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REAL PHANTOM  作者: 十時 隠
九月の春風
1/4

チームNTL

久方の投稿で御座います。 ブランクがあるため、拙い文章とストーリー展開になりますが 何卒のご了承と、ご鞭撻を頂けると幸いです。

「こんにちはぁ、翔くん居ますかぁ。」


玄関先から、聞き馴染みのある間の抜けた声が僕の名前を呼ぶ。

二階に居る僕の代わりに母親が対応してくれた。


「あら真島くん、翔なら夏休みの課題の最中だけど…」

「あぁー、僕も一緒に夏休みの課題をしに来たんですぅ。」

「あらあら、うちの翔のためにわざわざありがとうね、さ、入って。」


母親に通された真島の足音が近付いてくる。

新築の家をギシギシ言わせる奴の体重は計り知れない。


「おっすぅかけるぅ、持って来たよぅ。」


部屋の扉が開くと、額を中心に顔面に汗を蓄えた真島が居た。

僕が返事をする間もなく、巨体を器用に捻りながら入室してくる。

ただでさえ物の密集した僕の部屋に、汗まみれの巨漢が加わると、軽い蒸し風呂となるが、中学来の付き合い、今更気にすることはない。


真島が、座るためのテリトリーを確保して腰を落ち着かせると同時に開きっぱなしの扉からまた別の声がした。


「お邪魔するよ。」


真島と対照的に、電柱にすっぽり隠れられる細身低身長の藤だった。

体型は僕とそっくりで、口数が少なく、所謂(いわゆる)コミュ症である点は三人の共通点。


三人が部屋の円卓を囲う形で座った所で、真島が開口。


「えぇー、八月三十一日、蝿野(はいの)家にて、チームNTLの会合を始めますぅ。」


取って付けた台詞で開会宣言が成された。


チームNTL(Nothing To Lose)、高校一年の時に決めた僕達のチーム名。

カッコつけの様に聞こえても、意味は「何も失うものが無い」。

当時、入学当初から既にクラスに馴染めなかった僕と真島、隣のクラスで愚連隊にいじめを受けていた藤の三人で結成した心の拠り所だ。

時間が合う時にこうやって集まって、会合を開くのが恒例となっている。

会合で行う事は只ひとつ...。


双子よろしく同じ動きでリュックを漁る真島と藤。

先に真島が取り出したのは、辞書と見間違う程の厚さを誇るアルバム。

鼻息荒げ、それを僕に差し出した。


「今年の夏はぁ、ビーチが大当たりぃぃ。」


何処が自信有り気な真島からアルバムを受け取り、中を確認。

夏の太陽に照らされた柔肌、その太陽に劣らない明るい笑顔を振りまく女子の姿。

そこには、思う存分夏を満喫している、ビキニ姿の女子の写真がずらりと貼り廻らされていた。


「...素晴らしい。」


無意識に、僕の口から極上の褒め言葉が漏れた。

夏休み中、家に引き篭もって別次元の金髪幼女とよろしくしていた僕には、あまりにも刺激が強過ぎるのだ。


真島はこの夏、大量の写真を取り揃えていた。

これが僕達の、チームNTLの会合内容だ。


世間一般ではこの行為は強く批難される、だがチームNTLには咎める者は誰も居ない。

寧ろ、幸せを得るために本能的に行う自己慈善の行動だ。

ビーチで楽しく遊ぶ一方で、僕達だけ部屋に篭って太陽の光を浴びられないのは不平等。

リア充と非リア、その振り分けが存在する世界が既に不平等なんだ。


余り有るリア充を僕達にも分け得るため、その様子を写真に収めて鑑賞する。

真っ当な幸福行動、世界を平等にする行動を僕達は心の底から楽しんでいる。


「モレはぁ、この写真がお気に入りぃぃ。」


推しを伝えようと興奮するあまり、舌足らずの饒舌な真島は、厚いアルバムの最後尾のページを開くと、その中の一枚を指さした。


太陽に照らされた絹肌に、ショートボブの黒髪、勿論視線は外れているが僅かに捉えた写真でも分かる澄んだ瞳。


とても美人だ。

絵に描いたような、正しく二次元に居てもおかしくない美形だ。


「もぉかけるぅ。」


穴をあけんと食い気味で眺めていると、真島が吐息混じりに僕の名前を囁き、そそくさとアルバムを閉じて我が子のように抱き締めた。


「翔、僕も持って来た。」


真島のアピールがひと段落ついた所で、後手となった藤が割って入ると、藤も一冊のアルバムを円卓に出した。

真島と違い、手帳サイズのアルバムに、小判サイズの写真が一ページにつきひとつずつ貼られている。


被写体も、真島のビキニ一本と一線を引いた様に、教室に居る制服女子、体育館の体操服女子、はたまた街中の私服女子と撮り分け、ジャンル毎に小分けにされているようだ。


