「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ、アコお嬢様」
「戻ったぞアウカック……凄いことになったな」
魔導機関車から降りて、レトリーの町に戻って来た俺たち。
また怪しいものを見るような目で見られるかと思ったのだが。
【お帰りなさいませ! アコお嬢様、聖光剣士様! ですか……なんですかこの手のひら返し】
駅にはそんな内容の横断幕があるそうだ。
……俺には謎の文字だからさっぱり分からない。
「この世界の文字が読めないのは結構辛いな……」
【魔大陸の識字率はかなり高いようですね……文字を読まなきゃいけない場面も出てくるでしょうし……私の方で読み上げますか?】
「頼む、全然分からんし……」
剣の稽古のついでに文字の勉強もしたほうがいいのかもしれない。
今まではアオが翻訳してくれていたが……いや、こういうのはルクス硬貨を使って一気に覚えたほうがいか?
戦闘とは関係のない技能は特に……時間の短縮にもなるし。
「これはどういうことだ? アウカック」
「いえ……闘技場での戦いがこの町の通信水晶にも映しだされましてね……ヨザキ様はすっかりヒーローですよ」
通信水晶?
テレビみたいなものだろうか。
「スミレ、通信水晶ってなんだ?」
「通信水晶か? 通信水晶は……なんと言えばいいんだ? 一応アレなんだが……」
スミレも上手く説明出来ないようだ。
そんなスミレが指差す先には……水晶玉が。
あれがそうなのか?
<冒険者ギルドでは冒険者をいつでも募集中!>
<闘技場を超える熱き戦いと莫大な報酬が君を待つ!>
商人ギルドが用意した冒険者ギルドの広告が放送されている……
やはりテレビか。
「アレに俺とチャンピオンの戦いが放送されていたのか」
「ええ、それを見てから町の皆の印象が変わったようで……ヨザキ様はサーベラス家の剣であることがよく分かったようです」
確かに熱狂が伝わってくる。
「おお! 見ろよ! あの純人があの聖光剣士の中身だぜ!」
「アコお嬢様の剣だ! 俺たちのヒーロー!」
「俺は信じていたんだ! やっぱりあの純人は悪いヤツじゃなかった!」
俺のことを最後まで疑っていたヤツまで……
手のひら返しの理由はこれが原因か。
「なんだかなぁ……」
【民衆なんてこんなものですよ、熱しやすくて冷めやすいものです】
とはいえ今はこの熱を利用しないと行けないわけで。
この中から冒険者が……は難しくだろうから、町が一丸となって冒険者たちをサポートしてくれるような関係になれればベストだろう。
冒険者たちをサポートする町。
そんな形になればいいのだけれど……
「少し広くなったか?」
「ええ、これからは冒険者ギルド兼、タコの満腹亭ですからね、あのままで手狭かと思い、拡張しました」
確かに少し広くなっている……具体的には席が増えたし、なにやらカウンターも増設されている。
そのカウンターには……
「おお、あなたが聖光剣士様ですか! ボクはルーウともうします」
羊のような少年が。
モコモコとした体毛といい角といい、まさに羊のようだ。
この少年は……?
「ボクは商人ギルドから派遣されてきました! 冒険者ギルドを運営していくために必要なもの全部用意しましたよ! どうです!?」
へぇそう言えばソマリが昨日の内から商人ギルドの人員を派遣したって言っていたが……
彼だったのか。
だが。
「……なぁ、こんな小さな子で大丈夫なのか?」
「それは問題ありませんよ、ヨザキ様、こう見えて彼はなかなかしっかりしています」
そうなのか?
「そうですよ! ボクに任せて下さいね! あ、そうそうヨザキさんにはこちらを……」
そういってなにかを手渡してくれた。
これは……?
「ギルドカードです! 一応、聖光剣士スノーロータス用と、ヨザキさん用の二枚を用意しておきました! この町の人には正体がバレちゃっていますが……他所の人には秘密なんですよね!」
「お、おお……ありがとうな」
そうなんだよな。
この町の魔族たちには俺の正体がバレているんだよな。
一応、口外しないよう命令がサーベラス家から出ているそうだけど……
人の口に戸は立てられないしなぁ。
「で、お嬢様たちは……シチュー食べていきますかな?」
「無論だ! アウカックのシチューが食べたくて戻って一旦戻ってきたところもあるからな!」
おいおい。
いや、俺もあのシチュー好きだけどさ。
実際は冒険者ギルドがどんな感じなったのかを見に来たはずなのだが。
「一旦……? 一旦ということはまたどこかへ?」
「ああ、シチューを食べ終えたら今度はネハコへ行く予定だ」
「今度はネハコですか、あそこにも冒険者ギルドを?」
「ああ、大きな町となるとあとはあそこぐらいだからな……あとは小さな村々もあるが、そこには一応警備隊を送っているが……」
あの警備隊かぁ……
まぁ俺が来るまでの時間稼ぎや、避難誘導くらいは出来るかな。
そのあとで俺が倒せばいい。
そうやって倒して……ルクス硬貨を集める。
あ、そうだ。
「確か……無数の閃光の剣よ我らが敵を貫け、ルクス=ブレードTypeディスポーザブル」
【光剣を千本ほど用意しましたけど……どうするつもりですか?】
「渡しておくのさ、これ、モンスターに刺さないかぎりは消えないだろ?」
【ええまぁ、永続というわけではないですけど、最大一ヶ月は持つはずです】
光剣を空中ではなく手元に呼び出す。
この光剣、見た目は一本しかないように見えるが実は何本も、具体的には千本も重なっているのだ。
使うたびにちょっとずつ薄くなっていく使い捨て仕様となっている。
これだけあれば充分だろう。
使い捨て光剣にはこういう使い方もある。
【歴代所有者はこうやって擬似的に二刀流をすることもあったようです】
【まぁ、知っているとおもいますが、実際のところ二刀流ってそんなに強いわけじゃないんですよね、使い手の技量が一刀流以上に求められますし】
俺が二刀流で戦うのは……先の話かな。
「ルーウ君、この光剣を預けておくよ、買い取ったモンスターの遺体はこれでルクス硬貨に変えられるはずだ」
「おお! これが……! 足場にしていた光剣ですね! わかりました、ちゃんと預かっておきます!」
こうすれば効率よく俺が戦わずともルクス硬貨が集められるってわけだ。
この調子で集めよう……
現在のルクス硬貨は小ルクス金貨一枚、ルクス銀貨一枚、ルクス銅貨四枚、小ルクス銅貨五枚。




