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REAL PHANTOM  作者: 十時 隠
九月の春風
3/4

向日葵と陰 2

ひと月もの期間空いて申し訳ありません。

何とか時間を作って更新していきたいので、よろしくです。

「どこで誰に、どうして殴られた?」


真島の状態に、冷静さを欠かした僕は質問で詰めた。


真島が喧嘩をするようには思えない。

元々人と話す事は好んですることないから、人と接することも無ければ争いの火種も生まれないだろう。


要点を聞き出そうと声を掛けるが、話す気力が残ってないのか僕が望むように返事を貰えない。


廊下の正規扉が開いた。


「あ、蝿野くんお早う、真島くんは大丈夫?」


保健室の富川先生が帰ってきた。

ひどく腫れ上がった真島のことを心配している。


「はい、恐らく。」


今しがた事態を知った僕は、辻褄合わせの返事しか出来なかった。


「蝿野、ここに居たのか。」


富川先生に続いて、扉の方から保健室に轟く芯の強い男声に、一瞬心臓が飛び跳ねた。


こちらを見据える熱い眼差しの佐藤先生、僕のクラスの担任だ。


佐藤先生は僕の返答を待つ間もなく、真島の方へと駆け寄った。


「大丈夫か、真島。」


しゃがみ込んで真島の状態を確認する。


「早く病院に連れていきましょう。」


佐藤先生は急かすように、富川先生にそう煽るが、慌てる佐藤先生を制しながら現状を確認し合う。


「あの...。」


二人で言葉を交わしている間に割入って、真島が何故こんな目に遭っているのかとにもかくにも聞き出したい。


「真島くんのこと、何か知らない?」


思わず表情を顰めた。

僕が言いたい台詞を形そのままぶつけられた。


「僕がそれを聞きたいのですが。」


富川先生に当たるようで申し訳ないが、思いの内をそのまま吐いてぶつける。


先生は机の上に置いてあったバインダーを手に取ると、表に挟んだ1枚の紙に目を通す。


「朝、まだ生徒のほとんどが登校していない早い時間帯に、自分の教室前の廊下で倒れていたのよね。

同じ階の教室に居る人達に聞いても理由が分からないみたいで、原因が掴めなくて。

意識がはっきりしている時に聞いた話だと、『 誰かに殴られた』ってことなんだけど...。」


殴られたのは見て明らかだ。

校内での単なる転倒事故なんかじゃ、ここまでひどい怪我を負えるわけがない。


それより、殴った人間が未だ校内に居る可能性があるというのに、ここで呑気に突っ立っている佐藤先生に苛立ちが込み上がってくる。

富川先生の直ぐ後を追ってきたということは、真島の容態を見守る人がしっかり居るのを確認できている。

自身は今すぐにでも犯人を探して、説教なりなんなりするべきでは。


僕達のやり取りをじっと見つめる佐藤先生に、勇気を持って視線をぶつける。


「どうした蝿野。」


表情ひとつ変えず、僕の内心に気付く訳もなくただ一言そう放った。


お前に期待した僕が愚かだったよ。


殴った犯人も分からなければ、殴った理由も分からない。

ただの好奇心や、陰で地味に生きる僕達を狙った根暗狩りであるなら許せない。


身体が跳ねた。


裏口に置いてある靴を回収すると、真島のアルバムの入ったバッグを引っ提げ、正規扉から廊下へ駆け出して行った。




教室に向かう途中、誰ひとりとしてすれ違う事は無かった。

時間でいえば、二時限目が始まっている辺りなので当たり前ではあるが、僕としては非常に動きやすい。


階段を幾度か上り、踊り場を上がった階段の隅から僕の教室を見張る位置にぴったり着けた。


教室では、佐藤先生不在の中、クラスメイトの1人が教壇に立って皆に話をしている。

他のクラスメイトも真剣に聞いているようだが、中の音は一切漏れてこない為、内容が掴めない。


一番辛いのが、教壇に居るクラスメイトの名前が分からない事。

真島と藤以外とは何一つ交流を持たないので、情報が皆無なのだ。


『俺が真島を殴った事は内緒だぞ。』

