを聞くや否やティーが反駁しようと、


「復興?そもそも魔王がこなければ・・・」


と呟くが、


「国に見捨てられることもなかった?」

と制止を促した。


「さっきも言ったが俺は好きで魔王をやってるんじゃあない。

それに見捨てたのは人間の都合だ」


「それでも・・・!」


と反駁のしようがなくなったのかぐっと声を押し殺したティーを見て俺はやるせない気持ちになった。


それからは特に話すこともなく来た時以上の時間をかけて街に戻るとすっかり日は暮れていた。





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