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第七話 プロローグ―――ピリオド。

ひとまず、区切りです。



 窓の外から様々な部活動の朝練の音が聞こえてくる――。


 サッカー部の時間を区切るホイッスルの音。

 陸上部のランニング時の掛け声。

 野球部のボールを打った時の快音――。


 その活気のある音達が混ざり合い、誰もいない朝の静かな教室に鳴り響く。


 俺は、その音達に耳を傾けながら読書をする時間が結構好きだったりする。


 ……しかし、今日はそんな心地の良い空間に、先客がいるようであった――。





 「よう、優斗」


 電気は付いておらず、朝日だけが照らす教室。

所々に荷物が置いてはあるが、図書館やら部活の朝練などでそいつ(・・・)以外は誰もいない静かな空間。

そいつは、あろうことか俺の席に座って本を読んでいた。


「ああ、はよう。 ……一樹(かずき)


 俺の中学生時代からの友人である坂口(さかぐち) 一樹(かずき)であった。


「……でっ」


 俺は無言のまま自分の席までいき、意味深な笑みを俺に向ける一樹の座っている席を蹴った。


 ……まあ、これでも随分と軽い方である。

 いつもならカバンでこいつの無駄に整った顔面を殴るくらいはしてたかもしれない。


「相変わらずひどいなー優斗。 でも、いいのかな~? 今の俺にそんなことをし――……でっ」


 (すね)を蹴った。


 ……まあ、目の前で脛を抑えてうずくまっているこいつの言っていることも正しくはある。

 ある一週間前の出来事が、こいつに強く出れない原因を作ってしまったのである。


 俺はその一週間前の事を思い出しながら、もう一度、一樹の脛を蹴って嘆息をついた。





 ――一週間と一日前。


「おはよう、優斗!」


「ああ、はよう。 ……一樹」


 朝のHR(ホームルーム)の十分前。

 徐々に生徒が教室に集まってきており、ガヤガヤとした喧騒が鳴り響く中、左後ろ角の俺の席に座って読書していた俺は、いつものように一樹に話しかけられたので読んでいた本に栞を挟んでぱたんと閉じ、いつものように挨拶を返した。


「今日もそのダサ眼鏡かけてるのか、……外した方がいいぜ?」


 出会いがしら失礼なことを言ってきたので、取り合えずシャーペンで腕を刺しておく。


「ぐおおおおお……! ……優斗さん? さすがにそれはないのではないでしょうか……」


「お前が俺のインテリさを理解していないからだ」


 眼鏡はインテリになるための最重要事項である。


 そういってやった直後、涙目になりながらも立ち上がった一樹が一瞬、思案顔になってから俺の顔をじっと見つめてから、こうのたまった。


「……お前、素材は結構いいもん持ってんだから、眼鏡外して髪型整えたら絶対モテると思うんだがなー……」


「……お前にだけは言われたくなかった」


 坂口 一樹。

 今年の文化祭で『ミスター雷下』を、とある先輩から奪った男だ。


 ……つまり、()(ケメ)()である。


 学力も≪氷帝≫についでの学年二位で、背も俺より誠に不本意ながらほんのすこし……とはとても言えないほどに、高い。


 入学当初は≪氷帝≫ほどまではいかなかったが、当然のことながらモテていた。


 ……だが、この世に完璧な人間など、やはりいないようである。


「……まあいいや。 ところで、俺が昨日おすすめたアレ、もうプレイしたか?」


「……するわけないだろう、エロゲなんて」


 そう、こいつは重度のエロゲオタクなのである。


 ……別に、エロゲが好きなことをバカにするつもりは到底ない。

 好きなことは人によって違うものだし、そんなことで偏見を持つ方がバカバカしいことである。


 が、こいつは勉強は出来るのに、救いようのないバカであった……。


 せっかく出来た彼女との初デートに、秋葉原を選択し、『エロゲめぐり』をしたというバカであった。


 それからドン引きされた彼女に振られ、また新しく出来た彼女にも同じ過ちを犯し、――三回ほど繰り返した今、一樹はイケメンであり頭もいいのに、誰にも見向きもされない存在になっていた……。


「なんてってなんだよ……。 今回進めたのは『神ゲー』なんだぜ?