もしそんな話を口封じとしてクラスメイト全員にしていたら、犯人探しが一気に困難になる。

しかし、今教室に入ると間違いなく注目を浴びる。

佐藤先生が戻ってくることに微塵ながらの期待もあるが、それはすぐに選択肢から排除した。


どうにも動けない膠着した状況、それをサイレンが強引に掻き破った。


救急車だ。


音は次第に大きくなって、この校舎に向かってきている。


その時、教室に居るクラスメイトが一斉に窓側へ傾いて行った。


救急車は僕が利用した裏道ではなく、正面を切って校庭に入り込んできたらしい。

校舎全体にサイレンを浴びせる救急車見たさに、全員が窓にへばりつく様に詰め寄っている。


チャンスでしかない。

ガランとした廊下側、クラスメイトは全員後頭部しか見えない。

意を決し、竦む足に一層力を込めて、階段の隅から教室に向かって身を放り出す勢いでダッシュした。


廊下を駆ける足音も、扉の開閉音も、人命救助に走る救急車のサイレンに比べたら無音同然。


息は大変荒いだが、難なくして僕は自分の席に着くことに成功した。




緊張が解けてくると、群衆の会話に耳を傾ける余裕が出てきた。


「さっき廊下で倒れていたデブ?」

「うん...そうなんだけどね。」


女子の声で鋭い言葉が刺さってくる。

〝廊下で倒れていたデブ〟これは正しく真島のことだ。


僕と同類で影の薄い存在で、ただ名前が分からない故の呼称なのか、はたまた侮辱的な意味合いのデブ呼びなのか。

僕が察することは敵わないが、どちらにせよ僕も含めたあらゆる影組は、クラスの普遍な生徒から見ると豚以下の扱いでしかないのだろう。

悲しいが、いじめが無くならない事の裏付けであり、事実だ。



救急車が校舎前に停車、サイレンの音が止むと窓に張り付いていたクラスメイトがぞろぞろ自分の席に戻り始めた。

案の定、誰ひとりとして僕に声を掛ける人は居なかった。

こればかりは、我ながらの溶け込み具合だ。


それは日常のことなので特に改善しようとは考えないが、それより今は〝デブ〟と発言した人を特定しないといけない。


救急車の到着で、真島が一案に浮かぶということはそいつが何かしらの情報を握っている可能性が濃厚。


だがこの様に、クラスメイトと接する機会を持てない僕が発言者を特定するのは至難の業だ。


無駄を承知で、発言者の声が再度耳に入ることを狙って聴覚だけを集中させた。



目の前に女子が着席、この人の可能性も無いとは言えない。

視線を張りすぎない様に、俯き気味に見遣る。

同時に、僕の肩にどん、と衝撃が走った。


「あ、ごめんなさい。」


不意の出来事に、ぶつかってきた方向へ咄嗟に体を向け直した。


目の前に女子が居た。

ごめんなさいの声はどうやら僕に宛てられた謝罪の言葉の様だ。


「...。」


何よりも人と会話をするのが苦手な僕は、返事すらままならない、ましてや女子との会話なんて。


「ご、ごめんね。」


無反応な僕にもう一度、ぺこりと頭を下げて丁寧に謝り直すとその女子生徒は、目の前着席したばかりの子の隣に着席した。


やっと治まりだした心臓が再び跳ね出した。

世間では些細な出来事であることは分かってる、本場のイケメンなら今の出来事も恋の発端に塗り替えるのかも。


しかしどうにも僕には...。


いやいやもういい、余計な事は考えるな。

犯人探しに集中しろ。

何なら今の女子を疑ってかかるのも良い。

ああやって廊下で真島とぶつかった拍子に、チンピラよろしくメンチ切ってボコボコにした...。

なきにしもあらずか。


脳内激しく巡る推理。

その時、教室の扉が開いた。


「遅くなってすまん、皆、今から体育館に集まってくれ。」


開いた扉の向こう、佐藤先生が教室に半身を入れたまま、僕達に向かって端的に告げた。


クラスメイトからは不満の声。


先生はそれを纏めて抑えるように、再度集合の号令を掛ける。

渋々教室を出ていくクラスメイトを見送る。

目の前先程の女子たちは、背中しか見えないが何やら小声で話している様子。


「...。」


この2人か...?

