彼はお茶が好きだった
非恋の短編です。
実力不足ではありますが暖かい目でお守りください。
「…寒っ かったあー」
バタン
気温が急に下がり始めた夜。仕事を終えて帰って来た私は家のドアを開け、一息つく。
この家に帰った。と感じられるこの瞬間が結構好きだ。
暖かい…とはいえ、それは周りの温度であってまだ体温はあがってないので手先が冷たい。
「…帰ったよ ただいま」
手洗い、うがいをすませると私は言う。
「外は寒かったよ お茶淹れるね」
彼はお茶が好きだった。
そんな落ち着いた彼が私は好きだ。
お湯を沸かしている間、物思いにふける。
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「お待たせいたしました。ご注文のほうお伺いします」
若いカフェの店員さんが注文をとる。
「えーと…じゃあ、キャラメルマキアートで …佐久は?」
「お茶が飲みたいです」
「「えっ?」」
店員さんと私は同時に声をあげる。
「あっ…えっと…」
戸惑う店員さんに私はフォローする。
「ちょっと佐久、このお店は甘いものカフェだよ? お茶は置いてないよ」
「お茶が…飲みたい」
「あーもー分かったから。後でコンビニよるから。すいません、カフェオレ1つで」
「かしこまりました。キャラメルマキアート1つとカフェオレ1つですね」
「はい お願いします」
店員さんがカウンターへと戻る。
「もー どうしたの?」
「ごめん。でも急にお茶が飲みたくなって」
「カフェオレも美味しいから…我慢して?」
「おう」
このお茶好きは 緑 佐久。(26)私の彼氏だ。
私は 湯ヶ谷 真希。(26)言いにくいけど佐久の彼女です。
同じ大学で大学時代からつきあってる。職場は違うけどこうやってたまに2人で休日を過ごすのが楽しみで、仕事も毎日頑張れる。
その後小1時間ほど話した後、店を出る。
「コンビニは?」
「…カフェオレ飲んだのにやっぱまだ飲むのね」
ま、いっか。そう思い近くのコンビニへと足を運ぶ。
佐久はコンビニで暖かい緑茶を買い、外へ出た。
「ふー、次はどこ行こうか?」
私がそう問いかけたその瞬間。
「…真希っ!」
そう叫んでいきなり正面から抱きつくようにして覆いかぶさってくる佐久。
「どうしっ…!!」
事が理解できた時にはもう遅かった。
最後に見えたのは佐久の後ろの車。
私は車にはねられた衝撃で気を失った。
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気がついたら泣いていた。
思い出すたびに涙が出るな。それもそうか。
あの事故からまだ1ヶ月。
突っ込んで来た車は飲酒運転だったそうな。
私をかばった佐久は死んだ。
目が覚めたとき、病院で手渡されたのは1本の未開封のペットボトル。
中にはもう冷めていたけど緑茶が入っていた。
あのとき、佐久が買ったものだ。
私は気を失ってから1日で目が覚めた。
私は。
佐久は…いない。 もう、このお茶を美味しそうに飲む彼はいない。
その事実を受け入れられなかった私はしばらく食欲がでなかった。
それでもまた普通に生活し始めた私は、それまでと1つ、変わったことがある。
毎日お茶を飲むこと。
これが当たり前の人も日本には沢山いるんだろうけれど。
私にとっては特別なお茶。
彼はお茶が好きだった。
おいしい…おいしいよ。佐久。
お読みいただきありがとうございました。
文章能力の低さを実感します