 まあ、前回も前々回も神ゲーを進めたんだけどなっ」


「……まあ、『クソゲー』でも『神ゲー』であっても、そんなものを買う金は俺にはないからどちらにしろやらないけどな」


 その俺の言葉を聞いたとたん、一樹はきょとんとした顔をしてから、次のような事を口にした。


「……(ぶつ)があれば、お前はプレイするのか?」


「……ん? ……まあ、そう言うことになるな」


 俺はさっき言った発言を思い出し、深く考えずにそう答えた。


「そうかそうか、そういうことか」


 そう言って意味深な顔をした一樹は、担任の前橋先生が来たので自分の席へ戻っていった。


 俺は最後に残していった一樹の発言を深く考えず、再び本を開き、目を落とした。



 ――そして、次の日。



 朝から美咲に「お兄ちゃんにはまだ早いからっ! ……早いからっ!」となぜか真っ赤の顔で言われ、疑問に思いながら学校に登校して教室で本を読んでいた俺は、その日も同じように一樹に話しかけられた。


「おはよ、優斗! 今日もそのダサ眼鏡かけてるんだなっ!」


 やけに上機嫌な一樹の様子に疑問を深めながらも、とりあえずシャーペンで腕を刺した。


「ぐおおおおお……! 今日くらい、俺に優しくしてくれてもいいんじゃないかっ……?」


「……? はよう、一樹。 ……ところで、どういうことだ?」


 俺は当然の疑問を口にした。


「……え? だってプレイしたんだろ? 昨日俺がお前のカバンに入れた神ゲー」


「……だから、どういうことだ?」


 全く身に覚えがなかった。


 聞くところによると、昨日俺のカバンにその『神ゲー』とやらを入れたそうである。

だから、当然俺がその神ゲーをプレイして、一樹は俺に感謝されていると思ったそうである。


「……まあ、(ぶつ)は渡しておいたから、今日にはプレイしておいてくれよな?」


 そう言われて、朝、美咲に言われた発言を思い出した――


『お兄ちゃんにはまだ早いからっ! ……早いからっ!』


 ――という発言を。


 サァ……と血の気が引いた俺は、すぐさま一樹が入れたというカバンを開いた。


 そして……。


「……ない。 ……多分、美咲に処分された」


「……え?」


 数分間、俺と一樹の間に沈黙が続いた……。





 ――それが、一週間前の出来事である。


 聞くところによると、俺のカバンに入れたのは、初回限定版であり人気過ぎて一つしか手に入らなかったという貴重なものだったそうであった。

(俺達はまだ知らない、美咲の部屋のクローゼットの中に大切に保管されているということをッ……!)


