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もやもや




ノラは魔王業でぼこぼこにされた日は決まってティーのいるに店に通っていた。

いやもし勝とうものならその祝杯をあげにも行っていた。

通い始めておそらく一ヶ月は経とうとしているだろう。


そんなある日、店に行く途中で彼女らしき人物を見かけた。ティーだ。

だめだだめだ、と思いながらノラの足は彼女の辿る道の後を追っていた。



これじゃまるっきりストーカーじゃん、どうすんの俺!



「ノラさま・・・」


ノラに冷ややかな視線が注がれる。これは気のせいではないはずだ。


「シーッ!ちょっとだけだから」


ノラはネズの胴体をぎゅーっと握りしめる。ツギハギから綿菓が出てしまいそうだ。

そっと足音を消して少し離れた距離を歩いていると、ふと彼女は広く円形に開き、中央に噴水と時計台のある広場へとたどり着いた。

彼女は幾度かきょろきょろすると一点に視点が留まったように、一度足を止め、勇気をこめたように歩き出す。

その先には初老の男性がいた。


知り合いか?いや俺には関係ないことだけど・・・なんかこう胸がギュッと違和感・・・

にしてもなんかよそよそしくね?


そう一人ごちり、ストーカー如くいまだ様子を見るノラにネズはさすがに、と肩の上で何度も跳ねた。


「んーもうちょっと・・・」


「ノラ様!!!レディの様子を盗み見るなんて趣味が悪うございます!!行くならさっさといきなされ!」


「え」


そう言ってネズに思い切り背中を蹴飛ばされたノラは2,3歩前のめりに前に出てしまい、運悪くそれに気がついたティーとばっちり目があった、そうばっちり。


一瞬の沈黙。


穴があったら入りてぇぇえええ!


「いや!あの!お元気ですかあ!」


ちげえええええええ


声はひっくり返ってしまい、口は引きつり、目は泳ぐノラに怪訝そうな顔つきで「ノラさん?」と呼ばれたノラは「いや!あの!」と口ごもる。


「たまたま通りかかって・・・お邪魔するつもりはなかったんで!どうぞ!」


一体何がどうぞなのかノラは自分でも理解できない言葉を口走ってさらにうろたえた。



ネズのやつあとで八つ裂きにしてやる・・・・



ティーはそんなノラに困ったような顔をしながら「じゃあまたお店でノラさん」と一言立ち去ってしまう。

一人残されたノラは彼女の背を見送り深いため息と言い切れぬ焦燥を胸に秘め、来た道をもどっていった。









「覚悟しろ!魔王!」


謁見の間ではいつもの景色が繰り広げられていた。

しかしいつもではないものがいた。ノラだ。


「あ゛?」


とてつもなく機嫌が悪い。

漆黒の長い髪は扱えない魔力が溢れ出しふわふわと浮き上がり、金色と真紅の双眸に眉は寄せられている。


ひっ、と5人パーティーの勇者たちの喉から悲鳴がこぼれた。

勇者がくるたびに゛魔王を演じる゛ノラが今日は本物の魔王のようだ。いや魔王なのだが。

ダルげに玉座から立ち上がったノラはゆっくりと瞑目と深呼吸を繰り返し、カッと目を見開いた。



もやもやする・・・すんごくもやもやする・・・



とりあえず勇者なんてかまってる余裕がない




『ネズ』



いつもより低い声色が、その立った一言が謁見の間に響き渡る。




『力を解放する、勇者を屠れ』



「畏まりました~ノラ様」



ノラとは打って変わっていつもの調子で軽口を叩くようにネズは応えた。

途端、ネズは巨大化し、謁見の間を埋め尽くす大きさになる。


「聞いた話と違うぞ!魔王は勇者一人も殺せないへたれだって・・・!」


勇者の一人が後ずさりながら叫ぶ。


「魔王様の使い魔、このネズがお相手いたしましょう。勇者様方」


「んじゃあとは頼んだ、ネズ」


「魔王様のお心のままに」


ノラはその場のすべてを放棄し、謁見の魔にある寝室へとゆったりと向かう、が。

後ろから突如火の嵐がノラへと向かってくる。

しかしノラの纏う魔力がそのすべてを無効化した。


「俺、ちょー今病んでんの!!!邪魔しないでくれよ!」


まるで子供のように喚いてはノラは寝室へと閉じこもった。


寝室はあまりものがない。いたってシンプルでそこに豪奢に構えたベッドにダイブした彼はすぐに大きな枕に顔をうずめる。

彼は自分の言い知れぬ感情を持て余していた。

胸が締め付けられるような、それでいてレイナとは違う彼女にレイナとは似ても似つかぬ感情に。


うーーー、と枕ごしのこもった声を発した彼はあおむけに寝転がると繊細なレリーフの施された天井をぼーっとみあげる。


「レイナ・・・」


ふと口からこぼれた言葉のあと彼は眠りに落ちた




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