「ふむふむぅ、藤の収穫もなかなかですなぁ。」


僕が見終えた藤のアルバムを、両手で支える形で持ち、頻りに角度を変えて吟味している。


「生肌。」


ぽつりと一言呟いた後、正しく目まぐるしい速度で目線をあちらこちらに配り、ビキニ女子を嗜む藤。


そんな二人を僕は眺めていた。


「あれぇ、かけるくんはぁ?」


突然、ピタリと静止した真島が会合の核心を突く問い掛けをしてきた。

声に合わせて藤も僕を見てくる。


「ごめん、今年は収穫無しだ。」


その瞬間、二人の動きが固まった。

それもそのはずだ。


去年のこの日、チームNTLは全く同じ陣形を敷き、会合を開いた。

心無しか、若干痩せていた真島はビーチに、藤は勉強という名目で夏休みも学校に赴き、制服女子や部活中の女子を撮った。

僕もチームNTLの一員として被写体探索に行こうと、夏休み前から奮起していたが、ゲームをする時間が愛しく、外出自体が億劫となっていた。


だから仕方なく、姉を撮ったのだ。

それはそれは、同じ屋根の下、弟という家族にしか撮る事ができない、極上の写真を提供した。

姉が居なくても、タンスの下着で事が済む。


極上の品々を堪能した真島と藤からは当然好評を頂いた訳で、来年もまた用意すると約束していた。


「結婚したらしい。実家を出て、愛の巣に住まいを移した。」


二人が理由を尋ねてくるより早く、端的に説明した。


「結婚、愛の巣。」


オウム返しをする藤。

未だ開いた口が塞がらない真島。


結婚、愛の巣、僕達の耳を溶かす勢いで流れ込む幸福の言葉。


落胆する三人に追い討ちをするように、開いた窓から乾いた風が吹き込み、二つのアルバムをパラパラ捲って去っていった。


「ただ、手ぶらでは無い。」


肩を落としっ放しの二人にそう告げると、表に出していなかったリュックを円卓に乗せ上げ、中から三枚のTシャツを取り出した。

大手メーカーが新商品を発表する時と同じ心境だ。

二人の注目が刺さる中、Tシャツをひとつ広げてみせる。


「僕達がチームである証拠だ。」


写真に匹敵するか定かではないが、二人を喜ばせようと用意した手作りTシャツ。


リア充に対する怒りと妬みを表した赤色の下地に、刺々しいフォントで書かれたNothing To Loseの文字。

根暗な性格上、感情を容易く表に出せない僕達の最低限の抵抗。


残り二つも開封し、手渡して見せると、二人は無言のまま自身に宛がってみた。


「チームNTL。」


NTLの文字を撫ぜる。


「...格好いいよぉ。」


真島の表情が、みるみるうちに活力に溢れてきた。


「チーム、エヌティエルゥ!」


相変わらず語尾が抜けているが、すくっと立ち上がった真島は正面を見つめ、戦隊ヒーロー宛らの迫力でポージングをとった。


藤はTシャツを見るや、リュックの奥に手を突っ込むと、ステッカーを引っ張りだしてTシャツの肩口に貼っつけ、そのまま袖を通した。


「フフフ。」


肩口を見ると、藤の大好きなスナイパーライフルのステッカーが赤色の下地に映える。

表情には出さないが、不敵な笑い声が喜びを表している。


どうやら両者共、お気に召した様だ。


「似合ってるぞ。」


僕も袖を通して、三人見合わせてみる。

性格は根暗で、女っ気の無い男三人が同じTシャツを着て見つめあっている。


「みんな仲間だねぇ。」


夏休みなのに、どこにも行かずに引き篭もっていた。


「これでいい。」


世間視点では見苦しい絵面。

それでも今は、心から楽しいし幸せだと思う。


「チームNTL!」


それぞれを鼓舞するように、柄にもない大声でチーム名を叫んだ。


「しまった、課題を忘れていた!」


一致団結した勢いで、演技染みた台詞を吐いた。


「いいよぉ、三人で逃げてみよぉ。」


流石は真島、解き終えるのではなく、敢えて逃げ道を選択する。


「最悪、教科担当を射殺。」


続けてシューティングポーズをとりつつ、藤が乗ってきた。


思わず皆で爆笑した。

夏休みで一番笑ってたかも知れない。

彼女も居ない、友達も二人だけ、それでも良いんだ。

学校は戦場だけど、チームNTL、何てことないさ。


「あ、新しいゲーム買ったんだ、夏休み最後に三人でやろう。」


浮かんだ笑みをすっと引かせると、課題を放棄してゲームに励んだ。

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