 さすがに悪いと思った俺が、「お詫びに何か出来つこと一つしてやる」と一樹に言ってしまったのである。


 そして、この一樹の様子だと、多分、俺に何をやらすのかを決めたようであった。


「決まったのか?」


「まあな」


 やっと脛の痛みが引いたのか、立ち上がった一樹が俺に言った。


「……そんな嫌そうな顔すんなよ」


「今からなんでも言うことを一つ聞け、なんて状況になったら、誰でも嫌そうな顔一つくらいはするだろう。 ……で、なんだ?」


「昼休憩になったら話す。 ……まあ、お前にとっても悪い話じゃないぜ」


 そう言って、自分の席に帰ろうとする一樹を呼び止める。


「ちょっと待て。 どんな内容の願いだ?」


「そうだな……。 ……とある奴の背中を押すための願いかな」


 そう言って振り返りもせず席に戻っていく一樹の背中からは、これ以上は言わないという意思が感じられて、俺は口をつぐんだ。


 ふと窓の外を見やると、雷下学園の名物である大樹の枝々が、風でかすかに揺れているのが見えた。





 そして、昼休憩――。


 俺と一樹、琴音が教室でいつものように弁当を食べている時の事。


「――そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」


 いつまでたっても言おうとしない一樹にしびれを切らした俺は、ついにその話題を口に出してしまった。


「教えるって、優斗が坂口の言うことをなんでも一つ聞く……ていう、あれ?」


「そう、あれだ」


 琴音の疑問に答えてやりながらも、一樹の目をじっと見つめる。

 これ以上は先延ばしにするな……という意思を込めて。


「んっん。 ……じゃあ、そろそろ発表しようかな」


 わざとらしく喉をならし、演技じみた大袈裟なそぶりで一樹が立ち上がった。


 そして、俺の方を指さし、こう言い放った――。



「――今日の放課後、≪氷帝≫に告ってこい」



 ……とりあえず俺は、一樹の指をへし折った。





「ぐおおおおお……! 指がああ、俺の指があああ……!」


「どういうことだよ……」


「そ、そうだよ! こ、告白だなんて……絶対だめっ!」


 俺と琴音が一樹の命令を批難した。


「まてまて、うえいとうえいと……。 とりあえず(ひいらぎ)、ちょっと耳貸せ」


「……?」


 琴音は怪訝な顔をしながらも、一樹に耳を貸した。

 そして――。


「……――で、それでお前が――……」


「――……わ、わかった」


 一樹が琴音に何かをささやいている途中、琴音はなぜか顔が赤くなったり、ビクンッと肩が跳ねたりしていた。


 ……琴音になにを吹きこんでいるんだ? 一樹(こいつ)は。



 ……数秒後。


「……優斗、約束はちゃんと守らないとねっ!」


「どうした琴音っ!」


 琴音が意味不明な事を言い出した。


「――……で、それで優斗と……えへへへへへ……」


 琴音が意味不明な笑い声を発し始めた。


「ま、そう言うことだ、優斗。 ……第一、氷帝に惚れてない男子生徒なんてこの学校にはいないだろ?」


「それは、……そうだが」


 そんな奴がいたら、彼女が居るか、目が腐っているか、二次元にしか興味がないか、……あとは、ホモしかいないだろう。


「……ていうか、そもそもの話、出来ないだろ」


 俺は反撃を試みる。


 氷見谷 紗雪に告白できるのは、二週に一度の水曜日の朝と放課後だけ――そういえば、今日か。

 ……だが、その日になるだけで告白できるのではない。


「朝、靴箱に手紙入れてないだろ」


 そう、告白できるのは、告白する旨と、場所を明記した――いわゆるラブレターというものを、氷見谷 紗雪の靴箱に、誰よりも先に入れなくてはならない。


 吉田が言った令状を守るために出来た、暗黙の了解である。


「書いた覚えもないし、万一お前が手紙を書いて入れたとしても、お前はいつも来るの遅いし――……あっ」


「そう、俺が書いて入れた」


 今日は珍しく、一樹ははやく学校に来てたんだったっ……!


「逃げ道がなくなったな、優斗」


「でもっ……!」


「――氷見谷のこと、好きなんだろ?」


 嫌いと言えば嘘になるだろう。 ……俺はホモじゃない。


 それに加え、俺と≪氷帝≫は昔、どこかで……――


「……ま、せいぜい当たって砕けなよ、少年」


 そう俺の肩にポンと手を置いた一樹にイラっとしたので、脛を蹴っておく。


 一応約束ではあるし、氷見谷の事は、少なくとも嫌いではない。

 むしろ……――。


 俺はこの気持ちにそっと蓋を閉じ、目の前で脛を抱えてうずくまっている男子生徒を見下ろしながら、約束だしな……と、俺は≪氷帝≫に告白することに決めた。





 ――季節は、秋の下旬。


 春には息をのむほどの満開の桜を咲かせてくれる校庭にそびえたっている大樹も、この時期ばかりは花も葉っぱも散らしてしまいその太い枝々を四方に伸ばすだけで、今や現在の気温の低さを際立たせるだけの存在になっていた。


