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「助けて」

「サテュ……お前はどこだ? どこにいるんだ……」


 スミレたちにルクス銅貨を渡し、件のメイド長を探してもらう。

 俺はそのメイド長のことは名前しかしらないからな……もし俺がルクス硬貨でメイド長の居場所を探したらそのメイド長の詳しい情報量も要求されて、必要なルクス硬貨の数が増すかもしれない。

 ならば、姿も、顔も前から知っているスミレたちが適任だろう。


「……わかった」

「ローゼか、どうだった?」

「サテュは……今、廃旅館にいるって……」


 廃旅館?

 経営難で潰れてしまったのだろうか?


「そういえば……町外れに今はもうやっていない廃旅館がありますニャ」

「それ……本当?」

「はいですニャ、廃旅館といえばそこぐらいなものですニャ、ただ……」


 ただ?

 なにか問題でもあるのだろうか?


「最近、「誰か助けて……」とか「ここから出して……」とか助けを求める声が聞こえるとか言われていましてニャ……完全にホラースポットですニャ……皆、気味悪がって近づきもしませんニャ……しかも面白がって肝試しに行こうとしたお客様もなぜかその廃旅館に辿りつけない状態で……」

「ゆ、幽霊……?」


 助けを求める声に、辿りつけない廃墟……

 なんだか、きな臭いぞ。


 もしかしたら……! 

 わざとそんな声を出す装置かなにかを使って、人払いをしているのでは?


「それって……スローズさん、その廃旅館の場所って分かりますか?」

「ああ、もちろん分かる……が、本当に行くのか? 私は、その行きたくないんだが……」


 ……よく見るとスローズの体が震えている。

 おいおい、警備隊がこれで大丈夫のかよ。


「行く、行かなきゃ……スローズ、案内よろしくね……?」

「お、お嬢様……分かりました、では……お前たち『赤角』を医務室へ……」

「いや、もう大丈夫だ、医務室へ戻る必要はない」


 部下に指示を出すスローズ。

 だが、自分は大丈夫だと言わんばかりに『赤角』が立ち上がる。


「『赤角』……あなた、大丈夫なの……?」

「問題ありませんよ、領主様……それに、これはもしかしたらあの蛇の置き土産かもしれない以上……放っておくわけには……!」


 置き土産?

 おいおい、あの蛇男まだなんか残していたのか?




「あの男は……私とモンスターをよく戦い合わせていた」


 空を飛ぶスローズの案内のもと……廃旅館へと向かう俺たち。

 ちなみに俺はモンスターと戦闘する可能性を考え、浴衣の上から鎧を纏っている。


 道は舗装されてはいるが……何年も歩かれ、使われていないのか、雑草が生えてしまっている。


「そうだったの?」


 浴衣から普段着に着替えていたレモンが尋ねる。

 流石に浴衣のまま出歩くわけには行かなかったので仕方ない。


 ……もう少しレモンたちの浴衣姿を見ていたかったのだが、残念だ。


「ああ、あの男は私と戦わせることで、自分の作ったモンスターの調整をしていたようだ……」

「なるほど……でもなんでモンスターと戦っていたの?」

「最初、あいつと会ったとき確かこう言っていた……「封印されてるはずのモンスターを見かけたんです! 僕にはあんな化け物倒せません……元チャンピオンのあなたの力が必要なんです! お願いします!」とな」


 見かけたって。

 大方、自分で作ったモンスターだろうに……!


「最初は断ったが……いざ実際にモンスターが町へと近づいてくる様子を見ると、無視するわけには行かなくなった」


 それは……そうだろうな。

 当然だ。


「モンスター自体はそこまで強いものではなかったから、倒すこと自体は難しくなかった……最初はな」

「最初は? それって……?」

「何度もモンスターが現れるようになり、そのたびに私はモンスターと戦っていたわけだが……徐々に出てくるモンスターが強くなっていったんだ、大きさはもちろん、扱う能力のバリエーションも増えたし、数そのものが多いときもあった」


 『赤角』と自分が作ったモンスターを戦わせて、制作したモンスターの調整をしていたのか。

 そして、徐々に強くして……日本侵略用のモンスターを……


「段々、戦いが厳しくなってきていた、もう限界だ……そう私は言った、するとヤツは……「いえ、あなたの力はそんなものではないでしょう? いいものがあるんですよォ……」そう言ってルクス硬貨を差し出した……私は、力に溺れた……あの男の言葉に惑わされたんだ……あの女より、現チャンピオンより強く慣なれるかもしれない、そう、言われたら……!」


 あいつは確か……「最悪理性を失うことになると分かりながらも実際に使ったのは……この『赤角』本人だ」、そう言っていた。

 そういうことだったのか。


「すまなかった……はは、もうチャンピオンの座への未練は断ち切ったとばかり思っていたのだがな……」

「もう、終わったことですし、『赤角』さんが気にする必要はないと思いますよ」


 そう、終わったことだ。

 蛇男は捕まえたし、『赤角』も捕まえられた。

 それでいいじゃないか。


「……すまないな」




 道を歩いていくと……町外れの廃旅館が見えてきた。

 なんだか……寂れた場所。

 あと少し歩けば辿りつけそうだ。


「……アレ? なんかおかしくない?」

「おかしいな……」


 歩けども、歩けども廃旅館に近付けない。

 見た感じ、走ればすぐに着く距離のはずなのに……!


「……やはり、ここは呪われているんだ……違いない……お嬢様! か、帰りましょう!」


 空から降りてきたスローズはすっかり怯えている。

 歩いても駄目、空からも近付けない……どうすればいいんだ?


「スローズ! 怖がっている場合!?」

「いや、そうですけど……だってここは経営者家族が心中したっていう呪われた旅館なんですよ!」


 なにそれ……厄すぎない?


「それにほら! 声が……!」

「声……?」


 耳を澄ましてみると……


「助けて……ここから、出し……誰か……」


 ……確かに聞こえる。


「やっぱり……呪いだぁ! アワワワ……」



 現在のルクス硬貨はルクス金貨十一枚、小ルクス金貨五枚、ルクス銅貨三枚、小ルクス銅貨五枚。

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