「呼んだか?」
アオとの修行は思った以上にハードだった。
確か……【剣の持ち方すら知らないんですか……所有者は】とか、【アプリケーション「オートパイロット」での動きはいつも見てますよね? その目は節穴ですか?】とか、【また少し猫背になっていますよ! ここで猫背になるということは現実でも同じように猫背になっているということです! 姿勢は正しくする!】とか……
アレ?
なんか剣術以外のことで怒られることの方がが多かった気がするぞ?
それに……昼も夜もない、ただ青いだけの空間でひたすら剣を振るう……というのは精神的にもなかなか堪えた。
……スミレたちに会いたいなぁ。
で、長いような短いような不思議な修行をしていると……
【今日はこのくらいにしましょう、体感で一ヶ月分は剣術稽古をしましたし】
「そんなにしてたのか……ん!? ってことはそれなりに形にはなったのか!?」
今まではまるで駄目、ど素人という評価だった。
もしかしたら……!
【はい? そんなわけないじゃないですか、基本のキがなんとか出来るようになった程度ですよ】
「き、厳しい……」
厳しいな、俺の剣の師匠は。
まぁ最初に【厳しく行きますからね! ビシバシと!】って言っていたしな。
【さて、これくらいにして現実に戻りますよ】
そんな感じで現実に戻ってきたわけだ。
体感で一ヶ月……らしいけど、一瞬で終わったような気もするから不思議。
まぁ実際に経過した時間ではそうなんだけどね。
「で、俺考えているんだ、もっと強くなるにはどうしたらいいんだろう? ってさ」
「……今は剣術一本に絞ったほうがいいんじゃないか?」
確かに、本来ならその方がいいんだろう。
二足のわらじなんてするべきではない。
だが。
「自分でもそう思う、けど……足りないんだ」
「足りない?」
「ああ、足りない、だって……アオから剣術を完璧に覚えたとしても、それだけじゃあオートパイロットなしで戦えるようになっただけで……チャンピオンを一方的に倒せるほど強くなれたわけじゃないし」
あくまで、最低ラインの実力を得ただけになりかねない。
それだけじゃあ、とてもじゃないが……足りない。
【徒手空拳】……素手での戦いのためのスキルもある。
【時間操作】、【瞬間移動】、【光力戦闘術3】、【光力具現化術】……などの様々なスキルがあるが。
しかし、それらを覚えたとしても……勝てるだろうか。
……駄目だ。
勝利するイメージが全く浮かばない。
それほどまでに……チャンピオンが俺に与えた衝撃は大きい。
「レン……」
「多分、アオから得られる力だけじゃあ、足りないんだ……アオ以外の方法で強くなる方法を考えないと……」
ルクス硬貨?
いや駄目だ。
『赤角』のように理性を失うことになる。
どうすれば……
「あのぅ……ちょっといいですかニャ?」
「む、女将か……どうしたんだ?」
声をかけられたので振り返ってみると、三毛猫のような猫の魔族がいた。
どうやら、この温泉旅館の女将らしい。
でも、この温泉街って……どうにも和風チックなんだよな。
いま着ているのだって浴衣だし、旅館の作りも木造の古い格式ある旅館! って感じだし……
露天風呂だってそうだった。
……やっぱり、日本人の影響なのかな。
「いえ……なんだか強くなりたい、とのことでしたので……それならあの『赤角』様に師事するのはどうですかニャ? と思った次第ですニャ」
『赤角』に師事?
え、それは……あれ、案外悪くないんじゃないのか?
だって、あっさり倒せたとはいえ、元チャンピオンだろ?
ってことはなにか現チャンピオン……ルシャーティと戦ったことがあるはずだ。
ならば……一見無敵、最強に見えたし、そう感じた彼女にも……なにか弱点があるのかもしれない。
少なくとも、なにか知っている可能性がある。
ただ……
「今、『赤角』は……」
「呼んだか?」
アレ?
この声は……
「あ、あなたは『赤角』!? なぜここに……」
スミレが驚くのも無理は無い。
俺たちの後ろには……『赤角』がいたのだ。




