「ネハコの町へようこそ」
ネハコ。
魔大陸三大温泉郷の内の一つとも呼ばれる温泉街。
駅にあったアオが読み上げてくれた看板には「温泉郷、ネハコの町へようこそ」なんて書いてあるようだ。
ローゼとレモン曰く、名産品の温泉卵が絶品らしいが……
ま、そんなことは置いといて。
ネハコに到着した俺たちは、上空を飛んでいた警備隊に声をかけられた。
「アコお嬢様!」
「あ! スローズ兄ちゃん! こっち、こっち!」
スローズ、と呼ばれた魔族が空中でキレイに旋回し、俺たちの近くに降りてきた。
燕のような鳥の魔族だ。
天使のように背中から翼が生えているのではなく、腕が翼になっている。
……あれ、空を飛ぶのに便利なんだろうけど、日常生活では不便ではなかろうか。
手ないぞアレ。
「知り合いか? レモン」
「うん、昔よく一緒に遊んでくれたんだよね! えへへ、久しぶり!」
「……久しぶり、スローズ」
……幼馴染のようなものだろうか。
あれ、なんだろうモヤモヤする……この気持ちはもしかして……妬いているのか? 俺は。
「久しぶりです、アコお嬢様たち……で、なにかありましたか? レモンお嬢様」
「こいつ、私たちの屋敷を襲撃した犯人! だから捕まえて?」
「なんと!? アウカックさんから屋敷が襲撃されたという話はデンポーで聞いていましたが……こいつらがですか!」
ヴェノネーク家の男の顔を見るスローズ。
……悪人顔してるよな、こいつ。
気を失っているから目は閉じているけど……それを考慮しても悪人顔だ。
「おい、お前たち! こいつを牢屋へ!」
部下に指示を飛ばすと、翼がヒトの腕に変わった。
そういえば、スミレもダークインフェルノを使うとき、犬の手になっていた……あの翼もそういうことか。
いつでも自由に変えられるのね。
「ハッ!」
警備隊の一人が返事をした。
馬のような魔族と牛のような魔族がヴェノネーク家の男を運んでいく。
俺は鎖で縛っていたから、鎖を引っ張って移動させたけど……
ともかく、警備隊にヴェノネーク家の男――黒コートの身柄を引き渡した。
「『赤角』がモンスター化している?」
そして残ったのは元チャンピオン『赤角』。
『赤角』は未だに気を失っている。
マッドキマイラを倒した時の光力の余波を喰らったらしく、なんだか体が弱っているようにも見える。
「うん、伝説のルクス硬貨でモンスター化さられちゃったみたいだから……同じルクス硬貨で戻せると思うんだけどさ……」
ちらりと俺を見るレモン。
ま、今この場でルクス硬貨を持っているのは俺しかいないけどさ。
「いいさ、俺も人殺しにはなりたくないし……アオ、どれくらいで元に戻せる?」
【データのない始めての事態なのでなんとも言えませんが……ルクス硬貨で起こした変化はルクス硬貨でしか戻せませんから……恐らく小ルクス金貨一枚で元に戻るかと思われます、確証はありませんけど……】
まぁ足りなかったら足せばいいさ。
そう考え、レモンに小ルクス金貨を渡す。
それに、この『赤角』にも聞きたいことがあるしな……
ネハコの町を陸の孤島にするとあの黒コートは言っていた。
なにかがこの町で起こるのかもしれない。
じゃなきゃ、わざわざ線路の真ん中にマッドゴーレム=マザーを設置する必要はないからな。
もしかしたら……黒コートの近くにいた『赤角』なら、なにか起こるのか知っている可能性がある。
まぁ本人に聞けばすむ話だが……正直に話すとは思えないし。
「じゃ、レン借りるね……戻って『赤角』!」
レモンが握っていた小ルクス金貨が輝き、『赤角』に飛び込んだ。
すると……
「あれ? 小さくなってる?」
『赤角』が小さくなっていく。
いや、小さくなるというよりも、筋肉の量が減っていく、と言った方が正しいか。
筋骨隆々としていた牛の魔族、『赤角』は恐らく、本来の姿であろう――やせ細った赤い角を持つ中年のおじさんになっていた。
「間違いない、『赤角』だ……最近、なんだか様子がおかしかったが……レモンお嬢様、まさか?」
「うん、あの蛇の魔族がルクス硬貨でなにかしたみたいなんだよね」
「なんと……! お前たち、『赤角』を医務室へ運んでおけ! 弱っているようだからな……」
そう考えると、あいつどれだけ罪を重ねたんだ。
余罪がボロボロ出てきそうだ。




