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第二話 日常が変わる一日(Ⅰ)。



 ――その日は、ずいぶんと外の空気が冷たかった事を覚えている。


 空が分厚い灰色の雲に覆われて、しとしとと雪が降っていた。


 幼いころだった俺はその日、なにかに癇癪を起して家を飛び出し、ザクザクと雪を踏みしめて、行くあてもなく走りだした事を覚えている――。


 小学生の低学年くらいだっただろうか、それにしてはずいぶんと走ったと思う。


 数時間――いや、数十分だったかもしれないが――それぐらい、走った感覚はあった。


 そして、知らない所、もう誰にも見つからないだろうと子どもの頃の俺が思うくらい所に来て、ようやく足が鉛のように動かなくなって息絶え絶えになった俺は、見知らぬ公園で休もうとしたんだっけ……。


 雪で凍結した地面に思わずこけそうになりながらも公園のベンチに足を運ぼうとした時、俺はその子に、――出会った(・・・・)


 同い年くらいの少女だった。

 艶やかな黒髪とは対照的に真っ白な肌をしたその少女は、その公園で一人、ブランコに座って軽く俯いていた。


 幼かった俺でも、“綺麗”だという言葉が自然と浮かび上がってきた。


 でもその時俺は、その少女が、綺麗であるとともに、時が経てば消えてしまうこの雪のように儚げであるようにも見えた。

 何を思ったのかその時の俺は、ベンチに座ることをやめてブランコに足を運び、その少女に―――



 ―――ピピピピッピピピピッピピp――……タンッ!

「―――……ふーむ、どうしようかn――……ふやっ!」



「……ああ、夢か」

 なにか大切なことを思い出そうとしていたと思ったが、その記憶の糸はするすると手から滑り落ちて行ってしまい、何かを思い出そうとしていた、という気持ち悪い感覚だけが残った。


 ……まあ、大切な事なら、そのうち思い出すか……。


 俺はうっすらと重い瞼を持ちあげ、差しこんでくる朝日に少し顔をしかめる。

 ……が、このまま瞼を閉じ、布団の心地よさに身をゆだねてしまえば今日の朝ご飯と昼ごはんは抜きになってしまう。


 肌を指す冷気に耐えながら、断腸の思いで布団をめくりあげ、上半身を起こす。

 そして、両腕を上にあげて伸びるようにして大きなあくびをひとつつき、数秒間ボーとしてから目じりに浮かんだ涙をぬぐい――最後に、残った眠気を外に出すように両頬をパンッと叩く。


 俺は、いつも通りの寝起きのルーティンをこなしたところで、――視線を部屋の入口へと移した。 俺の部屋に一人、何者かが居ることに気づいたのだ。


 ……いや、ほんとは起きてからすぐに気付いたんだけどな。


 ふやっ! て言ったもんな、ふやっ! って。


「……なにしてんの? 美咲(みさき)


 神谷(かみや) 美咲(みさき)。 ……年が俺の一つ下の最愛の妹である。


 ドアの前で固まっている美咲に俺がそう問いかけたところ、美咲の背中は目に見えてビクッと震え、その直後、カタンッと美咲の足元から音がした。

 ふと見やると、黒くて細長い箱のようなもの? が落ちてあった。

 二人の間で沈黙が落ちた。


 ――ところで、俺は雷下学園に入学する時、俺はある悩みの解決のために、ある魔法のアイテムをかけ始めた(・・・・・)


 そのことの経緯を説明するために、まず皆さんには俺の長年の“ある悩み”とやらを聞いてもらおうか。


 小学生くらいではまだ気のせいだと思っていたが、中学生になってから露骨に感じ始めた、――周りの人から『子供扱いをされる』というものである。


 例えば、俺が中学二年生の時。

 同じクラスの女子生徒が難しい問題に苦悶しているのをみて、教えてあげようとその問題集を持って近づいた結果、逆に俺が分からなくて聞きに来たと勘違いされ、懇切丁寧に問題の解説をされたことがあった。


 例えば、俺が中学三年生の時。

 新入生が入学してから間もない時期に、中学一年生――つまり新入生の男子生徒二人組が校内で迷っているのを見て、先輩らしく道案内をしてあげようと近づいた結果、同じく俺が新入生であり、道に迷っているだと勘違いされ、一緒に生物室を探したこともあった(さりげなく、道を誘導して事なきを得た)。


