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【土塊の母】

 鎧を纏い、ドタバタしている列車から降りることにする。

 車内はモンスターが出たということで、大騒ぎだ。


「今回は私たち以外の乗客もこの列車にいる……彼らも守ってくれ」

「言われなくとも、まとめて守るさ」


 俺たちがいるのは特別な乗客用の個室だ。

 そのためこの部屋に他の乗客はいないが……慌て、怯え、戸惑う声はしっかり聞こえる。


【行きましょうか、所有者(ユーザー)……緊急停車したということは魔導機関車では振りきれないモンスターである可能性が非常に高いと思われます】

「だろうな……さて、一応こっから先は人目があるから喋らないでおくか」


 俺は謎の聖光剣士サマだからな。

 うっかり喋って正体バレ……というのは避けたい。


【はい、防音機能もオンにしておきますね、では行きましょうか! あ、防音機能をオンにしても仮ユーザー登録をしているスミレさんたちには聞こえているので、安心してくださいね】

(そうなのか?)

「聞こえているぞ? 闘技場の時からな……」


 そうだったのか。

 ……アレ?

 俺、スミレたいが聞こえてないと思ってたからわりと恥ずかしいこと言ってしまっていたような。

 例えば……(俺はッ! ケルが見てるところで、負けたくないッ!)とか……

 よく見るとスミレの顔も赤い……


(い、行ってくる!)

「あ、ああ! 行ってこい! 私たちは他の乗客を避難させておく!」


 なんか恥ずかしさがこみ上げてきた。

 さっさと行こう、さっさと。




「ジェワ……」「ジェジェワァ!」「ジェーワ!」

(ッ! こいつら……! もう増えてやがる!)


 線路の先には……複数のマッドゴーレムが。

 クソ、もう分裂しているのかよ!


(それよりも、一番の問題は――!)


 フラフラとおぼつかない足取りで歩くマッドゴーレムたちの後ろには……巨大な粘土の塊のようなものが。

 粘土の塊からは腕や足が何本も飛び出しており、その腕と足がウニョウニョと蠢いている。

 ぶっちゃけキモイ。


 そんなこと思っていると、蠢いていた腕がポトリと落ちてきた。

 落ちた腕はイモムシのように這って進んでいる……

 キモイどころじゃない、下手なホラーより怖いぞこれ……


 這って進む腕の先には胴体のようなものが。

 よく見ると腕だけでなく足も胴体に向かってイモムシのように這って進んでいる。

 腕と足が胴体にたどり着くと……


「ジェワ……ジェジェ……ワ……!」


 一体のマッドゴーレムが完成した。

 なるほど……マッドゴーレムはアレからああやって生まれてくるのか……


(……アオ、アレはなんだ?)

【アレは……マッドゴーレム=マザーですね】

【見ての通りああやってマッドゴーレムを生産する存在です】

【マッドゴーレムがいたので近くにいるんじゃないかと思いましたが……】


 俺が倒したマッドゴーレムも、こいつから生まれたものだった……?

 しかし……なんで緊急停車したんだろうと思ったけどこういうことか。

 確かにあんなのがいたら緊急停車するよな。

 さてどうしたものか。


(正確なランクとかはどうなっている?)

【モンスター図鑑のマッドゴーレム=マザーのページを表示しつつ読み上げますね】

【マッドゴーレム=マザー】

【Aランク魔物】

【土塊の母】

【マッドゴーレムを生産する人造モンスター】

【生産するマッドゴーレムと同じく高い再生能力を持つがマザー自体が分裂することもなく、移動すらしない】

【ランクの区分はAだが実際にはBランクのマッドゴーレムの集合体といえる存在なので大きさによってドロップするルクス硬貨の量が変動する】

【……以上ですね、あの大きさなら小ルクス金貨五枚は落とすはずです】


 結構稼げそうじゃないか。

 でも単純計算でレッドストリクス五体分か……

 それくらい強いってことだよな。


 動かないのなら簡単に倒せそうだが……そんなわけないだろうし。


(動かないのなら、【シャイニングブレイク】で……)

「おやおやァ!? 伝説の聖光剣士サマじゃなーい! こんなに早く会えるだなんて、オレ様ついてるゥ!」


 ……誰だ?

 声のした方を見ると、不思議な模様が刻まれた黒いフード付きのコートを着た男がいた。

 フードを深く被っているからか、顔はよく分からない……

 声もなんだか、記憶に残りそうで残らない不思議な声をしている。

 そもそも、本当にこいつは男なんだろうか?

 不安になってきた。


「避難を終えた、ぞ……お前は!」


 乗客の避難誘導を終えたらしいスミレが怒りの声をあげた。

 知り合いや友人……そんな平和な関係ではなさそうだ。


(スミレ、誰だこいつは)

「こいつは……私たちの屋敷を襲ったヤツだ! あのコートは……間違いない!」


 ……ッ! 裏切り者の一人か!


「おいおい、勝手に犯人しないで欲しいぜェ? ま、その通りなんだけどな」


 先程までの軽そうな印象から一転、冷酷にそう言い放った。

 やはり、こいつが……!


「ケヒャ! サーベラス家の姫さんと伝説の聖光剣士サマ! オレ様ランキングの中で、今すぐに会って潰したいヤツランキングの一位と二位が同時のにここにいるじゃあ、あーりませかァ! やっぱりオレ様ついてるゥ!」


 潰したいヤツランキングね……

 こいつはいい、生存者を探すのなんかより手間が省けた。

 この黒コートから話を聞き出せばいい。


「潰したいヤツ、だと……! 貴様……!」

「おうおう、怖い怖いィ……けどなーおかしいよな? おかしいぜェ! オレ様がプレゼントしたあげたあの黒くてキュートな首輪はどうした? 姫さんよォ! アレはそうそう簡単には壊れないはずだァ!」

「すまないな、気に入らない贈り物はすぐに捨てる主義なんだ」


 正確にはルクス硬貨でケルを助けて欲しいと願ったら傷を治すついでに外れて消えていたんだが……

 助ける、という願いの中に俺は意図していなかったが呪い首輪の解呪も含まれていたようだ。


「……そうかやっぱりそこの聖光剣士がなんかやったのかァ、許せねェ、許されないぜェ! これはよォ! オレ様の完璧な計画をめちゃくちゃにしやがって……!」


 どうせろくでもない計画なんだろうな。

 スミレたちにあんな首輪をつけるようなヤツだ。

 センス悪いヤツの計画なんて聞きたくもない。


「このツケはしっかり払ってもらうぞォ! 犬っころォ!」

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