「ネハコ温泉組合」
温泉から上がった私たちは旅館の浴衣を来て、レンを待っていた。
……長い湯だな。
女である私たちより長いとは。
しかし……温泉とはやはりいいものだ。
疲れというものがしっかり取れる。
『私たちの場合よく肩がこるしねー』
『胸、大きいし、仕方ないと思う……』
まぁ……だからといって、肩のこりから開放される代わりに胸が小さくなる、というのは遠慮したいが。
それに、レンの視線が私たちの胸に……ということがままあるからな。
『大きくても肩がこるだけ……ってよく言ってたけど』
『……レンが喜んでくれるなら、大きくてよかった……と、思う……』
私たちの胸の大きさは母上に似たそうだから……そこは母上に感謝だな。
などと考えていたら、この旅館の女将が声をかけてきた。
三毛猫、という旅館の名前の通り白、黒、茶色毛並みの猫の魔族。
「うちの温泉はどうでしたかニャ?」
「ああ、最高だったぞ」
本当に素晴らしかった。
ネハコの湯は美人の湯……なんて呼ばれることもあるが。
『これでより美人になれたかなー?』
『……レン、喜んでくれるかな……?』
だといいのだがな。
「それは良かったですニャ! ……弟から話は聞いているニャ」
「そういえば……! そうだったな、冒険者ギルドのことなんだが……」
この旅館はソマリの実家だった。
そして、この女将もまた……ネハコ温泉組合、組合長であり……この町の町長の役割を兼任している。
「ネハコ温泉組合は冒険者ギルド発足に尽力いたしますニャ」
「よろしく頼む」
『これでネハコは大丈夫かな?』
『……温泉組合の人たちも協力的だし、上手く行きそう……』
そうだな、しかし……
奴らはなぜ……モンスターをそのままにしているんだ?
モンスターの封印を解いてニホンに送りつけ、侵略する……というのはわかる。
だが……
『なんで魔大陸にもモンスターが溢れているんだろうね?』
そこだ。
もしかして奴らは……
『……完全にモンスターを管理出来ていない?』
その可能性が高いな。
『……いや、管理する方法は多分ある……ヴェノネークはモンスターを操っていたし……でも確かあの時、ルクス硬貨を使ってモンスターを改造していた……モンスターの管理、改造、支配にはルクス硬貨が必須なの……?』
おい、ローゼ。
『光力は必要だけど、モンスターを倒せばルクス硬貨は得られる……でもそれってモンスターを倒す必要があるってことだし……もしかして誰かにモンスターを倒させるために魔大陸にモンスターを放った? でもなんのために……』
ローゼ!
『あっ! ご、ごめんね……?』
『んもーローゼすぐそうやって周りが見えなくなるー』
お前の悪いクセだぞ、ローゼ。
考えこんで思考の海に潜るのは構わないが、限度を知れ、限度を。
それに……お前の考えは私とレモンにも聞こえてくるんだ。
『そうだよ、前にローゼは半日近く考えこんでいたでしょ? ずーとブツブツ言っててうるさいんだから』
ああ、そうだ。
それに……私たちが考えていても、答えが出るようなものではないだろうしな。
今回のは、相手側じゃないと分からん。
考えて答えが出るならいいが……そうでもないのなら、止めてくれ。
『むぅ……でも何も考えないのは問題だと思うんだけど……!』
『ローゼは逆! 考え過ぎ! 偶には直感で動いてみたら?』
レモン……お前の直感はあてにならないだろう……
『うっ……あ、レンだ! レンが来たよ!』
こら話題を変えるな……ってレン!?
そこには……確かに私たちと同じように浴衣を着たレンが立っていた。
どうやら頭の中で話し込んでいたせいで、近づいていたことに気付かなかったらしい。
「お、スミレか……もう大丈夫なのか?」
「あ、ああ! しかしレン……長い湯だったな? なにかあったのか?」
「ああ…ことにちょっと修行をね……」
修行?
温泉でいったいどんな修行を……?
【私の中で修行をしていたんですよ】
【体感で一月分の剣術稽古をつけましたが……】
【まだまだですね、基本のキ、が形になった程度です】
そういえば……レンはアオの中に入れるんだったな。
なんでも、時間の流れない特殊な空間だそうだが……なるほど、そこで修行を。
ん?
なんで時間が流れない場所で修行してたのに、こんなに遅いんだ?
「いや実は……その後で温泉に入り直したら、のぼせて……」
【長く温泉に入り過ぎですよ!】
……なにをやっているんだか。
『本当だよね』
『でも、そういうところも、カワイイと思う……』
「しかし、なぜ修行を? いや、前から修行すると言っていたのは覚えているんだが……」
「いや、実はさ……」
ん?
なんだろうか。