 などなど……。


 なぜか、俺はみんなから子ども扱いをされる。


 俺は雷下学園に受かってから入学するまでの時間を使い、その原因究明に努めた。


 みんなよりすこーしばかり背が低いからだろうか、顔の発達がほーんの少し遅いからだろうか、……いや、中学生にもなって、そんなことで子ども扱いはしないだろう(注:それです)。


 ……ならば何が原因か。一月かけて、友達に相談して「そのままでいいじゃん」と回答され、それを聞いていたとなりの女子から「神谷君はそのままでいいんだよ」と優しく諭されながらも考えに考え抜いた結果が――“頭が悪く見えるから”だという結論を出した(注:違います)。


 原因が分かれば後は解決策である。


 頭が悪く見えるなら、頭が良く見えるようにしたらいい――つまり俺は、インテリになればよかったのだ!(?) とその時俺は考えた。


 『インテリ』――よく『インテリジェンス』の略語だと思われがちだが、実は『インテリゲンジア』というロシア語が語源だったりする。


 意味は『知識階級』だとか『知識人』。

 つまり、インテリとは賢そうな人のことを指すのである。


 皆さんはインテリといわれてどのような人物が思い浮かぶだろうか。 その時、俺は「長身で眼鏡かけている」ということを思い浮かべ、それから俺は、そんな「インテリ」な人物像になるべく自分を近づけるため、日々奮闘することとなった。


 具体的に行動を行ったのは以下の二つである。

 まずは、身長を伸ばすこと。

 俺は前々からすこーしばかり背が低いと思っていたので、毎日欠かさず牛乳を飲んでいたのだが、インテリになろうと決めた日から一杯を二杯に増やすことにした。(そのことが功を奏したのか、高校初めの身体検査で、去年から1㎝も身長が伸びていた!(注:関係ありません))


 そしてもう一つ、この話の重要な役割を果たす――眼鏡をかけることだ。

 俺の目はそこまで悪くはない。 というかいい方である。

 右目が1.8で、左目が1.6。 両目で2.0だ。

 まず親に頼んでも必要ないと言われ、買ってもらえないだろうと考えた。(まあ、まず親が家にいることの方が珍しいのだが……)


 なので、俺は自分の貯金を切り崩して眼鏡屋へ駆け込み、度の入っていないいわゆる『ダテ眼鏡』とやらを無理を言って作ってもらったのだ。 おもちゃみたいだとしまらないので、本格的な奴である。


 しかし、かけ始めた当初、なぜか友人からの「おおぅ……、そのダサ眼鏡、外した方がいいぜ……」や――特に、美咲からの「お兄ちゃん! それかわいくない!」などの意味不明な猛反対があった。


 俺は基本的に、妹に甘い人間だと自覚している。 しかし、その眼鏡はそこそこな値段をした代物であったのだ、使わずに捨てるなんて俺には到底出来なかった。


 それから「かける!」「かけないで!」「かける!」「かけないで!」の押し問答があった末、「家では眼鏡をかけない」という条件をのみ、普段から俺はダテ眼鏡をかけるようになったはずなのだ。

(かけ始めてからは、知らない人から話しかけられることが無くなった!(注:ただダテ眼鏡が致命的にダサかっただけです))


 ……さて、長々とした前置きはこの辺にして、あらためて地面に落ちた黒くて細長い箱を見てみよう。



 …………。



「俺のダテ眼鏡じゃねえかっ!」


「だってお兄ちゃん、絶対眼鏡かけない方がいいもん!」


 いいもん! じゃない!


「わかってないなあー。 これをかけてから本当に効果はあったんだぜ?」


「……どんな?」


 俺はおもむろに人差し指を突き出し、折り曲げるという、いわゆる『くいっくいっ』とするジェスチャーをする。

 美咲が無言で眼鏡ケースを拾い、俺に渡してくる。

 俺は渡された眼鏡ケースをパカッと開けて、眼鏡を取り出し、慣れた手つきでスチャッとかけて美咲の方を向き――。



「どうだ、インテリに見えるだろう?」



 そう眼鏡をクイッと押し上げ、決め顔で言ってやった。



以上、朝起きて、眼鏡かけて、優斗君が決め顔をした第二話でした!(話全然進まねぇ……)


次話は、美咲ちゃんと弁当作って、”ある人”と学校へ登校すると思います。



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(これ書いとくと、いっぱいポイントがもらえるってばっちゃんが言ってた。

 ……え? 迷信? あ、そうですか)

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