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第五話 日常が変わる一日(Ⅳ)。



 重量感の感じる赤レンガで造られた壁に、【雷下学園】と彫られた白い板がはめ込まれている――。

 俺達が半年間見続け、見なれた学園の門が見え始めてきたの頃、―――一つの人だかりが俺達の視界に飛び込んできた。


 ……そうか、あれからもう二週間がたったのか。


「ん? ……なんだろ」


 何が起こっているのか大体の察しがついていた俺は、時が経つのって案外早いんだなー……としみじみ思いながらふと横に目を見やると、――コテンと首をかしげた琴音が、不思議そうにつぶやいていた。

 そうか、こいつはいつも遅刻ギリギリに登校してくるから知らないのか。


「十中八九――≪(ひょう)(てい)≫だな」


 なので、親切に教えてやることにした――。



 ――≪氷帝≫。

 雷下学園の生徒であれば、誰一人として知らない者はいないだろうと思われる、アイドルでさえ霞むほどの妖艶な容姿を持った――氷見(ひみ)() ()(ゆき)という女子生徒の異名である。


 雪のように白く透き通った肌に腰まで伸びる艶やかな黒髪をなびかせ、常に無表情で凛と背筋を伸ばし学園を闊歩する彼女の姿を一目見てしまうと、――男子女子に拘わらず吸い込まれるかのように目が離せなくなる。


 そんな彼女にふと流し目で見られたら、男子()高校生()の一人や二人、――八十人ほどがコロンと恋に落ちてしまうのも無理はないことだろう。


 彼女が入学してから一週間――彼女は告白を受けに受けまくった。

 その数――全部で四十人。

 一日約五人の超ハイペースであった。


 告白してきた男子()高校生()達に『頭が弱いと“身の程”という言葉の意味も分かりませんか?』や『鏡で自分の顔を見た事ありますか?』などの辛辣な言葉を、絶対零度の眼差しと声色で叩きつけていった彼女であったが、それでも律儀に指定された場所に赴き断っていったのだ。


 彼女の無表情に、疲れの色が混じっていたのは誰の目にも明らかだった。


 それを見かねて動いたのが、俺ら高校一年生を受け持っている体育教師『鬼の吉田』であった。


 入学一週間後の三回目の体育の終わりに、男子生徒だけを残し、以下の令状を言い渡したのである。


――氷見谷への告白は、二週間に一度の水曜日、朝と放課後だけにしろ……と。


 一部の男子は当然のごとく不満を述べたが、その生徒達は即座に吉田先生が生徒指導室に連れて行った。

 ……少しだけ素行の悪かったその生徒達は、なぜか急に周りの生徒に優しくなった。


 これらの事が、今や雷下学園の名物になっている二週に一度の『公開処刑』――今現在、目の前で起こっている光景が出来あがっている要因であった。


「ふーん……――あっ」


 それらの事を語っている最中に、なるほどなあ……とうんうんうなずいていた琴音が、急に何かを見つけたかのように声をあげた。


 琴音の向いた視線の先に、俺も目を見やると……納得した。

 いつも琴音と一緒にいる『スポーツクラス』の女子生徒が、人だかりの中にいたからである。


「カナー! やっはろー!」


「琴音さんっ!? それ色々とまずいからっ!」


 彼女の元に駆け足で向かっていった琴音に、俺はなぜか意味不明な言葉を発しながら追いかけて行った――。





「おはよ、琴音。 ……あと優斗君も」


「おう、おはようカナさん」


 そう挨拶をしてくれたのは、琴音にカナと呼ばれている、前髪ぱっつんのおとなしそうな女子生徒であった。(琴音より身長は低いが、誠に不本意ながら俺よりほーんの少しだけ背が高い)

 琴音が「カナ」と呼んでいるので俺も「カナさん」と呼んではいるが、苗字はいまだに知らない。 ……というか、出会って半年にもなって、今更苗字を聞くなんて出来るわけがない……。


「で、結果はどうだった?」


 分かり切ってはいるが、一応聞いてみる。


「ああー。 ……惨敗だったよ? 『生理的に無理です』って言われてそこで放心してる」


 うわ、それはきついな。


 ≪氷帝≫の前でガクッと膝をついている隣のクラスの山下(バカ)の目じりには、光るものがある気がした。


 俺はふと≪氷帝≫の様子を見てみると、すでにバカ(山下)には興味を失った様子で踵を返そうとしていたところで――


 どういうわけか、俺と目があった。


 直後俺は、壊れたカセットテープが動き出したかのように、とある会話が脳内にフラッシュバックされた―――


『……なあ、一人で何してんの?』


『私……? 私は……――――




 ―――ねえ。 ……ねえってばっ!」


 琴音の問いかけにハッとする。


「……あ、ああ。 なんだ?」


「もう、話聞いてるの?」


「聞いてる聞いてる。 ……で、なんの話だっけ」


「やっぱり聞いてないじゃない……」


 不貞腐れる琴音に苦笑いを返しつつ、再び≪氷帝≫のほうに目を向けてみると、すでに踵をかえした後のようで、ぽっかりと人が居ない空間だけが残されていた――。





 朝練頑張れよ!や、大会当日は絶対応援に来てね?……等の会話がなされた後、Bグラウンド前(雷下学園にはAからDまでの四つのグラウンドがある)で琴音たちと別れた後、俺は高校一年生・三組の自分の教室へ行くために、校内の廊下を歩いていた――。


「…………」


 俺は、数十歩くらい先に、大きな段ボール箱二つを積み重ねて持ちながら、えっちらおっちらと歩いている妙に見覚えのある人物を見かけた。

(正面から見ると顔は完全に段ボールで隠れてしまっており、頭の上にビヨンと生えているアホ毛だけが見えていた……)


 正直絡まれたくない人物だったので、カバンで顔を隠しながら横を通り過ぎようと試みる――。


 ガシッ。


 あ、捕まった。


「僕がこんなに苦労して荷物を運んでいるのに、見知らぬふりとはずいぶんと薄情じゃないか」


「お、おはようございます。 ……神楽坂かぐらざか先輩」


 俺は、朝から疲れることになるなー……と少し悲しく思いながらも、目の前にいるにんまりとした笑顔を見せる先輩に、朝の挨拶を返した。




今回は前回の予告を守れたぜ……!


次話では、”とあるしょうもない”事情とやらが明かされると思います。

……本当にしょうもないので、過度な期待はしないでいて下さい……。



(ばっちゃん! 迷信じゃないってさ!

 やったね!)


ブックマークと評価をしていただけると、作者のモチベーションが上がります。


(……ばっちゃん?

 ……え? ……死んでる(衝撃の展開ッ!))

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