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第四話 日常が変わる一日(Ⅲ)。



 秋の下旬。 早朝。


 俺は、家を出てからすぐの通りである道で、隣の家に住んでいる幼馴染に呼びかけられ、彼女の方へと振り返った――。


「……ああ、おはよう。 今日は珍しく朝が早いな、琴音(ことね)


 そのまま俺は、女の子でありながら寝癖を直していないいつも通りの彼女の様子に少し苦笑いしつつも、目の前にいる眠そうに目をこすっている彼女に挨拶を返す。


「大会も近いから、さすがに朝練に出ないとね、……んっ……!」


 そう言って雑にくくったポニーテールを揺らしながら、大きく伸びをする(ひいらぎ) 琴音(ことね)は、子どもの頃から――それこそ、俺達が五歳の頃からの付き合いである幼馴染だ。(誠に不本意ながら、俺の身長よりほーんの少しだけ背が高い)


 幼稚園、小学校、中学校と続き、――高校までも、俺達は同じ学校へ通っている。


正直、中学生の時の俺は、琴音とここまで長い付き合いになるとは思っていなかった。


……なぜなら俺は中学時代、県内屈指の進学校である雷下学園を進路希望としており、高校は別々の学校に通うことになるだろうと思っていたからだ。

(通う高校が違っていてもそのまま交流が途絶えるとは限らないのだが、俺は、漠然とそのまま関係が終わってしまうと考えていた)


 雷下学園は有名な進学校なだけあって、倍率も高く、そこそこな学力がなければ入れない学校である。


 加えて、目の前にいる現在、大きな口を開けてあくびをかいている少女は、見た目通りにあまり成績がよろしくなかったので、いくら彼女自身が「優斗と同じ学校に入りたい!」と言い出し、色々と奮闘を始めたとしても、正直彼女が雷下学園に合格するとは到底思えなかった。


少し寂しくは思ったものの、このままお別れになるだろうと思っていた。


 ―――……()


琴音が雷下学園に入学するため! といって中学校を休み始め、それ以来会っていなかった彼女と再会したのは、あろうことか雷下学園の入学式の日のことだった――。


 入学式当日。

 俺が、一緒に雷下学園に入学した中学生の頃から仲の良かったとある友人と教室で駄弁っていた時、急にとある人物が教室に乗り込んできたことがあった。

 俺はその人物が誰であるかが分かった時は、大そう驚いたことを覚えている。


 ……まあ、お察しの事だろうとは思うが、琴音だったのである。


 ――つい先ほど、雷下学園は有名な進学校だと言ったが、そのことの要因は進学率がそこそこにいいというだけでなく、もう一つ、運動(・・)()()()()入れて(・・・)いる(・・)というものがあった。


 雷下学園の一番の特徴は、五十名で構成されている運動部(・・・)()専用(・・)()クラス(・・・)――『スポーツクラス』というものがあることである。


 さて、やっとここで、先ほど琴音が言っていた「大会も近いから」という発言に繋がってくる。

 そう、琴音は中学校を休んでいる間に、――早々に通常の受験での入学を諦め、スポーツクラスに入るために色々と奮闘をして、見事、雷下学園に入学したのであった。


 もともと何かにつけて琴音はもしかしたら天才かも知れないと思っていたが、まさか受験二か月前から陸上の練習を始め、五十席という数少ない席を勝ち取るとは思ってもいなかった。