気になるが、話の内容はこちらまで届かない。


仕方なく僕も立ち上がると、女子達を尻目に教室を後にした。



このタイミングでの集会は、間違いなくその件についてだ。

始業式は既に済ませてしまっているし、全校生徒への連絡事項ならその時に行っているはず。

僕が動くまでもなく、これで犯人が特定できると吉である。



体育館に着くと、僕らより早く到着した他の生徒達がざわつきながら整列を始めていた。

普段以上に話し声が飛び交う体育館内。

救急車の音が響き、体育館への集合が掛けられる一連の流れが、生徒達の野次馬精神を刺激しているのか。


そんな生徒たちを、列の先頭に立って静かにさせようと各クラスの担任が声を挙げている。

佐藤先生はまだ教室から来れていない。

もしかしたら、あの女子から話を聞いているのか。

やはり気になるところはそこだ。


それが実際に繰り広げられているのか定かではないが、今現実にある、僕自身にふりかかる問題がひとつある。


クラスメイトの顔を知らず、真島も担任も居ない今、自分のクラスの列に並ぶことさえ僕には行えない。

このままだと間違いなく、ひとりだけ立ち往生したまま恥ずかしい思いをすることに。

せめて藤を探して自分のクラスまで案内して欲しいが、生徒の集合体の中から、あの低身長を探し出す事は難関。


入口付近で身を悶えさせていると、後方から体をどつかれた。

何とか手を付いて派手な転倒を避けた...、教室での接触といい、今日は過去にないほど周囲から存在を認知されていない気がする。

それとも意図的に僕を突き飛ばしたのか。


立ち上がって後方を確認すると、思わず声が出た。


「あっ。」

「あ。」


ぶつかってきた相手も驚いた。

それは他でもない、教室の時と同一人物、あの女子生徒だった。


「...わざとじゃないの。」


向こうも流石に気付いたか、謝る前に二度もぶつかった理由を弁解してきた。


これには僕も答えようという意思が働いた。

別に気にしなくていい、と、それだけ伝えたかった。


平面ではない立体の女子と、面と向かって話すのは何時ぶりだろうか。


決死の思いで視線を合わせ、顔をしっかり見合わせて言葉を紡ごうとした瞬間、それをすぐに飲み込み直した。



この人、真島の写真に写ってたあの...。



整った小顔にニキビの無い透き通った白い肌、エンジェルリングのあるショートボブ、はっきりと覚えた一枚の写真の中の人物、その人物と全く同じだ。


「笑美早く行こ、...何かごめん、じゃあね。」


思わぬ遭遇にあたふたしていると、別の女子がその子に声を掛け、ついでに僕への謝罪を代弁してくれた。


言葉を返そうにも思い当たらず、2人はさっさと自分のクラスの列に紛れて行った。



真島の写真で気になっていた女の子。

まさか、まさか同じ学校で尚且つクラスメイトだとは思わなかった。

更に僕は、その女の子と二度も接触をした、...いや、接触を果たしてしまった。

思い返せば、あの柔らかさはもしかして...。


ギャルゲーよろしい妄想を繰り広げている最中、


「蝿野、そんなとこで突っ立ってるなよ、早く並べ。」


現実に引き戻したのは佐藤先生の声だった。

気が付くと、さっきまで騒いていた生徒達の声はどこへやら、全ての生徒が整列を完了させていた。


その中で突っ立っている僕。


最高に大嫌いな状況だ。

目の前のハニートラップに気を良くし過ぎたか、冷静な思考を取り戻した僕は、佐藤先生の指示に従い収まるべき位置に腰を下ろした。


しかし参った。


僕の脳内は真島の犯人探しから、彼女の事へとすっかり変換されてしまっていた。



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