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レイナ




なつかしい香りが鼻腔をくすぐる。

そのとき゛俺゛は色を知らなかったけれど、いろんな色がゆさゆさと風に揺れていた。

そのうちレイナが育てていた真っ赤はそれは嫌いだった。

一度近づいてちくりと肌にささったからだ。

最初は敵だと思ってびっくりしたけれど、それもいろんな色と同じ゛花゛というものだとレイナが教えてくれて安心した。

レイナが花の沢山あるかだん---といっていた、を眺めているときはいつも寂しそうで俺はそのたびにレイナを慰めもした。

レイナはとても美しくいつも笑っていた。

親のようで姉のようで妹のような唯一の存在だ。


「おーいで!ノラ!」







「っ・・・!」


レイナ!という声は喉に引っかかって出てこず、伸ばされた手だけが天上に向けられて開かれる。

吸い込んだ息をゆっくり吐いて、嘆息とともに手で目を覆った。

外はすっかり日は落ちて、今日は月も出ていないのか闇に覆われている。

隣では゛命令゛を終えたのだろうネズがスヤスヤと眠っていて再び嘆息を吐き出した。

この使い魔は主人の命令には忠実だが、主人に遠慮は一切ない。

使い魔に食事も睡眠も必要ないはずだが、これはそれを好んでする。

同時にこれはレイナの形見でもあった。

使い古したツギハギだらけのねずみの人形。ねずみだからネズ。俺が名づけた。

名も行くあてもなかった俺を拾い、ノラと名づけたレイナの真似をしたというとそういうことになる。


隣で眠る人形をもう一度見る、

今日はどうにもあの店にいこうとは思えない。

このままもう一度眠るかと目を瞑ったときのことだった。


ぴょん、と人形が唐突に跳ね上がったことに俺はびくりと肩を跳ね上がらせてしまう。


「ノラさま!勇者です!」


この人形にはセンサーでもついているのか・・・

いや、俺でも魔力探知は出来るが一切の魔力を感じなかった。

どういうことだ。

魔力探知を掻い潜れるほどの力の持ち主ということなのか・・・

仕方がない、魔王業だ。

誰にしろとも言われてしているわけではないが、こんな辺境まで足労した勇者の前に魔王として立ちはだかるのが礼儀というものだろう。

ゆっくりと立ち上がり、マントを整える。

寝室から出ると丁度、謁見の間へとつながる大きな観音開きの扉がとても、そうとても遠慮毛に開かれた。


まるでインターホンを鳴らしたけれど出ない、しかしドアの鍵はかかってなかったのでお邪魔したかのような開き方だった。

しかし尚驚いたのはその顔がとても見知った顔であったことだ。


「て・・・っ」


慌てて自分の口を手で塞ぐ。

何故目の前にティーがいるのか。

まともな装備もつけずぼろぼろのどこの武器屋だとそんな剣が売っているのか。売っているのならばいってみたいものだと言いたくなる剣を手に余らせて。

目が合うと彼女はビクリと肩を跳ねさせる。

何故彼女がここにきたのか。いや待て。もしかするとかなりの力の持ち主であることを隠していたのかもしれない。


「よく来たな、たった一人で我に挑もうなど我もなめられたものだ。しかしその勇気だけは買ってやろう」


勇者が来るたびに何かしらの歓迎のセリフを決め、勇者は魔王へと挑戦の言葉もしくは罵倒を浴びせてくるが。沈黙。それも長い。

ようやく我に返ったのだろうか。ティーの消え入りそうな「あ・・・」という声が聞こえた。


「あ、あなたなんて怖くないんだからね!!!さっさと倒されなさい!」


ビシッと人差し指を突き付けてきて言ってくるが、まったく迫力がない。


かわいい。いや、今は勇者と魔王だ。


幸い俺の顔を相手は知らない。

けれどかわいい。


「よいだろう、その意気を買って先手を迎えようではないか」


ごくり、と俺は唾を飲み込んだ。

一体どんな魔法を売ってくるのだろうか。剣を持っているところからして見た目に似合わず前衛タイプなのだろうか。


「言ったわね!覚悟しなさい!」


そうして玉座の前、赤いレッドカーペットへと仁王立ちした俺に向かって彼女は。

「てやああああああ」と、よもや前から突進してきた。だが。剣を持て余してそれにバランスを崩し、こけた。


「あぶな・・・」


思わず声が出てしまう。

もし剣先が刺さって自滅してしまったらどうするのか・・・

しかも戦闘経験ゼロと見える、その上魔力を全く感じられない。

何故来たのか。3度目の疑問。

そんなことはどうでもいい。彼女にこの場は不釣り合いすぎる。

重い嘆息を吐き出して、俺はまだしりもちをついたままの彼女の前へと歩み寄る。


反撃されると思ったのだろう。こちらを一瞥して彼女はギュッと目を瞑った。

何度もいうがかわいい。

そして俺はそんな彼女を、お姫様だっこした。

苦痛を予測していたのだろう彼女は「え?」と口を開けて俺をみる。




お姫様だっこ!やべぇ!何しちゃってんの俺!

魔王になってよかった!!




脳内では5人ほどの俺がお花畑で駆け回っていたが、それは表情に出さず城の入り口まで彼女をそのまま送り届け放りだした。

城前でぽかーんとする彼女を見届けて、ドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じながら寝室へと戻る。


再びベッドへと寝転がり枕へ顔をうずめた。




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