 加えて、現在のその大樹の背景は――世界を塗りつぶす茜色。


 段々と日が短くなっているのか、放課後になってからわずかしか時が経っていない現在でも、空は幻想的なまでの美しい夕焼け――。


 それらの事象が、余計に現在の季節の印象を深めていた。


 場所は屋上。


 周りはフェンスに囲われているが当然吹きさらしであり、季節特有の冷たい風がごうごうと吹いており、相当な厚着をしないと出られないほどの気候だ。


 一般の生徒は学校が終わると自宅に帰るか部活にいそしむのが普通であり、この時期に屋上へ出ようなどという発想は出てこないだろう。


 それらのことが起因したのか――。


 現在の屋上は、――ある意味では周囲から隔離された、幻想的な光景が広がっていた。


 まるで時が止まったかのような静寂に、幻想的なまでの美しい茜色に染まった世界。 大樹の陰がちらちらと地面に重なり、一撫での風が数枚の落ち葉を舞いあげる。


 生徒はいない、俺と、――≪氷帝≫を除いての事だが。




 俺は目の前にいる、この世の人とは思えないほどの美しい少女に向かい、なんとか早鐘のように鳴り響く心臓の音を抑え込み、そして―――



「――好きです、付き合って下さい」



 ……そう、言葉を紡いだ。



 時間が引き延ばされる。

 ……そんな感覚を覚えた。


 サッカー部の時間を区切るホイッスルの音。

 陸上部のランニング時の掛け声。

 野球部のボールを打った時の快音――。


 それらの活気のある音達も、俺の耳から遠くなっていき、――……俺と≪氷帝≫の呼吸をする音、身じろぎのために起きる服のこすれる音――。


 そんな音しか俺の耳には聞こえてこなかった。


 ――そして、永遠にも思える数秒、あるは数分の時間が経過した。



 ≪氷帝≫が何かを発しようと軽く息をするの音が聞こえてきた。


 俺は身体をこわばらせ、思わずこぶしをぎゅっと握る。



 そして、彼女は口を開く――



 彼女の紡いだ言葉(セリフ)は、……言葉は、―――………





 俺は呆然として、茜色の日が差す廊下を歩き、俺の教室、高校一年・三組のドアを開けた。


 そこには、なぜかニヤニヤした一樹と、……身体をこわばらせた琴音の姿があった。


 陸上の練習中であるはずの琴音が、この場にいることはおかしなことだったのだが、先ほどの起きた事に比べれば気にならなかった。


 俺はふらついた足で自分の席まで行き、力なくストン――と腰を下ろした。



 どういうわけか、一樹に肘でつつかれた琴音が、身体を固くしながら、呆然としている俺の元まできた。


「……あ、あのね? ≪氷帝≫がなんと言おうとも、優斗には、すっごくいいところがいっぱいあると思うの」


「……ん」


力なく相槌を打つ。


「……私のお弁当を作ってくれるし、めちゃくちゃおいしいし。

 ……優しいし」


「……ん」


 顔を真っ赤にした琴音が言葉を続ける。


「……だ、だからね。 ≪氷帝≫のかわりに私が――」


「――≪氷帝≫と」


「……え?」



 俺は、琴音の言葉にかぶせるように言った。



「――氷見谷 紗雪と、付き合うことになった」



 そう、俺は、告白の結果を琴音達に伝えた。




 季節は秋の下旬。


 俺はその日を境に、日常が、音を立てて変わっていくような気がした。





(プロローグ―――ピリオド。)



サブタイトルからわかるとは思いますが、やっとプロローグが終わりました。

次話から本格的にこの”物語”が始まります。


深く構想を練らず、ちまちまと伏線を張っていったら本当にぐっだぐっだの駄文になってしまいました。

不快な思いをさせてしまった方。

本当に、申し訳ありませんでした。


次話からは二度とこのような駄文にならないよう、ちゃんとプロットを組んで出直したいと思います。


……というわけで、毎日更新は今日で終わりです。


「眠たいなら寝ちゃいなYO」

という悪魔の声に負けずにここまでこれたのも、皆さまの感想のおかげです。

本当にありがとうございます!


少々時間があくとは思いますが、必ず戻ってきたいと思いますので、待っていただけると幸いです。

(今度は寝不足にならないように、書き貯めを携えて……)



ブックマークと評価をしていただけると、作者のモチベーションが上がります。


(ばっちゃん! 行ってきます!

 ……え? どうしてばっちゃんはそんなに口が大きいの……?)


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