鬼が出るか蛇が出るか
犬の魔族である運転手に無事モンスターの脅威は去ったことを伝える。
なんとなく、柴犬に似ている気がする魔族だ。
もちろん、スノーホワイトは装備し直した。
もう正体バレするわけにはいかない。
「そ、そうでアリマスか……うう、まさか魔導機関車の運転手になってモンスターに襲われると思わなかったでアリマス……」
「急にあの泥のモンスターは現れたのか?」
「はい、そうでアリマス、昨日同じ場所を走っていた時にはいなかったでアリマス」
あの黒コートはネハコを陸の孤島にするためと言っていたが……一体なんのために?
……嫌な予感がする。
(杞憂だといいけど……)
「実際行って見てみないことには分からないな……」
「それで……そちらの二人は?」
「モンスターに襲われていたんだがな……錯乱して暴れだしたから縛ってあるんだ、気にしないでくれ」
「はぁ、そうでアリマスか……」
さらっと嘘をつくスミレ。
女の子って嘘をつくの上手いよね……
凄いもっともらしい理由だ。
それに『赤角』が理性を失って暴れていたのは事実だしな。
一部しか嘘じゃない。
「ああ、そうそう、ネハコの町の警備隊に連絡しておいてくれないか? 彼らに用があるんだ」
「了解でアリマス、デンポーで連絡しておくでアリマス!」
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン……
無事、運転を再開した魔導機関車。
運転手曰く、この分なら一時間以内にネハコに到着するそうだ。
「そう言えば……こいつの正体って誰だ?」
黒コートの男と元チャンピオン『赤角』の二人は鎖で縛り、個室の端に転がしてるが……
一体、この黒コートの男はどの十二鬼将の家柄なのだろうか。
「そうだな、「姿隠しのコート」を脱がしてみるか」
今はコートを脱がしやすいよう、鎖で縛ってはいない……光の鎖は黒コートの男の周りをクネクネと揺れている。
俺の命令一つで直ぐに再度巻き付いて縛られるようにしているのだ。
スミレが深く被ったフードに手を伸ばす。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、一体どちらだ?
「……! やはり、ヴェノネーク家か」
鬼ではなく、蛇が出た。
全身に生えた鱗、人間よりではあるが蛇のような顔……
龍の魔族であった紅さんとは顔や体の作りが微妙に違う。
なにより……黒コートを全て脱がしたが翼がない。
紅さんの服には尻尾や翼用の穴があった。
対して、こいつの服には……尻尾用こそあるが、背中に翼はない。
間違いなく、蛇の魔族だろう。
「ヴェノネーク家?」
「十二鬼将にある家柄の一つで、蛇の一族だ……前にあったときも特徴的な喋り方をしていたから、もしや……と思っていたが」
「自信がなかった?」
「ああ、それもまた……この「姿隠しのコート」の力なんだろう」
俺も多分男だろう……と思っていたが、なんというか確証がなかった。
きっとそれと同じだろう。
「よし、鎖よ! 蛇男を縛れ!」
俺の命令でウネウネと動く光の鎖が蛇男が縛り上げる。
うむ、これでいいだろう。
「目が覚めたら、いろいろ聞き出さないと……こいつは確実にモンスターの封印や、私たちサーベラス家を襲撃したことについても、もっと知っているはずだからな……」
「さて、アオ! スキルツリーだ! 新しいスキルを覚えるか!」
「またスキルを覚えるのか?」
「まぁね」
黒コートの正体も分かったことだし、新しいスキルを覚える時間だ。
さっきは急いでいたからとりあえず【光力具現化術1】しか覚えなかったが……
本当はいろいろもっと覚えたいんだよな。
【はい、じゃあまたスキルツリーを表示しますね!】
【そぉい!】
スリーブモードから一気にメイン画面、スキルツリーの順に表示された。
一発で一気に表示してくれるのはありがたい。
さて、どれにしようかな。
【徒手空拳1】
【素手での戦いの熟練度を示すスキル。】
【このスキルは未取得です。】
この【徒手空拳1】は……要するにステゴロか。
剣で体の支えにしてドロップキックとか、ある程度は【剣術】の影響で使えてるけど……
本格的に剣なしで戦う可能性を考慮するならこれも覚えたほうがいいだろうか。
でもこれを覚えるってことは体を鍛えて俺自身が強くなるっていう当面の目標と食い違うんだよなぁ……
チートであっさり強くなってしまったから、現チャンピオン戦であのざまだったわけで……
そんな歪な強さからは卒業したいんだよね。
「他は……」
【旅人の心得】
【旅人たちの知恵を使えるようになるスキル。】
【星や太陽、月の位置から自分がいる大まかな場所と時間が分かるようになるスキル。】
【このスキルは未取得です。】
あくまで、大まかな場所なんだよな、これ……
精度がいまいち分からない以上、ゲームでよく見るあると便利だけど無くても別にまったく困らないスキルになりそうなんだよねぇ。
時計に関してはもう腕時計の時間は合わせてあるから、別に問題ないし。
レトリーの町に辿り着く前だったら使えたかもしれないけど……
今は、いいかなぁ……
「なぁ、スミレ、どんなスキルがいいと思う? あれ、スミレ?」
「…………」
俺の隣にいたスミレは……寝ている。
スゥスゥと可愛い寝息。
「ま、今日はいろいろあったしな」
疲れるのもしょうがないだろう。
【寝かせておきます?】
「……だな」
起こさないよう、小声で言い合う俺たち。
おやすみ、スミレ。