「……どうしたの? 私の顔に何かついてる?」


「……いや、あらためて考えると、琴音って凄い奴なんだなぁと思ってさ」


 俺は無意識に琴音の顔を見つめてしまっていたようで、そうあわててごまかす。


「……へんな優斗」


 琴音はつぶやき、俺達は雷下学園へ向けて歩き出した――。





 最近の調子はどうだとか、一週間前に終わった期末試験はどうだったとか……そんなたわいない会話を続けながら、琴音と一緒に通学路を歩いて十数分の時間がたった時――。

 俺はふと気付いたかのように琴音にこう提案する。


「せっかくだし、昼休憩の時じゃなくて、今、渡そうか」


 琴音がうなずく。


 俺はおもむろに補助バックのジッパーを開け、中身を物色する。

 そして、中に入ってある二つ(・・)()弁当箱の内、赤色の方を取りだし、琴音にいつも(・・・)()よう(・・)()手渡した。


「いつもありがと、優斗!」


「俺だけじゃなくて、美咲にも感謝してくれよな」


 琴音は「もちろんだよ」と嬉しそうにほほ笑んだ。



 それは、雷下学園に俺達が入学してから一月ほどが経ち、高校生活に慣れ始めたある日のこと――。


 いつものようにある友人と俺は、琴音と一緒に昼ごはんを食べようと『スポーツクラス』に迎えに行った時、――琴音が机に突っ伏していた事があった。

 いつもは「昼ご飯だ! 昼ご飯の時間だ!」とウキウキしているのにである。


 ただ事ではない、と思った俺とその友人は、かたくなに事情を話すのを拒む琴音を説得し、以下の事を聞きだした。


 進学校に通わせることになり、授業料が高くなったのでおこづかいは我慢してほしいと申し訳なさそうに母親から言われたということ。


 無理を言ってこの学園に通わせてもらっているので、拒むことが出来なかったのだということ。


 しかし、おこづかいをもらえなければ毎月楽しみにしていた小説やゲームが買えなくなるのだということ。


 なので、毎日もらえる昼ごはん代を貯金しようと考え、当分昼ごはんは抜きになるのだということ。


 それらの事を、それはもう暗い様子で琴音は語った。


 運命のイタズラか、はたまたただの偶然であるのか、その日は、母親が家から飛び出し、一人暮らしないし二人暮しを始めてから一週間後の日であった。


 語り終わった琴音が再び世界の終りのような暗い様子で机に突っ伏したのを見て不憫に思ったのと、俺の事を追って琴音はこの学校に入ったのだから、責任の一端は俺にもあるかな、と思った俺は、一つの解決策を見出した。


 要は昼ご飯があればいいのであれば、俺達兄妹が三つ弁当を作って、そのうちの一つを琴音にあげればいいじゃん……と。


 もちろん美咲が拒めば打つ手なしだったが、家に帰って美咲にその日の事を話すと、案外すんなり許可をもらえた。


 その日以来、俺達兄妹は朝に三つ作った弁当の内、一つを琴音にあげることとなったのだ。

(日々弁当を作っている俺達からすれば、二つも三つもたいして手間は変わらなかった)


「……ねえ、優斗?」


「ん? なんだ」


 俺から受け取った赤色の弁当箱を持った琴音は、カバンにいれるそぶりも見せず、数秒間じっと弁当箱を見つめてから俺にぽつりと問いかけた。


俺は妙に真剣な顔になった琴音をみて、無意識に心構えをする。


 琴音が俺の瞳をじっと見据えてきたので、俺も琴音の瞳を見つめ返す。


 ゴクリッ、――そんな音が俺ののどから聞こえた気がした。


 ……それから数秒が経った。 経ってしまった。


 琴音は真剣な表情のまま俺の瞳を見据えながら、次の言葉を紡ぎ出した――。





「私のお嫁さんに来ない?」


「逆だろ!」


 真剣に聞いた俺がバカだったよ……。


「じゃあ、……お婿さん?」


「なんで疑問形なんだよ……」


 俺が琴音の頭をペシッと叩くと、琴音がぺろりと舌を出した。





 なんだかんだで、それから数分歩いたところで学校の門が見えてきた。


「ん? ……なんだろ」


 琴音がつぶやく。

 そこで俺達の目に飛び込んできたのは、―――学校門前に見える、一つの人だかりであった。




…………嘘はついていませんよ?

”メインヒロイン”は人だかりの中にちゃんといます(笑)


次話ではあたらしいキャラクターを出そうと考えてます。



(迷信じゃなかった、だと……!)


ブックマークと評価をしていただけると、作者のモチベーションが上がります。


(ばっちゃん、疑ってごめんよ……。

 ……え? そこまで関係ない? あ、そうですか)



あと、僕は眠たいのでもう寝ます。

すみませんが、感想の返信は明日に回させて下さい……。

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